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メディアが伝えない!新型タバコのリスク 大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部・部長補佐 田淵貴大氏

田淵貴大氏
田淵貴大氏
紙巻タバコのリスク:一日当たりの喫煙本数(横軸)と虚血性心疾患リスク(縦軸)
紙巻タバコのリスク:一日当たりの喫煙本数(横軸)と虚血性心疾患リスク(縦軸)
筆者が取り組むJACSISxJASTIS研究プロジェクト:オンラインミーティングの風景
筆者が取り組むJACSISxJASTIS研究プロジェクト:オンラインミーティングの風景
 紙上講座第5回目は「子どもの健康」と「依存症」をテーマに最新の知見を紹介します。

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 日本では加熱式たばこの流行が問題になっています。加熱式たばこは、従来の紙巻きたばこのようにタバコ葉に直接火をつけるのではなく、タバコ葉に熱を加えてニコチンなどを含んだエアロゾル(微粒子)を発生させる方式の新型たばこです。実は、世界で最初に加熱式たばこが販売された国が日本であり、2016年10月時点で、その加熱式タバコの販売世界シェアの96%を日本が占め、最近でも世界シェアの大部分を日本が占めています。

 どれだけの人が加熱式たばこという新型たばこを使っているのでしょうか。日本在住の男女を対象としたインターネット調査により、加熱式たばこを使用する人の割合は、2015年に0.2%だったのが2017年には3.6%、2019年には11.3%に激増したことが分かりました。

 世の中の多くの人は、たばこ会社による加熱式たばこの広告をみて、新型たばこに換えることによって「病気が減る」、さらには「ほとんど病気にならない」と誤解しているようですが、加熱式たばこから発生するエアロゾルは有害だと考えられます。加熱式たばこを使用した場合のニコチン摂取量は、従来の紙巻きたばこと比べほぼ同等かやや少ない程度であり、一部の発がん性物質は紙巻きたばこと比較すれば少ないものの、たばこ以外の商品では回収になるレベルです。

 新型たばこのリスクを評価するために、これまでに数多く実施されてきたたばこの害に関する研究が役に立ちます。受動喫煙および喫煙本数に応じたリスクを評価する研究により、少しのたばこの煙への暴露や1日1本の喫煙でも循環器疾患などの病気になるリスクが高いと分かっているのです(図)。たいていの喫煙者は1日当たり20本のたばこを吸います(ニコチンの血中濃度を維持するために30分~1時間おきに1本のたばこを吸うようになるからです)。1日20本の人のリスクは約1.8倍(80%のリスク増)で、喫煙本数がその4分の1、1日5本の人のリスクは約1.5倍(50%のリスク増)でした。1日5本の人のリスクは、1日20本の人の約63%(50÷80×100=62.5%)のリスクです。喫煙本数を4分の1にしても、リスクは半分にもなりません。

 肺がんリスクの研究からも、喫煙本数が多いことよりも、喫煙期間が長いことがよりリスクを高めると分かっています。喫煙本数を減らしたとしても喫煙期間が長ければ、肺がんリスクは大きいのです。さらには呼吸器障害や循環器系障害を調べた動物実験などにより、加熱式たばこと紙巻きたばこの有害性に差がないとする研究結果が報告されてきています。

 こういった情報を総合して「加熱式たばこを吸っている人のリスクは、紙巻きたばこよりも低いとは言えない」と考えられます。米国の専門家も同意見のようです。米国では、たばこメーカーが自社の加熱式たばこを「リスク低減たばこ」として米国食品医薬品局(FDA)に申請し、メーカーが提出した科学的資料に基づき審査されました。2018年1月のFDA諮問委員会では「加熱式たばこが紙巻きたばこに比べてリスクが低いとは言えない」と、メーカーの主張は退けられました。9人の委員のうち、8人(1人は棄権)が「紙巻きたばこから加熱式たばこに切り替えても、たばこ関連疾患リスク(病気になるリスク)を減らせない」と回答しました。

 上記は加熱式たばこによる能動喫煙の害について述べたものですが、受動喫煙に関しては話が複雑で、現実に起きていることに注目すべきだと考えています。新型たばこでは副流煙(吸っていない時にたばこの先端から出る煙)がないため、受動喫煙は紙巻きたばこと比べれば少ないです。加熱式たばこの場合、屋内に発生する粒子状物質の濃度は紙巻きたばこの数%というレベルです。しかし受動喫煙がまったくないわけではなく、新型たばこからもホルムアルデヒドなどの有害物質が放出されます。

 もともと屋内で紙巻きたばこが吸われていたのを新型たばこに完全にスイッチできれば、受動喫煙の害だけは減らせるかもしれません。一方、もともと禁煙だった場所なのに、加熱式たばこが使われるようになるケースが続出しています。もともと自宅内ではたばこを吸わないルールだったのに、加熱式たばこならいいだろうと言って、禁煙から加熱式OKへと後退してしまうケースです。その場合には、いままでなかった受動喫煙の被害が発生してしまいます。家庭の場合、子どもや家族が受動喫煙の危険にさらされることとなります。

 国際がん研究機関(IARC)は、科学的根拠に基づき、「たばこの煙」自体を有害物質(発がん性物質)だと判定しています。実はこれまでの50年以上にわたるたばこ煙のリスク研究全部をもってしても、たばこ煙の有害性のメカニズムは完全には分かっていません。途中のメカニズムには不明な点もあるが、たばこの煙を吸うと肺がん、心筋梗塞や脳卒中などの病気になってしまうと分かっているのです。ここで重要になる予防の観点は、途中のメカニズムがどうであろうと、とにかくたばこの煙を吸うことを防ぐことができれば、病気を防げるということです。新型たばこからも同様に「たばこの煙」が出ていると分かっています。予防すべき対象は、新型たばこも含めた、すべての「たばこの煙」だと考えられます。

 新型たばこ時代の禁煙とは、新型たばこも含めてたばこをすべて止め続けることです。「禁煙し続けてもらう」のは大変なことであり、我々は禁煙支援・禁煙指導を継続的に繰り返し実施していく必要があります。

JACSISxJASTIS研究WEBサイト
https://takahiro-tabuchi.net/jastis/
https://takahiro-tabuchi.net/jacsis/

(2021年09月04日 15時55分 更新)

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