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令和元年十二月二日提出
質問第一一五号

中国の習近平国家主席の国賓としての招聘に関する質問主意書

提出者  前原誠司




中国の習近平国家主席の国賓としての招聘に関する質問主意書


 安倍総理は、本年十月九日の参議院本会議において、日中関係が完全に正常な軌道に戻ったという認識を示したうえで、「来年の桜の咲く頃には習近平国家主席を国賓としてお迎えし、首脳間の往来だけでなく、経済交流、青少年交流など、あらゆるレベルでの交流を拡大し、日中関係を新たな段階へ押し上げ、日中新時代を切り開いていく決意です。」と答弁し、中国の習近平国家主席を国賓として招聘する意向を表明している。
 しかし、尖閣諸島周辺海域における中国公船による領海侵入や、東シナ海の日中中間線付近における中国の一方的なガス田開発は継続して行われており、日中間に横たわる大きな懸案事項の解決の見通しは依然として不透明なままである。
 また、香港では、デモ隊と警察の衝突により死者や多数の負傷者が発生しており、混乱は拡大の一途をたどっている。加えて、中国国内では、ウイグル人などの少数民族に対する抑圧や、邦人に対する不当な拘束が行われている。中国を巡る一連の人権に関する憂慮すべき事態については、国際社会もその動向を重大な関心をもって注視している。
 こうした状況を踏まえ、政府が実施に向けて調整を進めている習近平国家主席の国賓としての招聘について、以下質問する。

