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お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 作者:佐伯さん

第四章

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207 ふぇち

 衣装を着替えて教室のロッカーに仕舞った周と真昼は、とりあえず文化祭を巡ろうという事で校内を巡っていた。

 少し食事時を過ぎてはいるが、まだまだ飲食系の模擬店は活発に営業をしている。生徒達の交代時間もこの頃の場合が多いので、むしろ客は増えつつあるかもしれない。


 周達も不馴れな接客で疲労していたしお腹も空いていたので、適当に見繕って食べようと校内を回るのだが……やはりというか、真昼が目立った。

 あのメイドさんだ、という声もちらほら聞こえてくるので、自分のクラスの模擬店は繁盛しているといっていいだろう。かなり人の入りもよかった。


 周からすればあまり心地のよいものではないが、真昼は諦めて、というより慣れたようにスルーしているので、周もあまり気にしすぎない事にした。


「真昼は何が食べたい?」

「そうですね、普段食べないようなものがいいですね」

「普段食べないような、って言ってもなあ。……焼きそばとかたこやき?」


 焼きそばを作らない訳ではないのだが、真昼が味が濃いものがあまり好きでないため、焼きそばは作っても塩味、もしくはあんかけになったりする。たこやきはそもそも焼く機械がない。

 外食もあまりしないので、縁日で売られているようなものにはあまり縁がなかった。


 折角の機会なので滅多に食べないソース焼きそばでも食べようか、と焼きそばを売っているクラスに向かって歩くのだが、途中で聞き覚えのある声が階段から聞こえた。


 屋上に続く階段の方からで、屋上は基本締め切りになっている筈だよな、と思いながら少し階段を登って踊り場を見てみると……最近話すようになったクラスメイトが居た。


「あれ、藤宮くんと椎名さん?」


 不思議そうな声で名前を呼んできた木戸の姿に、周はぱちりと瞬きをする。


 校内にはあまり座る場所がないしここに居る事自体は驚かないのだが……彼女の体勢の方に驚いた。

 木戸の隣には、焼きそばを口一杯に頬張っている男子生徒が居て、木戸はそんな男子生徒に寄り添いつつ手を顎の下辺りに添えていた。焼きそばをこぼさまいとしているのが見える。


「……こんな所で何してるんだ」

「え、見たままだよ。ご飯ご飯。ほらそーちゃん、前言ってた藤宮くんだよ」

「んむ」


 咀嚼しきれていないのかくぐもった唸り声を上げて周を見た男子生徒は、ごくりと焼きそばを飲み込んだ。……のはよかったが急いでいたのか眉を寄せて胸を叩き出した。

 予想していたのか木戸が「しっかり噛まないから」と言いながらお茶のペットボトルを渡している。


 木戸が先に蓋を開けていたので、男子生徒はそのままダイレクトに口の中へお茶を流し込んでいた。


 三分の一ほど飲んだところで、詰まっているものが胃に流れたのかすっきりな表情を浮かべる男子生徒に木戸はウェットティッシュで口元を拭いている。焼きそばを食べていたのでソースまみれだったからだろう、ウェットティッシュにはしっかりと茶色い染みが出来ていた。


 拭かれた男子生徒が微妙に不服そうな顔で「子供扱いしないでくれないかな?」と呟くも、木戸はにこにこしたまま更に拭いている。若干迷惑そうにしつつも彼が拒まないのは、それだけの信頼関係があるからだろう。


「えーと、木戸の彼氏か?」

「お、大正解です。私の幼馴染兼彼氏だよ。ほらそーちゃん自己紹介」

「オレの事、子供みたいに促されないとしない人間だと思ってたのか……」

「そーちゃん人見知りだから。ほら、悪い人じゃないから」

「悪い人なら紹介しないだろうねそもそも。……茅野総司です」


 ぺこりと頭を下げた茅野に、木戸はよく出来ましたと言わんばかりに頭を撫でようとして、払われている。

 それも慣れっこなのか気にしてなさそうな木戸のメンタルは強いなとある意味感心しつつ、茅野を眺める。


 木戸から聞いていたのは筋肉がすごいという情報だけなので、もっと分かりやすく体格がよいのかと思ったが……周より上背があるのは分かるが、制服の上からではいまいち実感できない。むしろ柊の方が体格がいいように見えた。


 一応不躾にとられないようにひっそりと観察したのだが、木戸は周の視線の先が何なのか分かったらしく茶目っ気たっぷりに笑う。


「そーちゃんは脱いだらすごいタイプだからね」

「ぬ、脱いだらすごい……」

「そうなんだよ椎名さん、うちの彼氏はすごいんだよ。うふふ」


 微妙ににやにやした笑みを浮かべた木戸に、あんまり真昼には聞かせない方がいいかもしれない、なんて考えていたのだが、遮ったのは当の本人の茅野だった。


「やめてよそういう自慢は。恥ずかしい。……ねえ、というかオレの居ないところで何言ったんだ。また筋肉自慢したのかな」

「私の彼氏はいい筋肉してるよ、と」

「その自慢やめてほしいんだけど……そんな自慢出来るものじゃ」

「そんな事ないよ! 私にとって世界一だよ!」

「この間テレビでやってたボディービルダー特集でよだれ垂らしてた癖に何を……」

「あっ、あれはたまに食べるおつまみというか……そーちゃんのは主食且つ嗜好品であって必要不可欠なものです! そーちゃんは特別なの!」


 とても大真面目にはっきりと言ってのける木戸だが、周としてはボディービルダーのくだりが気になりすぎてのろけが頭に入ってこない。


(そんなに筋肉好きなのか……よく分からん世界だ)


 真昼はどれかと言えば匂いフェチなので、ある意味木戸と仲良くなれそうな気がしなくもない。彼氏のどこにフェチズムを感じるとか語り合われるのは複雑なので、出来れば本人達が居ない所でひっそりとやってほしいが。


 色々とすごいな、と一歩引いて木戸を観察していたら、何を考えていたのか何となく察したらしく茅野が呆れも隠そうとせずに木戸の頭をぺしっとはたいていて。


「そこまで。向こう引いてるよ」

「そーちゃんが変な事言うからぁ」

「……なんかすんません、うちの彩香が」

「私が悪いの!?」


 不本意だ、という眼差しを彼に向けてこそいるが、ただのじゃれあいの延長なのだろう。

 咎めるように唇を尖らせつつ「このこのぅ」とさりげなく筋肉を撫でている木戸に、周は笑うしかない。


 茅野も悪い気はしていない、というよりはいつもの事なのか好きにさせてやりつつぺこりとこちらに頭を下げて来たので、周も思わず頭をぺこぺことさせてしまった。

 真昼はというと、何やら考え事をしていたのか押し黙っていたが、何故か急にくっついてぺたぺたと周のお腹を触り出した。


「……周くんだって脱いだらすごいです」

「張り合わなくていいしそんなにはない。どちらかといえばつきにくいし」

「私には充分です」


 お風呂あたりを思い出したのか頬を染めながら周に触れてくるので、何でこうなったのかと苦笑いが自然と浮かぶのであった。

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