16.エンチャントなんてあるんですね
既存の全ページ、時間設定修正完了しました。ついでに誤字脱字やら設定おかしいところやら、文章が書きかけになっているところやら……色々修正しました。
話の流れが変わったりはしていないので安心してください。
パーティデビューと称して軽く西側の食肉調達依頼をこなしてみたものの、正直、ヴィオラが一人で倒してしまうので、僕の出番が全くなかった。さすがにウサギ程度に二人がかりで挑むのもおかしいので、ヴィオラの弓の実力を確認する為の時間と言った状態になっている。
そのままゲーム内時間が朝になるまで狩り続けて、空が白み始めてからエリュウの涙亭で二人そろって朝食。朝食も彼女の口に合ったらしく、美味しいを連呼し続け、ついにこの店に通う宣言をしました。ふっ、計画通り。
そのまま師匠のところへ二人で行き、ひたすら魔法の練習。ヴィオラのことは、師匠に紹介したらあっさり見学を許可された。なんかこっちを見てひたすらニヤニヤしてくるので、変な誤解をされている気がする。腹立つなあ。
休憩を兼ねて雑談している最中、ふとヴィオラが口を開いた。
「既存の武器に、魔法の属性を付与することなどは可能なのでしょうか?」
「エンチャントか? まあ出来なくはないが、何の変哲もない武器に、となると一時的な付与しか出来ないな。武器のほうもかなり消耗することになる。
恒久的に付与するには、制作の段階でその属性の魔核を埋め込まねばならん。その上で、使用者が魔力を流せば発動する」
「今度の王都クエスト……いえ、アンデッド殲滅の件で、神官と魔術師の数が足りないと聞いています。私たちの武器が一時的にでも火魔法や神聖魔法の類を使えれば、戦況はよくなるかと思ったのですが……」
「ふむ……そんなに人手が足りないのか。神官はともかく、冒険者ギルドの方には、かなりの人数が集まっていると聞いていたのだが」
「人数自体は集まっていますが、その中に魔法を使える人物がほとんどおりません。以前から活動している冒険者の中で、王都にいる十数名程度、あとはここにいる蓮華くんくらいです」
「えっ」と僕は思わず声をあげた。前から活動している冒険者ってNPCのことだよね……? プレイヤーの中で魔法を使えるのは現状僕だけってこと? ダニエルさんから話を聞いたときに「ほとんど居ない」みたいなことは確かに言われたけれど、さすがに僕だけだとは思っていなかったんだけど。
「だとすると、付け焼刃になるだろうが蓮華にはエンチャントの仕方を教えておくか。ヴィオラの矢にうまく付与出来れば、多少なりともやりようはある。
良いか。矢に付与したところで、与えるダメージは微々たるものだ。だが、矢じりがうまくスケルトンの頭蓋骨を貫通出来れば、内部から燃やし尽くせる。
ここで大事なのは魔力操作だ。ヴィオラの矢に付与した自分の魔力を、獲物に刺さったタイミングで増幅させて、火魔法を使え。
お前はまだ狙いが甘い。距離が離れれば離れるほど外すだろう。だが、ヴィオラが代わりに当てられるのであれば、お前は自分の魔力を辿って燃やすだけで良い。
それから、スケルトンは頭が弱点だ。全部燃やし尽くさなければ死にはしないが、頭を失えば動きが鈍くなる。まあ時間が経てば頭も復活するがな。動きが鈍い間に倒しきれ。
矢に付与するのは火魔法ではなく、お前の魔力だけに留めた方が良い。そうすれば矢が燃え尽きることもないし、むしろ魔力を付与するだけでも、矢が多少は強化される。スケルトンの頭蓋骨を貫くのもやりやすくなるだろう」
そこからはひたすらエンチャントの練習。ヴィオラにも協力してもらって、付与→射る→着火をひたすら叩き込んだ。なんとか形に出来た、と思ったタイミングでヴィオラが一度に五本の矢をつがえはじめたのには唖然とした。鬼畜かな? え、師匠? 爆笑してたよ。そう言う人だよ、あの人は。
§-§-§
「うう、さすがに今日は疲れたなあ……」
「お疲れさま。無理を言ったのは私の方だし、今日の夕飯はおごるわ」
意外と優しい。おっと、失礼なことを思ってしまった。いや、だって第一印象がちょっと怖かったんだよ。表情は怖くて本当に決闘かと思ったし、そのあとの取引もぐいぐい来るし。
でも多分、彼女は俗に言うトッププレイヤーのレベルなのだろうし、王都クエストで戦闘部隊として活躍出来ないのは思うところがあったんじゃないかなあ。
パーティを組む理由をいろいろこねくり回していたけれど、要するに僕が唯一の魔術師系だからどうにか近づきたかった、ってことなんだろうなあ、きっと。それなら納得がいくし。
彼女の言うとおり、イベントが前倒しになったのは僕の行動が影響しているのだろうし、それまでは全力で協力します、罪滅ぼしを兼ねて。
それはそうとして、ずっと思っているんだけれど……彼女の顔、どこかで見た気がするんだよなあ。気のせいかな? でも最近は家から出てないから、知り合いなら絶対に分かる筈。となると、他人の空似なのかなあ。まあ、そもそも僕みたいに自分の顔ベースから全くいじってない人なんていないだろうし、気のせいか。
