●『ゼルダ』は青沼さんと宮本さんの勝負の結晶!?

『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』は、新要素を加えたディレクターズカット! 新要素からN64版開発秘話までを聞く、青沼英二プロデューサーインタビュー_14

――ちなみに、青沼さんにとっては、オリジナル版の『ムジュラの仮面』は、『ゼルダ』シリーズ初のディレクション作品になるんですよね?
青沼 そうですね。『マーヴェラス』が初ディレクションで、『ゼルダ』で初めて全体を見たのが『ムジュラの仮面』になります。ただ、『ムジュラの仮面』は小泉とふたりのディレクター体制だったので、ひとりでディレクターを担当したのは『風のタクト』が初めてになります。でも、本当は当時、小泉も別のゲームを作ろうとしていたんですよ。それを無理やり、「助けてよ!」って連れてきて(笑)。それで、小泉が「3日間システムを作らせてくれるなら、やる」と言うので、共同でディレクターをしてもらうことになったんです。

――現在はプロデューサーですが、当時といまとで『ゼルダ』への印象などは変わりましたか?
青沼 プロデューサーになると決めたのは、『風のタクト』が終わってからなんですが、それは「このままディレクターを続けたら、いろいろとマズイ」という危機感があったからなんです。

――危機感ですか!
青沼 『ゼルダ』は、毎回毎回新しいシステムを作って、新しいグラフィックにして……という作りかたをしていて。それは、自分で望んでいるものですし、僕個人としてはこれからもそう作るべきだと思っているんですが、それをひとりで抱え込むのはマズイなと思ったんです。というのも、僕はいろいろとやりたがりすぎるんですね。『風のタクト』ではデモシーンの絵コンテを全部切っていましたし、ほかにも「これ、やりたい」、「あれもやりたい」といろいろ言っちゃうんですが、全部をひとりで担当するのは無理で。それで、結果的に途中でスタッフに助けてもらうことになるんですが、これをくり返していたら、いつか破綻してまうと思ったんです。それで、ちょっと距離を置かないとダメだろうと思って、宮本に相談したところ、「じゃあ、プロデューサーになって、ほかのディレクターが作るものを、どうすべきか相談を受ける立場になればいいんじゃないの?」と言われて、プロデューサーになったんですね。……でも、あんまり昔と変わってないかなあ(苦笑)。

――なんと(笑)。
青沼 困ったときには、うまくスタッフの口車に乗せられて、実作業をやっていますからね。『スカイウォードソード』のときは、スクリプト(ゲーム内に表示されるセリフなどの文章)を打つことになりましたから(苦笑)。ただ、プロデューサーはいろいろとやらなくてはいけないことがあるので、よっぽどのことでないと実作業はしません。それに実作業をしていると、毎回自分でこうしたいという想いが生まれてきちゃうので、そういうのはスタッフに答えを出してもらうようにはしていますね。それでもなかなか答えが出ない場合は、アドバイスをするという立場で、自分のアイデアを伝えています。自分で考えるものもいいですが、ほかの人が出す答えもいいなという感覚がおもしろくなってきましたね。

『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』は、新要素を加えたディレクターズカット! 新要素からN64版開発秘話までを聞く、青沼英二プロデューサーインタビュー_15

――確か、『神々のトライフォース2』でも、スクリプトを打たれていましたよね
青沼 最近、僕がスクリプトを打っているのは、スタッフがきゅうきゅう言っている最後の仕上げのときに、宮本が「このシナリオはおかしい」と持ってくるからです(苦笑)。そういう時期は、スタッフもすごく忙しい状態ですし、スケジュールを遅らせるわけにもいかないので、僕が自分で「こういう風にしたらどうですか?」と答えを出すという流れで。……まあ、好きだからやっちゃうんですけど(笑)。でも、最近の宮本は「クドカンはな……」とか言い出すんですよ。連続テレビ小説の『あまちゃん』の中に、宮藤官九郎さんが現場で見たものをシナリオに落とし込んだようなシチュエーションがあったんですよね。それを見て、宮本が「スクリプトはクドカンのようなライブ感が重要」なんて言い始めて。でも、「……ゲームでライブ感のあるシナリオってどんなだろう?」って悩むんです。

――それは難しい(苦笑)。
青沼 うちの場合、シナリオは、デスク上でいろいろ想定しながらドキュメントにして作るわけですが、ゲームはプレイヤーが見て感じた経験などが入るので、ドキュメントだけで作られたものとズレが生じてしまうんですね。ドキュメント上ではプレイヤーが特定のものを見ることを想定した流れを作っても、実際にプレイヤーが見るとは限らない。だから、そこでプレイヤーの心と乖離が生じていると、宮本から「ゲームプレイの流れを考えたものになってない」と突っ込みが入るわけです。あと、キャラクターのセリフはひとりひとりを別に考えるわけですが、たとえばゲーム内で3人の群衆があったら、その3人が互いにバラバラなことを話していたらおかしいですよね。でも、そのおかしさはゲームを動かしてみないとわからないことが多い。だから、そういった宮本の指示を受けて、僕が作るんですが、それを起点としてゲームがいい方向にまとまっていくことがよくあるんです。

