#01 僕
僕が世界の中心だなんて、そんな
例えば公園で、例えば父が、砂場で遊んでいる娘を見守っているとして、僕が《あの親子の首を入れ替えたい》と念じると、次の瞬間見守っていた父の顔が娘のそれになり、また砂場で遊んでいた娘の顔は父の顔で、父の低い声で「びゅびゅーん」などと喚いて遊んでいる。当の本人達も周りに居る人達も、その変化に気付くことはない。
また例えばコンビニで、綺麗な巨乳のお姉さんが居て、《彼女の胸と自分の胸を交換したい》と念じると、次の瞬間僕の胸に突如重力が発生し体が前に傾く。彼女を見ると先程の巨乳は消失し、その美貌が残念になっている。視線を下ろすと僕の胸には大きな双丘がそびえたっている。
僕がそんな能力に気が付いたのは2年ほど前で、もう僕も高校3年生。僕が通う高校は当時の僕からすれば実験する人がたくさん居る場所だったから、日々誰かと誰かが体を入れ替え、それはもうぐちゃぐちゃになっていた。
僕の能力には幾つかのルールで縛られている。まずは交換というところだ。対象物AとBがほぼ対等であることが条件になっているようだ。『ほぼ』というのが実に曖昧だが、そこには敢えて触れない。
次に、替えられた部分に付属した装飾品もその人の持ち物になるというところだ。例えば僕の脚を女の人の脚と交換したとすると、僕が履いていた靴下と靴も相手の物になり、僕には女の人の脚とパンストとヒールが手に入るということ。
最後に、この能力で入れ替えられた体を誰も気付かず、生まれた頃から当然のように生きているところだ。僕の能力を公の場で見せてもきっと何も起きないのだろう。
「よっ!宮瀬」
「おお、中村」
昔からの親友である
僕は
「数学の予習やった?」と、問いかけると
「あ、今日俺当たるんだった、やっべ!」
と、教室へ胸を揺らしながら走っていった。
遅れて教室に着くと、隣の席の
「はろー宮瀬っち」
彼女は肩から脚が生えていた。というのも河野と仲の良い
「そろそろSTか…」
始業時刻の5分前、そろそろ予鈴が鳴る。今日もまた授業が始まる。
僕の非日常的日常は、僕の知らないところで着実に非日常に変わっていた。