一 外国の元首等の国賓としての招聘について
 1 外国の元首又はこれに準ずる者を国賓として接遇することについては、外務大臣が宮内庁長官と連絡の上、その請議により閣議において決定すると承知しているが、どのような要素を考慮した上で決定しているのか。これについては、例えば、予算上の制約による年度ごとの件数、当該国における国賓としての招聘の頻度、当該元首等の滞在日程などが考えられるが、一般的に政府はどのような要素を考慮して決定しているか明らかにされたい。
 2 国賓等の招聘の目的は、「日本と被招へい者の国との友好親善関係の増進」であることが、外務省ウェブサイトの「外務省関連の各種招待プログラム」に記されているが、我が国と中国との間には「友好親善」とは相容れない状況も存在する。
  例えば、尖閣諸島周辺海域の我が国領海に侵入する中国公船は、今年一月から十月までの十か月間で百十隻に上っている。また、昨年十月の安倍総理の訪中以降も、新たにガス田の試掘を行ったり、我が国の排他的経済水域内で我が国に無断で海洋調査を行ったりするなど、中国によるこうした一方的な行動は収束する気配がない。
  両国間にこのような状況が存在するにもかかわらず、政府が、日中関係について完全に正常な軌道に戻ったと認識し、さらに、国家主席を国賓として招聘しうるだけの友好親善関係の基盤が存すると認識する理由を明らかにされたい。
二 中国の人権等を巡る状況について
 1 十一月十八日、香港高等法院は、緊急状況規則条例に基づいて施行された覆面禁止規則が香港基本法に違反する旨の判決を下した。覆面禁止規則は、抗議運動の参加者がマスクなどで顔を隠すことを禁じることなどを内容とするが、判決では、同規則による基本的人権の制限が必要な範囲を超えているとの判断が示された。
  香港における司法は、行政や立法と比較して独立性が高いとされており、このため多くの外資系企業が事業展開に際し、これまで香港に拠点を置いてきたという経緯もある。その意味でも、香港における司法の独立は、我が国とも密接に関わるものであるといえるが、「一国二制度のもとで自由で開かれた香港」の維持を重視する日本政府としては、香港における司法の独立の意義をどのように認識しているのか。
  また、今般の香港における民主化運動に際し、習近平国家主席が「一国二制度の原則に重大な挑戦をしている」と述べて強硬姿勢で対処する方針を示し、デモ隊と警察の衝突により死者や多数の負傷者が発生し、邦人も含めて多数の拘束者が出るなど、情勢が緊迫している状況の中で、日本政府としては、現下の情勢についてどのような認識を持ち、また、中国政府に対し、事態打開のためどのような働き掛けを行っているか。
 2 十月二十九日、国連総会第三委員会において、中国がウイグル人などの少数民族を弾圧しているとされる問題が討議され、欧米や我が国を含む二十三か国が中国に人権尊重を求める声明を発出し、中国政府に、中国全土で信教・信条の自由などの人権を尊重する国際的な義務と責任を守るよう求めたと報じられている(二〇一九年十月三十一日付『東京新聞』記事)。
  また、米国のペンス副大統領は、十月二十四日に行った演説の中で、中国政府によるウイグル人への迫害を非難するとともに、「中国共産党は世界に類のない監視国家を築いている」として、新疆ウイグル自治区などに配備されている監視技術ツールを「アフリカや中南米、中東の権威主義体制の国家に輸出している」と批判している。
  このような状況のもと、政府は、ウイグル人をはじめとする少数民族の思想信条、信教の自由などの人権が、中国政府によって蹂躙されていると認識しているのか。
 3 十一月十五日、日本政府は、九月に中国当局によって「反スパイ法」等に違反した容疑で拘束されていた北海道大学の教授が解放されて帰国したことを明らかにした。
  本事案については、安倍総理をはじめとする日本側による強い働きかけがあったとされており、一部報道によれば、「日本政府が、来年四月の習近平国家主席の国賓訪日が困難になると中国政府に伝え、即時解放を求めていた」とされているが(二〇一九年十一月十六日付『読売新聞』記事)、これは事実か。
  また、各種報道によれば、中国では、少なくとも九人の邦人が現在もなお拘束されているといわれている。政府は、いまだ拘束されている邦人の解放に向けて、中国政府に対しどのような働き掛けを行っているのか。
  また、解放の見通しについて、どのように認識しているのか。
三 第五の政治文書の検討について
 日中両政府が、習近平国家主席の国賓としての訪日に合わせて、「日中共同声明」「日中平和友好条約」「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」に続く、五番目の政治文書の作成に向けて検討に入った旨の報道がなされている(二〇一九年十月八日付『毎日新聞』記事等)。
 当該文書については、中国の孔鉉佑駐日本国特命全権大使も講演や紙上インタビューで検討を進めている旨の発言を行っているが、日本政府として作成に向けた検討を開始し、中国と調整を行っているか否か明らかにされたい。
四 習近平国家主席の国賓としての招聘の再検討について
 1 中国の国家主席として公式訪問で来日した江沢民国家主席(一九九八年来日)と胡錦濤国家主席(二〇〇八年来日)は、いずれも国賓として招聘された。
  しかし、二〇一七年十一月に来日した米国のトランプ大統領が「公式実務訪問賓客」であったように、過去の例を見る限り、公式訪問で来日する外国の元首が必ずしも国賓として招聘されるわけではない。
  政府は、いかなる理由で習近平国家主席を国賓として招聘する意向を固めたのか。その判断の基準を示されたい。
 2 我が国に対し、領海への侵入や一方的なガス田開発などを継続して行うだけではなく、国内における人権状況が国際的にも憂慮されている中国の元首を国賓として招聘すれば、我が国がこれらの事態を許容しているという誤ったメッセージを世界に向けて発信することになりかねない。加えて、中国が、自国を巡る憂慮すべき現状を日本が追認したとみなすおそれもある。とりわけ、新たな日中関係を規定する政治文書を作成するに当たっては、新たな両国関係の基盤となる両国共通の現状認識が重要となることから、現状認識に波及する問題についても、熟慮の上、慎重に判断する必要がある。
  また、十一月二十四日に行われた香港区議会選挙では、民主派の圧勝という結果となったが、香港行政長官は、民主派が掲げる普通選挙の実施などの「五大要求」には応じない考えを示しており、さらに、米国では香港の自治と人権の擁護を目的とする「香港人権法」が十一月二十七日に成立し、これに中国政府が内政干渉だとして強く反発するなど、香港情勢は依然として不透明なままである。
  以上のような動向を踏まえ、習近平国家主席の国賓としての招聘について、政府において再検討を行う用意があるか、政府の見解を示されたい。

 右質問する。

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