――なるほど。
青沼 宮本に言われて、「えーっ」と言いながらも、「その部分を変えると、この後の流れがキレイになるな」と思って、指摘されていないところも変えてしまうんです(苦笑)。そういう指摘を受けると、「ああ、やっぱりあの人はすごいなあ」と思わざるをえないですね。ただ、最近は宮本に言われたことはそのままはやりません。「こうしたほうがもっといいでしょ?」というものを出すようにしています。

――ああ、指摘の上を行くと。
青沼 そうです。言われた部分を直すけど、言われたもの以上にすると。それを見て、宮本が黙ってうなずいたときは、「やった!」となりますね(笑)。

――宮本さんとの勝負ですね。
青沼 はい。そうじゃないと、僕がプロデューサーに立つ意味がないんですよね。宮本がダイレクトに現場を見ればいいということになりますし。

――では、『ムジュラの仮面』オリジナル版を開発していた当時の宮本さんの立ち位置に、現在の青沼さんがいるようなイメージでしょうか?
青沼 うーん。当時の宮本よりは、もう少し現場寄りですね。やっぱり宮本と同じになってしまうと、僕のいる意味がないですから。いまでも僕ならではの立ち位置を探しているところです。ただ、宮本と僕の関係性は、僕がディレクターだったころとあまり変わっていないですね。いまでも同じ距離感で、率直なアドバイスをもらっています。

『ムジュラの仮面 3D』、そしてWii Uでの新作

――今年のE3で発表された、Wii U版『ゼルダの伝説 最新作(仮称)』のお話もお聞きします。かなりの反響があったと思いますが?
青沼 みんなに、コレ(指パッチン)をマネされました(苦笑)。それと、多くの人に「ビューティフル」と言われましたね。新しい『ゼルダ』で広い世界を扱うことに対して、どういう絵作りをしたらいいのかと、いろいろ考えてああいうものになったのですが……。リアルな写実感を重視した現実をそのまま模したようなものではなく、見たことのない、でも、過去に見てきた、日本のアニメーションなどにインスパイアされたものとして、あの絵作りになったんですね。いまは、E3でお見せしたものよりも、もっとすごいものになっています!

――公開された映像には、巨大な敵もいました。
青沼 『ゼルダ』シリーズに、岩を吐いてくるオクタロックというタコのような敵がいますが、あれがレーザーを吐くように進化した敵です。走って近寄りながらレーザーを放つんですが、あれだけすごいスピードで動いてくる敵が追っかけてきて、それを馬に乗って逃げながら攻略するといったことは、いままで遊んだことがないですよね。Wii U版では、「こんな敵が出てきたらどう倒すの?」というものをやろうとしていて、E3ではその片鱗をちょっとお見せしたくらいです。あとは、“『ゼルダ』の当たり前を見直す”というテーマで、いろいろなお約束を変えようとしています。無理に変えるものではなく、でも、ことあるごとに、「違うやりかたがある。答えはひとつじゃないよねと」話をして、みんなに考えてもらっています。ただ、スタッフにも作ったことがないものに挑む恐怖があるので、いいアイデアが浮かばずに悩んでしまうと、いつの間にかどんどん“当たり前”に戻っていってしまうんですよね(苦笑)。そこをスタッフと話しながら軌道修正しています。まだまだチャレンジャブルなことができると思いますので、まさにまだ誰もやったことがないようなものを作りたい。試行錯誤の段階ですが、シームレスに広がる広大な世界で遊ぶ『ゼルダ』とはこういうものかなと、その特徴的なものが見えてきたところですね。来年のE3では、また新しいものがお見せできると思います。

――期待しています! 『ムジュラの仮面』も、当時はほかに見たことのないシステムのゲームでしたから、Wii U版の前に、まずはこちらでその斬新さの片鱗が味わえますね。
青沼 3日間をどう使うかという発想に対して、いろいろな材料が与えられるように手を加えていますので、3日間を遊ぶたびに毎回新たな発見がありますし、そういうくり返しがオリジナル版より遊びやすくなっている、“ディレクターズカット”と呼べる内容になったと思います。いまの人たちが、この独特で難解なゲームに興味をもってくれるか不安もありますが、ほかにはない、ゲームだけでしか味わえない経験がしてもらえるように考えて作っているので、この機会に経験してもらえるとうれしいです。また、つぎのWii U版『ゼルダ』にも遊びのテイストとして、つながっているところがあると思いますので、まずはこれを遊んでください!


ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D
メーカー 任天堂
対応機種 3DSニンテンドー3DS
発売日 2015年春
価格 価格未定