テキサスの天然ガス、マイナス価格に 増産と輸送力不足
【ヒューストン=花房良祐】米国テキサス州西部の天然ガス価格がゼロ近辺まで急落した。海外メディアによると一部ではマイナスで取引されたもようだ。シェールガスの生産が好調な一方、消費地へ送るためのパイプラインなど輸送インフラが不足しているためだ。貯蔵・処理コストなどを考慮するとマイナスでも売却した方が得策と生産者が判断した。
金融情報会社リフィニティブによるとテキサス州西部などに広がるシェール開発が盛んな「パーミアン盆地」のガス価格「ワハハブ」は25日、100万BTU(英国熱量単位)あたり0.02ドルとほぼゼロに低下した。南部ルイジアナ州のパイプライン集積地で、米国内で最も活発に取引される「ヘンリーハブ」の価格は5ドル前後で推移しており、差が開いている。
欧米メディアによると、一部ではマイナス2.25ドルと、ゼロ以下の取引もあったもよう。マイナス価格では事実上、生産者が買い手にお金を払ってガスを引き取ってもらったことになる。ワハでの取引価格がマイナスを付けるのは2020年10月以来。19~20年にも複数回マイナス価格での取引があった。
異例の安値はパーミアンでシェールガスの生産が活発化する一方で、都市部の消費地などにガスを輸送するインフラが不足しているために生じている。パイプラインの建設は当局の許認可や用地取得に時間がかかり、完工まで数年かかる場合もある。ガスの増産にパイプラインの完成が追い付かないと、余剰なガスが生産地に蓄積し、価格の下落圧力が強まる。
米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の天然ガスの生産量は7月に月次で過去最高を更新した。テキサス州とその周辺地域でシェール開発が続く。温暖化ガスの排出量が他の化石燃料に比べて少ないガスは強い需要がある。国際的な排出削減の旗振り役であるケリー大統領特使(気候変動問題担当)も「ガスはエネルギー転換に必要」と話す。
シェールガスの円滑な出荷増に向けては新規のパイプラインだけでなく、液化天然ガス(LNG)プラントの建設投資もカギを握る。21年半ばから相次いで欧州と中国の企業が米国で計画中のプロジェクトと大量の長期契約を結んでおり、開発企業は投資を決定しやすい状況になった。
ロシア産ガスからの依存脱却を目指す欧州連合(EU)は米国や中東からLNGの輸入を増やし、足元のガス貯蔵率は約94%となった。今冬は乗り切れるメドがつきそうだが、23年以降の需給も綱渡りが続く。米国のエネルギーインフラは、欧州やアジアの安定調達を左右するだけに、今後も整備状況に注目が集まる。
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