Q6:COVID-19ワクチンの種類、効果、副反応は
日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について Q&A
-患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第1版-
Q6:COVID-19ワクチンの種類、効果、副反応は
新型コロナウイルスワクチンには殖やしたウイルスを不活化しウイルス全体を抗原とする不活化ワクチンとスパイク蛋白のみを抗原とするものがあり、後者は精製したスパイク蛋白そのものを接種するもの、スパイク蛋白に翻訳されるmRNAを接種するもの、スパイク蛋白をコードするDNAをプラスミドまたはウイルスベクターに取り込ませて接種するものに分けられます。日本で輸入を予定している3つのワクチンの内、2021年2月より接種が始まっている米国ファイザー社とドイツのビオンテック社とが開発したワクチンBNT162b2(商品名 コミナティ)とモデルナ社が開発したワクチン(以下モデルナ社ワクチン)はSARS-CoV-2のスパイク蛋白をコードするmRNAワクチンです。mRNAとポリエチレングリコール(PEG)複合体が脂質二重膜につつまれており、筋肉注射により筋肉細胞の細胞質に取り込まれスパイク蛋白に翻訳されます。RNA自身にTLR7などを介したアジュバント効果が期待されるため、これまでのワクチンと異なりアジュバントが含まれていません。3~4週間の間隔をあけて2回接種することで抗体価を上げます。懸念されていた抗体依存性感染増強(ADE)の誘導は報告されておらず、効果も約95%とインフルエンザワクチンなどと比べてはるかに高い有効性が示されています。米国ではどちらのワクチンも2020年12月にはFDAの緊急使用承認を受けすでに接種が開始されています。安全性については、接種直後のアナフィラキシーショックやアレルギー反応がインフルエンザワクチンより高い頻度で報告されています。BNT162b2では100万回に13回、モデルナ社のワクチンでは100万回に2.5回の割合でアナフィラキシーを生じたと報告されています。日本でもBNT162b2の接種が開始され、2021年3月18日時点では約50万回接種されています。3月11日までに37件のアナフィラキシーと思われる事例が報告されていますが、ワクチン分科会副反応検討部会で検討された17事例のうち、ブライトンの基準で3レベル以上は7件でした。PEGは化粧品などに多く含まれており、女性でアナフィラキシーやアレルギーが多いことからワクチン成分のPEGが原因であるとの仮説が提唱されていますがまだ検証はされていません。英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、過去にワクチン接種で重大なアレルギー反応が現れたことのある人は接種しないよう勧告しています。また、mRNAは分解されやすいため低温での保管が必要です。特にBNT162b2は-80℃で輸送、長期保存する必要があり、-25~-15℃での保存は最長14日間、解凍後は冷蔵庫内(4-8℃)での保管期間は5日間とされています。モデルナ社ワクチンは解凍後冷蔵庫内(4-8℃)で30日間保存出来るとされています。
日本が輸入を予定している3つ目のワクチンは、英オックスフォード大学とアストラゼネカ社が共同開発したアデノウイルスベクターワクチンで2020年12月末に英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)により緊急承認され、すでに接種が開始されています。このワクチンは前者2つとは異なり、チンパンジーの風邪ウイルス(アデノウイルス)ベクターにSARS-CoV-2のスパイク遺伝子を組み込んだもので、筋肉注射によりウイルスベクターが筋肉細胞核内に取り込まれmRNAに転写された後スパイク蛋白が産生されます。比較的安価に大量生産が可能で冷蔵庫(2~8℃)で保管できるなどのメリットがあります。治験での有効性は平均70%とmRNAワクチンよりは低めでしたが、初回に指定の1/2量を投与した群では90%の効果があり、現在追加の治験が実施されています。またアストラゼネカのワクチンは2021年2月に承認申請が厚労省に提出されており、ワクチン原液は第一三共が輸入し容器に充填し供給する準備を進めています。
その他、米ジョンソンエンドジョンソン社はヤンセンファーマが開発したヒトアデノウイルス26型ベクターにスパイク遺伝子を組み込んだワクチンの緊急使用の承認を2021年2月米国FDAより受けています。このワクチンは他のワクチンと異なり1回接種で66%の有効性を示し、85%の重症化予防効果を示しています。日本でもヤンセンファーマの日本法人が臨床試験を進めています。また、米国のバイオテクノロジー企業ノババックス社は昆虫細胞で作らせた精製スパイク蛋白に同社独自のアジュバント「Matrix-M」を添加したワクチンを開発し、2021年5月の緊急使用承認を目指してFDAへの申請を準備中です。武田薬品はノババックス社と提携し、国内でワクチンを製造販売する計画を発表しています。武田薬品は前述のモデルナ社mRNAワクチンも国内で製造販売する計画を発表し2021年3月に厚労省に承認申請を提出しています。国内企業によるワクチンではアンジェス社がプラスミドDNAを使ったワクチンの第2/3相試験を2020年12月に塩野義製薬は国立感染研との共同開発で精製スパイク蛋白を抗原とするワクチンの第1相試験を2020年12月に開始しています。また、ロシア、中国などで開発されたワクチンも接種が開始されています。ロシアは第3相試験なしに世界に先駆けて2020年8月にワクチン(スプートニクV)を承認したことが問題視されていますが、1回目と2回目で異なる型(26型と5型)のヒトアデノウイルスベクターを用いることでアデノウイルス蛋白に対する免疫反応を抑えるよう工夫されており91.4%の有効性を発表しています。中国ではシノファーム社とシノバック社などが従来型の不活化ワクチンを開発しています。シノファーム社ワクチンはUAE、バーレーンで86.1%の有効性が示され緊急使用が承認されています。
これらのワクチンは全て武漢で見つかったウイルス株を元に作られており、中和抗体の標的となるスパイク遺伝子の変異が多く蓄積したウイルスに対してはワクチンの効果が低下する可能性があります。
主なワクチンの特徴
製薬企業など | 名称 | ワクチンタイプ | 接種方法 | 備考 |
ファイザー | BNT162b2 製品名「コミナティ筋注」 |
mRNA | 筋注2回、21日間隔 | 緊急使用承認済み、輸入中 |
モデルナ | mRNA-1273 | mRNA | 筋注2回、28日間隔 | 緊急使用申請中(武田薬品) |
アストラゼネカ | ChAdOx1 | ウイルスベクター (チンパンジーアデノウイルス) |
筋注2回、4-12週間隔 | 緊急使用申請中(第一三共) |
J&J | Ad26.COV2.S | ウイルスベクター(ヒトアデノウイルス26型) | 筋注1回 | ヤンセンファーマ |
ノババックス | NVX-CoV2373 | 精製蛋白(昆虫細胞で産生) | 筋注2回 | 武田薬品 |
シノファーム | BBIBP-CorV | 不活化ワクチン | 筋注2回 | 輸入予定なし |
ガマレヤ疫学・微生物研究所 | スプートニクV | ウイルスベクター[ヒトアデノウイルス26型(1回目)・5型(2回目)] | 筋注2回 | 輸入予定なし |
ワクチンを接種後はCOVID-19発症や重症化が予防されることが示されていますが、感染予防に関するデータは十分に得られていません。ワクチン接種者でも不顕性感染により感染を拡大させる可能性が残っており、ワクチン接種後もマスクをすることが推奨されています。
新型コロナワクチンについてのQ&A|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
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