2.3地域の戦いの予想

 両軍とも、それぞれの地域での戦い方は異なる。3つの地域の戦い方を、以下のように予想する。

(1)現在の接触線からドニエプル川までの地域

 ロシア軍にとっては、前方にはウクライナ軍、後方にはドニエプル川がある。

 都市へルソンは、ドニエプル川に接して位置している。ウクライナ軍がこの都市を占拠すれば、大都市を奪還したという宣伝効果は大きい。

 他方、ロシア軍は川を背にして戦わなければならず、後方へは逃げられないことを意味している。装備品を身に着け銃を背負って泳いで渡ることは不可能だからだ。

 現在では、後方に繋がる橋梁は破壊されていて、工兵の浮橋を使って重火器や兵員を後退させている。

 逃げ遅れれば、ウクライナ軍の捕虜になり、兵器も鹵獲される。

 へルソン陥落は時間の問題と見られている。この地での戦いでは、多くのロシア兵が逃げ遅れ、捕虜になるだろう。

(2)ドニエプル川から半島の付け根までの地域

 ドニエプル川が最大の障害になる。ドニエプル川を挟んだ戦いが、今後の戦闘の将来を占う。

 ウクライナ軍がここの渡河が成功して橋頭保(渡河攻撃の際、渡河部隊がその後の作戦に必要な地歩を確立するため、対岸に確保する地域をいう)を占拠すれば、南部での戦いの大きな山場を越えたことになる。

 ロシア軍から見れば、ウクライナ軍に安全に渡河されてしまえば、半島まで突進されてしまうからだ。

 この後の戦いは極めて難しいものになる。逆に、ロシア軍がここで守り切れば、ウクライナ軍の反撃を止められる。

 ウクライナ軍が橋頭保を確立した後は、ロシア軍防勢作戦の流れは、2つに分かれる。

 一つは、東部と繋がるザポリージャ州から東部ドンバス方向と、もう一つは南部の半島方向になる。

 ロシア軍の主力が、ザポリージャ州に退却すれば、半島の防衛は不可能になる。

 半島に逃げ込めば、袋のネズミ状態になる。

 そこで敗北すればロシアに逃げられないので、戦死するかあるいは捕虜になるかの2つの選択しかない。

ウクライナ軍の半島までの攻勢作戦構想(イメージ)

出典:筆者作成

(3)クリミアの付け根から半島全域

 半島の付け根には、湖沼が多く存在する。

 ウクライナ軍の南下を阻止しやすい障害だ。問題なく通過できるのは、西部の狭い部分だけだ。

 だが、その湖沼は塩湖で深さは浅い。兵士が徒歩で通過できる箇所もある。

 ロシア軍は、半島の付け根の入り口の戦闘では、海空軍とミサイルを合わせたすべての戦力を集中して運用する。

 大量破壊兵器(汚い爆弾)を使うとすれば、このポイントだ。

 なぜなら、ここで敗北すれば、半島を保持しておくことが不可能となるからだ。

 ウクライナ軍がここを通過して半島内に侵入すれば、ロシア軍の半島内での防御は難しい。なぜなら、半島全体の地形は南部の丘陵を除き平坦であり、防御しやすい地形ではないからだ。

 他地域からの支援も得られないことから、長期間防御することは不可能である。

 半島を守備するロシア軍が後退するにも逃げ場はない。そして、多くのロシア兵が捕虜になることが予想される。

 半島に価値があるのは、ウクライナが奪還すればこの戦争の勝利を意味し、ロシアが守り切って保持すれば、ロシアの勝利になるからだ。

 もしも、ロシアが守り切らなければ、ウラジーミル・プーチン大統領の敗北になる。このため、この地の戦いは、両軍の総力戦になる。

 ロシア軍は、海軍艦艇を投入してでも、多くの犠牲を払っても守り抜く方策をとるであろう。

 ウクライナ軍も、へルソン攻撃に時間をかけているのは、半島まで突進するため、周到に準備を行っているとみてよいだろう。冬の前の一大決戦の可能性が高まっている。