ミニファミコンの人気は予想以上

――昨年の11月に発売したミニファミコンはかなりのヒットになりました。品薄で買いたいけど買えないという人も相当いたと思いますが、ここまで人気が出るとは予想していましたか?

西 正直、ここまでとは予想していませんでしたね。

丸山 社内でもこんなにヒットすると思っていた人は少なかったと思います。

清水 私は途中から開発に参加したのですが、みんなが想像している数字を聞いて驚きましたね。そんなものじゃないだろう、と。ただ、当時みんなに見てもらっていた段階のものがそんなに魅力的だったかと言うと、そうではなかったんですよ。

西 ソフトウェアもメニューもまだ暫定的なものでしたからね。

清水 ふつうだと、開発が進んで終盤になってくると「これは!」って思えるようになるんですけど、先ほどもお話にあったように開発期間がすごく短かったので、完成品に近いものをあまり見てもらえなかったんですよね。

丸山 かなりタイトなスケジュールでしたからね(笑)。

清水 できあがったミニファミコンを見て、皆さんに「これだったらもっと売れるよ」と言っていただけたのですが、我々もギリギリまで開発段階のものしか見られなかったんですよ。「ハードはいつ来るの?」って言いながら開発を進めているような状態でしたから(笑)。そういうこともあって、ここまでのヒットになるとは予想していませんでしたね。

――開発段階ではミニファミコンのハード自体ができていなかったのですか。

丸山 NESの設計が先行していました。極端に言うと、最初はアメリカとヨーロッパ市場に向けた単発商品としてNESクラシックだけの企画で進めようと考えていたんです。

――国内を考えていなかったんですか。

清水 元々はそうだったようですね。

丸山 ただ、商品の説明がされるうちに、営業部が「日本も売るべきでしょう」と言ってくれまして、「日本ならNESじゃなくてファミコンだよね」ということで、「ミニファミコンが作れるか?」という話になっていったんです。

――ハードの形がまったく違うのに同時進行で作っていくというのは、かなりたいへんそうですね。

西 当然、収録タイトルも変わってきますからね。

――ミニファミコンは手のひらサイズという大きさも特徴的ですが、こちらは製作が決まったタイミングで最初から決まっていたのでしょうか?

丸山 当時、NESクラシックも含めて大きさやデザインの選択肢はいろいろありました。もとが技術研究から始まっているので、オリジナルハードのデザインを踏襲するかどうかも決まっていなかったんですよ。

――企画が進むなかで、いまの方向性に決まっていったんですね。

丸山 そうですね。過去の任天堂ハードウェアの形を模したものという方向性もありじゃないかと。構成上、オリジナルより小さくできることはわかっていましたので、ミニチュアのような見た目の商品にできないか、ということでNESのミニチュア版のモックアップを作ってみたところ、プロジェクトメンバーの中で商品化のイメージが出来て、 方針が決まっていきました。

――ミニファミコンはオリジナルの60%程度の大きさですが、このサイズ感はどのようにして決まったのでしょうか?

丸山 先にNESクラシックのサイズが決まっていて、こちらは50%の縮尺で作ってあるんですね。ただ、ミニファミコンを同じ縮尺で作ると、もともとが小さいこともあって基板の主要部分が収まらなくなってしまうんです。なので、ならば見た目の大きさを揃えようということで、現在のサイズになりました。ですが、コントローラーやボタンは60%のサイズではなかったり、厚みに関してもちょっと縮尺が違うなど、多少のアレンジは入っています。

――NESクラシックだけだったところにミニファミコンが加わって、開発がたいへんだったと思いますが、結果的に当初の発売日から延期されたりはしなかったのでしょうか?

丸山 延期はしていないですね。もともとの予定通りです。

清水 納期を守れ、っていう指令が下っていますからね(笑)。

西 11月の発売日にお客様に何を届けられるか、という状況だったので、いろいろと制限はありました。海外と収録タイトルを変えて地域性を持たせてはいるのですが、開発期間のボトルネックがあるので、ラインアップもある程度は被せてあります。

――社内でもミニファミコンに関わられた人は少なかったのでしょうか?

丸山 Nintedo Switch(以下、ニンテンドースイッチ)の開発が終盤に差し掛かっていたこともあって、開発の力が分散してしまわないように、こちらはできる限り少人数で作ってきました。

西 開発期間が短いぶん、関係者に広まっていくスピードは速かったですね。

丸山 開発にかける時間もそうですが、実際に完成したものを量産するのにも時間は必要でしたから、本当に時間との闘いでした。

――ハードウェアをひとつひとつ生産するわけですから、当然ふつうのソフトを作るよりも時間はかかりますよね。

西 短い期間とはいえ、当初の予定よりはかなり多めに生産していたのですが、それを大幅に上回る需要があったというのが実情ですね。再出荷しても、そのたびにすぐ売り切れてしまって……。

――当時のファミコン世代やいま遊び盛りのお子さんなど、さまざまな層の方がミニファミコンを購入していますが、メインのターゲットはやはり当時ファミコンを遊んでいた方々でしょうか?

西 メイン層はやはり、ファミコン世代の方々ですね。

丸山 ただ意外な反応もあって、「ミニファミコンで初めてボタンで操作するゲームを遊んだ」という声もあったんですよ。いまはスマートフォン向けの、タッチ操作のゲームが多いですからね。それはちょっと意外でしたし、うれしかったです。

清水 あとは、当時ゲームを禁止されていて、遊びたいのに遊べなかったような方々ですね。そういった方が30年越しに買って喜んでいるというお話も聞けて、うれしいです。

――ソフトを1本1本買わなくてもいいというのも、気軽に遊べるポイントですよね。当時のソフト1本ぶんよりも安い値段で買えて、しかも追加機能も付いている。購入した人の満足度は相当高かったと思います。

清水 追加機能についても、短期間でなんとか仕上げないといけないところをハード開発側とソフト開発側とで相談しながら進めていました。たいへんだったよね。

丸山 でも、もう喉元過ぎれば熱さを忘れるじゃないですけど、たいへんだったのかもわからなくなってきました(笑)。完成してよかったです。

――当時はゲームオーバーでやり直しになったり、うっかり本体に足をぶつけてしまってやり直しになったりすることも多かったですけど、今回セーブ機能が追加されたおかげで、昔遊んだユーザーがもう一度遊ぶにしても、新しい遊びかたができますよね。

清水 じつは宮本から「『スーパーマリオブラザーズ3』で“くつクリボー”が出てくる面(※)だけ遊びたいという声をよく聞くんだよね」と言われていて。そういう人もセーブ機能があれば、遊びたいステージだけを遊ぶことができるぞ、と。

※:『スーパーマリオブラザーズ3』のステージ5-3。このステージだけ登場する靴に入ったクリボーを倒すと、靴を奪って通常は踏むことのできない敵も踏める“くつマリオ”になることができた。

――タイトルごとに4つのセーブデータが作れますよね。

清水 ただ最初、宮本は30タイトル全体で4つしかセーブデータが作れないと思っていたらしいんですね。その後、確認の連絡があり、きちんと説明したら安心していました(笑)。これに関してはお客様にも喜んでいただけるものができたと思っています。