パッケージイラストは開発終盤にギリギリで収録
清水 事情と言えば、メニュー画面に並んでいる各タイトルのパッケージも権利関係がかなり難しいんです。バーチャルコンソールでもパッケージは並んでいませんよね。ですので、ミニファミコンやミニスーファミも、最初はパッケージでなくてタイトル画面を表示する予定だったんです。
西 最初はみんな「パッケージなんて入れられるわけないよ」って言っていましたね。
清水 私もそういう風に言われていたのですが、メニュー画面で収録タイトルを横1列に並べると決まったときに、試しにタイトル画面を入れてみたんですね。そうしたら、全部真っ黒なんですよ、タイトルが(笑)。
――当時は黒背景にゲームタイトルが浮かんでいるのがふつうでしたからね。
清水 それを会社で見せたら、さすがに「なんでパッケージが入らないの?」と言われるわけです。そうすると、やっぱりソフトメーカーさんを説得しないといけない。でも時間はない。説得できるかわからないなかでお願いしなければいけないんです。たいへんだったでしょ?
西 たいへんでしたね……(笑)。
丸山 いまになってみると、パッケージがあるのが自然な形なんですけどね(笑)。
――メーカーさんとしても、ソフトの協力がオーケーでも、パッケージに関しては別途確認を取らないといけませんもんね。
西 最悪、難しいものはタイトル画面のままで、一部のタイトルだけでもパッケージにしようという話になっていたのですが、なんとか全社様にご協力いただけて、本当によかったです。
清水 パッケージが入るということで、メニュー画面の枠も縦横どちらも入るように四角いものにしたんですよ。アメリカだと大体のソフトが縦長のパッケージなんですよね。
西 それがちゃんと綺麗に見えるんですよ。でも本当にパッケージの使用許可が下りてよかったです。パッケージの絵がなかったら、画面もさみしくなっていたと思いますから。
――『ロックマン』が海外だと『メガマン』になっていてパッケージがぜんぜん違う、という点もおもしろいですよね。
清水 そこも地域性というか、味ですね(笑)。

ミニファミコンの記事をサイトに載せたら、アクセス数がとんでもないことに!
――海外と違って、日本におけるミニファミコンの発表は発売の直前でしたよね。急に海外でNESクラシックが発表されて、「あれ、日本は?」みたいな感じになったというか。
西 当時はまさかそんな反応になるとは思っていなくて、「日本の生産数足りるかな……」となったんです。
清水 私はROMがマスターアップして、Webマニュアルや広報関係など進めていたのですが、そのときから手応えがあって、絶対に足りないと言っていたんですよ。
丸山 言っていましたよね。でも生産数は早い段階で決まっていて。
清水 メニューの翻訳などの関係で海外のチームと作業をすることもあったのですが、開発が終わったタイミングでちょうど海外の翻訳チームが日本に来ていて、会ったときにいきなり「コングラッチュレーション!」って言われたんですよ。こっちが「何のこと?」となっていたら、「いいものができたね」と。
――うれしい話ですね。
清水 必死にやっていただけでしたからね。そのとき「ああそうか、いいものができたのか」となって。その後、任天堂公式ホームページのトピックスにミニファミコンの記事を出したらアクセス数がとんでもないことになっていて、「これは相当なことになるぞ」という空気ができていきました。
丸山 清水が話していたのもそうなのですが、元開発者で、いまは営業本部長の大和という者がおりまして、彼が「これはお客さんにすごく喜んでもらえる」というようなことを言ってくれたんです。
――作る側と売る側、両方の立場がわかる人の言葉というのはすごく説得力がありますね。
清水 大和は「絶対にTV-CMを作るべきだ!」と言ってくれて、ただ実際に作ったはいいけどほとんど流せなくなってしまったんですよね。品切れになっている状態で宣伝をするわけにもいきませんから。でもミニファミコンが売れると信じてお客様に届けるということを意識して動いてくれたのはうれしいですね。
西 本当に最初から「これは売れる」と言っていた数少ない人のひとりですからね。
清水 作っている最中のものを見てもらったときにも喜んでくれていましたから。そういうときにも手応えというのは感じていました。
――ユーザーとしてはセーブ機能が付いていてこれだけのラインアップがあったら、それはもう売れるだろうという空気でしたが、会社としては懐疑的な部分もあったんですね。
丸山 主力商品であるニンテンドースイッチが控えているなかでしたから、社内的にはあまり注目度は高くはありませんでした。
清水 「これは売れる!」というのは、やっぱりできあがったものを見ているから言えることなんですよ。こちらとしては、ファミコンは任天堂の遺産なわけですよね。なので、ちょっと過剰評価されているかな、という気はしています。もちろんいい製品を作ることができたとは思っていますし、それを評価していただけることはうれしく思います。(後篇に続く)