リリーさんに料理を注文して一息。今朝、ギルドの依頼ついでにそれなりの数のウサギをここにも納品したからか、他のテーブルからかぐわしい肉の匂いが漂ってくる。うーん、なかなかの飯テロ具合。
「……魔核ってなにかしらね。響き的に、魔獣?みたいなのの体内にある核とかかしら」
「確かになんだろうね。王都クエストに向けての簡易エンチャントのことしか聞いてこなかったけれど、今後のことを考えたらそっちも気になるなあ……」
「私も気にはなるけれど、使うときには自分の魔力を流すって言ってたわよね。となると、私には無理ね……。魔力感知が壊滅的だもの」
「でもまだサービス開始二ヶ月半くらいだし毎日練習すればそのうち……」
「……そうだと良いんだけど」
なんか、悪いこと言っちゃったかな? あれだけ弓が上手いし、魔術師にそこまで固執してると思ってなかったから軽いノリで言ってしまったんだけれども……。やっぱり現実世界に存在してないものには、皆
「さっきのエンチャントだけれど、土曜日までにどれくらい出来るようになるかしらね。
さっきも言ったけれど、多分神官と魔術師の数が絶対的に不足しているのよ。私が知らないだけで魔術師プレイヤーがもっと居る、と言うのなら良いけれど、楽観視してたら間違いなくクエストは失敗するわ。
だから、出来たら私だけじゃなくて他の人にもエンチャントしてあげて欲しいけれど……。属性のエンチャントと違って、魔力だけのエンチャントだと、エンチャントした後の貴方の負担が大きすぎるわね。やっぱり現実的じゃないかしら」
「そうだ、それで思ったんだけどね。そのクエストって、達成条件はなんなんだろう? ギルドでの募集は勿論、アンデッドの殲滅。だけど、ここ最近調べた感じ、アンデッドの出現背景としては、この国の貴族令嬢が森で亡くなったことが関係ありそうかなって。
もし、僕がその令嬢だったとして、アンデッドを操って王都に来る理由はなんだろう、って考えると……恨みを晴らしに来るんじゃないかなあ、って思ったんだけど。
正直、馬鹿正直にアンデッドの相手をするよりも、大元をどうにかした方が良いんじゃないか、って言うのが僕の考え。ゲーム的には、そういうことあるのかな?」
「子爵と子爵令嬢と平民男性のいざこざの件なら、私も待っている間にこの店の店主に聞いたわ。
私も貴方の意見には賛成。ゲーム的にも十分有り得ると思う。この規模のゲームなら、複数の展開を用意してそうだしね。じゃなきゃ貴方の行動でイベントが早まったりなんかしないと思うもの。
子爵令嬢がアンデッドを操っていると思っている? 彼女は王都に来て何をすると考えているのかしら。貴方の考えを聞かせて欲しいわ」
「僕の考えは……子爵令嬢は子爵と、平民の青年の二人相手に復讐しようとしてるんじゃないかな、って。勿論、青年に対しては逆恨みはなはだしいけど、彼女としては自分だけが死んで裏切られた気分なんじゃないかな。青年がそのあとここに戻って来て、子爵に殺されたことを知らないと思うから……。
で、僕的には子爵の家と子爵本人と、青年が住んでいた場所と幼馴染み、この四カ所を監視していれば子爵令嬢が現れるんじゃないかと考えている。ヴィオラはどう思う?」
「全面的に同意よ。子爵の家名と見た目についてはさっきジョンさんに聞いてみたけれど、家名はともかく見た目は分からないって。調査が必要ね。王都での住居の場所も分かったから、しばらく見張ってみるわね。
青年と幼馴染みの方についてはごめんなさい、令嬢がそっちも恨んでる可能性を考慮出来ていなかったわ。再度の聞き取り調査が必要ね」
もうそこまで調べていたとは。さすがトッププレイヤー……まあ僕が勝手にそう思ってるだけだけれど。
「じゃあ、青年と幼馴染みの方は僕が調べておくよ」
「ええ、お願い。それから……ごめんなさい、ご飯を食べたら私はそろそろログアウトするわね。さすがに眠くて限界みたい」
「あ、そうだよね。うん。じゃあお疲れ様。イベントまで残り数日、情報集めと連携の練習、両方となると忙しくなるけど頑張ろうね」
「ええ、勿論! 初めてのイベントですもの、絶対に成功させないと。何となく、防衛に失敗したらシヴェフ王国滅亡、なんてこともありそうで怖いものね……」
ああ、そんな可能性もあるのか。怖いなあ。でも、僕もようやく他の人と同じゲームをやってるんだな、って言う感覚が湧いてきてちょっと嬉しいかも。今迄本当にNPCとしか接してなかったしね。
プレイヤーと接するのは怖いな、って思って今迄勇気が出なかったけど、顔は僕のままとは言え蓮華と言うアバター越しに接してるからか、不思議と大丈夫みたい。一種の精神的安全装置と言えば良いのかな。
うん、今ならなんだかいつもと違ったお話も書けそうだな。王都クエストが終わったら篠原さんとの待ち合わせまであと数日ってところだし、張り切って仕事しないとね!
はやいもので、総合評価が7000……え、本当に?
みなさま、ありがとうございます。
これからもよろしくおねがいいたします……!