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吸血鬼作家、VRMMORPGをプレイする。~日光浴と料理を満喫していたら、いつの間にか有名配信者になっていたけど、配信なんてした覚えがありません~ 作者:暁x紅蓮
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Side:???編1

今回は別の人の視点からになります。

名前は未だ明かされていないので、仮で???とさせていただきました。

「ふーん……髪型は違うみたいだけど……どこをどう見てもこの男、私に道を聞いてきた間抜けな吸血鬼よね」


 最近プレイしているVRMMORPGゲームの公式提供の配信サイトを見ながら私は思わず呟く。


 あれはどれ位前だったかしら? 百年? 百五十年? 二百年以上前だった気もするわね。


 私が住んでいた山奥の、エルフの集落を訪れた吸血鬼。けれど、同族は皆、吸血鬼がエルフについて探っていると言う情報を入手していたらしく、集落を捨ててどこかへ消えてしまった。


 私がちょっと集落を離れて狩りをしている一週間の間に……。


「確かに私は落ち零れのクズエルフかもしれないけれど、吸血鬼が迫っているときにも知らせてくれないくらい嫌われているとは思わなくて、しばらく呆然としたわね、あのときは……」


 「魔法が使えないエルフなんて」、「見た目すらも私達とは何一つ似ていない」とよく責められたものだ。最初こそ両親は私をかばっていたけれど……エルフの寿命は随分と長い。そのうち、毎日のように私の所為で責められる生活に嫌気がさしたのだろう。周りの同族と一緒に私を蔑む側に回ってしまった。


「他とは違う私が悪かったのかしら。それとも、いつまでも変化を受け入れることが出来ない同族が悪かったのかしら……」


 私は足手まといにならないよう、弓の腕に磨きをかけた。弓であれば他の誰よりも上手い。そう、自信を持って断言出来るレベルだった。


 けれど、魔法を手足のように使うエルフにとって、弓なんてものは機動力、殺傷能力共に魔法に劣る、あくまでも魔力が切れたときの緊急時や、魔力による影響を周囲に与えたくないときの代替手段でしかない。


 見た目に関してもそうだ。エルフの象徴たる長い耳も、輝くような艶のある髪も私は持たない。あるのは人間そっくりの丸い耳と、これまた人間にはよく見かける、艶のない赤茶の髪の毛だけ。


 だから私は、皆が集落を捨てるその日まで、ついぞ一度も同族に認められることがないまま終わってしまった。


 それこそ、置いていかれた最初の頃は吸血鬼が自分達を探していたせいで捨てられたのだと、名前すら知らない彼を恨んだけれど……。今ならそんなことはないのだとわかる。きっと彼らは別の機会に私を見捨てていた筈だ。


 集落をあとにして、人里に降りてみて初めて気付いたことは、何も無理に同族と一緒に暮らす必要はないということだった。


 自分を嫌いな人達に無理に会わせて、こびへつらってついていく必要はない。自給自足だって出来るのだから、一人で生きていくことだって出来るのだということを、人間の住む地で学んだ。


 それ以来、各地を転々として過ごして――今は日本に居る。サブカルチャーの発展がすさまじく、暇潰しにはもってこいの国だったから。


 頼れる人も友人も居ないし、戸籍も他人のものを買って生活しているけれど。これはこれで誰の顔色も窺う必要がないので、気楽で割と気に入っている。


 でもまさか、こんなところで昔会った人物を見つけてしまうとはね。


「しかも何が腹立つって……この男、ゲーム内とは言え、私が出来なかった魔力感知をさらっと習得して、魔法ももうすぐ使えるようになりそうなところよね」


 事前の下調べで、このゲームの魔法の修行方法は、エルフの修行方法と類似していることを知った。だから私はゲーム内ですら魔法を使うことを諦めて、弓術を選んだのだ。


「しかもしれっと人間プレイだし、日光浴してるし、料理がめちゃくちゃ上手いし……何なのこの男?」


 かくいう私もエルフではなく人間を選んだけれど。ゲーム内でまでエルフなんか見たくもなかったから。


「――この男もそうなのかしら?」


 吸血鬼の自分に嫌気がさしている?


「そもそもなんでエルフを探していたのかしらね……」


 まさか、自分を殺してくれる相手を探していたとか?


 そんな訳ないか。それこそ物語の見過ぎよね……。


「それにしてもこの男、システムメニュー開けない段階で運営に連絡しなさいよね。なんで第三者からの問い合わせで運営が動いてるのよ……相変わらず馬鹿な吸血鬼ね」


 何と言うか、ゲーム初心者と言うより、技術全般に疎そうな気配がぷんぷんする。


 まあでも、私もシヴェフ王国をスタート地点に選んだので、彼の配信はとても有益なのは確か。ゲーム慣れしていないからこそNPCを人間のように扱って、いろいろな情報を得ることが出来ているのでしょうし。


 とりあえず、弓術は対アンデッドとしては絶望的なので、今回の王都クエストについてはエルフの集落で培った薬学の知識をフル動員してポーションを制作し、補給部隊として貢献することにしよう。とは言え、貢献度を大量に獲得するならば、もう一声欲しいところ。


 ……子爵の件について掲示板で言われている通り、裏事情を知っているプレイヤーだけが隠しクエストを達成出来るのであれば、今の内に私もその条件を満たしておきたいわね。


「エリュウの涙亭で食事でもしてみようかしら。蓮華(あの男)の行動にも興味があるし、運が良ければ会えるでしょう」


 そう言えば蓮華はまだNPC扱いだと掲示板で騒がれていたわね……。今回の王都クエストはどうするつもりかしら? 死んでも蘇生出来る保証は無いし、今のところ蘇生系の魔法もポーションも情報は出回っていないし。


 勿論、私もあらゆる手を尽くしてリザレクトポーションの制作を試みたけれど、上手くいっていない。現実にそんなものは存在しないし、知識を活かすにも限度があったし。


「そうねえ……治癒ポーションを個人的に渡す、と言って近付くのも手かしら?」


 彼に配信の話をしない限り、彼のファンに恨まれることもないでしょう。上手くいけば彼の人気にあやかって、私の配信の視聴者数もあがって収益も増えるかもしれないし、仲良くなれればいち早く情報を手に入れられる立場に立てる。まさに一石二鳥よね。


「サブカルチャーを楽しむにもお金が必要だしね、配信で得られる利益は貴重なのよ」


 そうと決まれば今日はポーション作りに専念しよう。少しでも熟練度をあげて、品質の良いポーションが作れれば、貢献度獲得も、蓮華に近付く口実としても悪くない。


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