容疑事実が固まらず
あっせん利得処罰法違反に問うには、政治家や秘書が権限に基づく影響力を行使して口利きをした見返りに、報酬を得ていたことを立証する必要があった。議員立法で成立したこの法律は、審議の過程で与党議員らが要件を厳しくして適用のハードルを高くした経緯があった。法務省刑事局は、その事情を熟知しており、構成要件の勘所を特捜部と協議した。
特捜部は、甘利本人や元秘書、URの担当者らから事情聴取し、関連書類を押収したが、影響力の行使に関する具体的な証拠を得られなかった。そのため捜査は難航した。URが建設会社との交渉に応じたのは、道路工事を請け負ったゼネコンの現場所長が、建設会社を立ち退かせないと工事が進まない、とURに申し入れたためだったことも捜査で判明した。
文春の取材に協力した建設会社の総務担当者はその後退職し、自らも逮捕されることを恐れたか、特捜部の捜査に非協力的だった。
特捜部から捜査経緯の報告を受けていた法務省刑事局の幹部も「(元担当者は)金銭の授受についても『どうだったかな』と曖昧。隠し録音は、文春の取材が始まってから。『ある』としていたそれ以前のものはなかった。法律判断の前提になる事実があやふや。立件は無理だった」と周辺関係者に語った。