バロック・ファゴット:ボーカルはリードとともにきわめて重要です
装飾性の高いバロック・ファゴットを復元しています。 オリジナル楽器は、ヘッケル博物館所蔵のデンナー J. C. Denner。
一冊の書籍「オーボエとファゴット」"Oboe & Fagott" (→文献集)のp.43の図にその外形と各ジョイント長のみ記載され、これを基に復元(→こちら)。
●ボーカルは命です
オリジナル楽器のボーカルは本体に挿入された外形のみで詳細データは不明。 図を原寸拡大コピーし各部を計測するも、得られるのは突き出し長と各部の外径のみ。 井戸の深さは不明で、復元設計値の40mmと仮定すると:
‐ 長さ 外周355mm/内周337mm/中心346mm
‐ 先端外径 4.4mm
‐ 底外径 10.5mmあたりか
真鍮管の厚さは薄いと見られる。 テーパー度合は、⊿=1/53あたり。
●適切なボーカル探し
復元楽器の設計値のうち、井戸の深さとウィング・ジョイントの最小径が重要です。 ボーカル底部は、井戸の底で接続されるため、そのつながりが特性に大きく影響しそう。
復元設計値の最小径を9.7mmとしました。 そのため、ボーカル底内径9.7mm、中心長さ346mmに近いものが合いそう。
●ボーカルのパラメータ
2人のファゴット愛好家から計4本のボーカルをお借りしてピッチ測定を行いました。
ボーカルの基本データですが、フォト上から順に:
(1)メック社B32(A=440)デンナー・モデル用ボーカル
長さ345.8mm/底外径10.7mm/底内径9.7mm/先内径3.7mm/⊿=1/58
(2)ロス Leslie Ross 氏のEichentopf用ボーカル1本目
長さ339mm/底外径12.0mm/底内径10.1mm/先内径4.15mm/⊿=1/57
(3)同上 ボーカル2本目
長さ344mm/底外径12.35mm/底内径10.7mm/先内径3.9mm/⊿=1/51
(4)同上 ボーカル3本目
長さ345.5mm/底外径12.4mm/底内径10.6mm/先内径3.9mm/⊿=1/52
●ピッチ測定結果
データ測定用シートに各音に対する乖離度をセントで表しプロット。 縦軸中心はA=415。 上端は半音高い+100セント(A=440)。 下端は半音低くー100セント(A=392)。
(1)デンナー・モデル用ボーカル
最低音B’bから最高音g’#に至り、+ー10セント以内。 みごとにフラットな特性が得られました。 もともとメック社のA=440であり、A=415との差があるはずですが、復元デンナーのボーカルの長さも最小径も同じ値となり、良く合うようです(→こちらも参照)。
(2)Eichentopf用ボーカル1本目~3本目
底内径が10.1~10.7mmと大きく、復元モデルの最小径9.7mmとのつなぎが悪いためでしょうか、随所の音のピッチは大きくあばれています。 各音に合わせるように吹き方を変えるのは苦しそう。
- 1本目 最大ー50/+30セント
- 2本目 最大ー60/+30セント
- 3本目 最大ー30/+56セント
一般的に、用いるリードとボーカルの組み合わせも影響するでしょう。 ただ傾向として、内径段差を伴うボーカルに対し、各音が正しく出るリード調整が可能かはわかりません。
今後は、底径9.7mm、長さ346mm、テーパー⊿=1/58あたりのボーカルの入手/自作をしてまいりましょう・・
【展示会/ワークショップのお知らせ】
この復元ファゴットをはじめ、多数の復元楽器をみなさまに見ていただく展示会/ワークショップを計画しています。 コロナ状況によりますが、見て/触って/音出ししていただけることを期待しております:
(1)2022/10/14(金)-16(日)
2022新・福岡古楽音楽祭「楽器展示の部」 博多市天神 アクロス福岡
(2)2022/11/3(木)
第38回 大倉山秋の芸術祭 演示部門 横浜市 大倉山記念館 第7集会室
(3)2022/11/2(水),4(金),5(土),6(日)
第38回 大倉山秋の芸術祭 美術展(静態展示のみ) 横浜市 大倉山記念館 ギャラリー
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