■実はモデルがいた!?大人気「男の娘キャラ」誕生秘話

ーーブリジットはどういった経緯で誕生したのでしょうか

石渡氏は「GUILTY GEAR」シリーズ生み親で、全シリーズの制作に関わる

石渡氏:
「GUILTY GEAR」をアーケードで出すようになったとき、新キャラクターを出すにあたって僕の知り合いでヨーヨー世界一の人間がいるんですけど、その人をモデルにして何かキャラクターを作って欲しいという話がありまして。

で、実際にその方が家に遊びに来てくださって、ヨーヨーの技を見せるときに「ちょっと表の公園でやりましょう」という話になって、表の公園で見せてくれたんです。

そしたら公園に集まってきた子供たちがワーッて集まって来て、その人を中心に。そんなすごい光景を見て、キャラクターを膨らませていきました。

ブリジットはヨーヨーを駆使して戦う

ーーヨーヨーが武器になるにあたって苦労などはあったのでしょうか

石渡氏:
ヨーヨーにはいろいろな種類があるとか、どういうものが基本の技なのかというのを学ぶために、実際にスタッフ全員で好きなヨーヨーを買ってきて練習したりしました。ただ痛いんですよ、あれ。もうみんな青あざをつくってやっていました。

片野氏はシリーズ最新作「GUILTY GEAR -STRIVE-」の開発ディレクションを担当

片野氏:

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GUILTY GEARシリーズは剣や刀だけじゃなくていろんなものを武器として戦うことでキャラの個性を出していて、錨とか、ビリヤードのキューとか。そこにヨーヨーが入ってきたというのは、この作品ならではの要素だったかなと思っています。

ーーブリジットは男の娘キャラとして話題になりましたが、どういった経緯でそのような設定になったのでしょうか

石渡氏:
「変わったことをしたい」というのが、僕自身の根本的な発想の源ではあります。何かしら「絶対あれと同じものが作りたい」という強い意志がない限りは基本的には、どっかで見たことがあるようなものだったとしても、何か違うアイデンティティは必ず一つあるというのが基本的な発想ですね。

一ー「少女が殴ったり殴られたりするのはまずいため、男の子にした」という噂話もありました

石渡氏:
いや、当時ブリジットが登場したときにはそこまでコンプライアンスに敏感ではなかったですね。1つ前の作品あたりからは、マーケティングもかなり海外を意識していて、グローバルなコンプライアンスというものを強く意識はしていますが、最初は単純に見た目のインパクトであったり、受ける衝撃だったり、ドラマから得られるエモーションなどを重視していました。

ーーコンプライアンスなどが原因ではなかったんですね

石渡氏:
当時はコンプライアンスというものが、ちょっと僕から見るといびつなものに見えていたことが非常に多かったんですよ。

ブリジットも実はそういう感じのキャラクターの1人で、例えば初代からいる「梅喧」というキャラクターは片目、片腕がないキャラクターなんですけど、そういう設定で出すのはNGと言われたんですよ。どうにもそれが納得できなくて設定を変えろという何か圧のようなものが結構あったんです。

梅喧は初代GUILTY GEARから登場する人気キャラクターで、幼少期に右腕と左目を失う

石渡氏:
ただその設定は絶対に通したくて、キャラ設定にあえて書かないとか、あまり触れないという形で、設定自体はずっと生かしていく選択をずっととってきています。

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実は登場するキャラの一部には、マイノリティの立場の人たちの設定みたいなのを積極的に自分は設定していて、そういう人たちが「ヒーローとして活躍するキャラクター像」というのを僕は作りたかったんですよね。当時はNGだったんですけど、今はむしろ歓迎されているぐらいの気配があるのでそういう設定を公にしていこうというような形になっています。

ーー初登場時のブリジットは自分の性についてどう考えていたのですか

石渡氏:
周りを安心させられるよう、迷惑をかけないように生きるというような時期ですよね。おそらくブリジット自身もその時にはもう「自分は本当は女性なんじゃないか」というようなことを極力考えないようにしていました。

インタビューはアークシステムワークス社内の会議室で行った

ーー当時、社内スタッフも「男の子であることを発売直前まで知らなかった」と聞きましたが

石渡氏:
ありましたね(笑)。当時はスタッフが全員合わせても10人ちょっとぐらいのチームで、主に背景とかを描いてくれているスタッフが趣味で結構同人誌を描いていて。それで「今度こういうキャラクターを作るんだ」と伝えたら、さきがけて自分で本を作り始めたんですよ。ただ後で実は男だということがわかって、「この同人誌はどうしたらいいんだろう」と話していましたけどね(笑)。