●いまだから話せるオリジナル版『トワプリ』

HD化、新要素、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス HD』へのこだわりに迫るインタビュー! Wii Uの新作『ゼルダ』情報も!?_08

――『トワプリ』オリジナル版の開発当時のお話もお聞きできますか。今回、『トワプリ』を改めてプレイしてみて、リンクは歴代シリーズの中でも屈指のカッコよさを誇るなという印象を受けました。当時は、カッコよさを追求して開発されていたのでしょうか?
青沼 そういう印象を持っていただけたのであればうれしいです。開発チームの中では“カッコいいリンク”を作る、というのが共通認識でした。たとえば、戦闘中にリンクが剣をクルッと回したり、カットシーンで剣を鞘に入れるときに、目の前で交差するように振ったりする仕草も、僕が入れてくれと、リクエストしたものです。ああいった仕草は、僕らが子どものころに見たチャンバラ剣士の決めポーズなんですね。リンクをどう描いたらカッコよく見えるだろうかと、いろいろ考えた結果入れたんですが、ほかにも亡霊剣士を出して、だんだんと奥義をマスターしていくという成長要素も、カッコよさの演出として採り入れています

――オルディン大橋での一騎討ちも、ものすごくカッコいいですよね。
青沼 あれも、『トワプリ』から馬上で剣を振れるようにしたときに、たくさんの敵と戦い合うというのはもちろん醍醐味だけど、それだけではなく、1本道で斬り合うのも絶対にカッコいいと思って入れたんです。その後も、馬車を護衛するところだったりと、ひとつひとつのシチュエーションは、チャンバラや西部劇など、男の子が小さいころに憧れる世界を、形を変えて採り入れました。

――なるほど。リンクのカッコよさや、ダークファンタジーとしての尖り具合などは、シリーズでも屈指のものだと思いますが、その後にWiiで発売された『スカイウォードソード』では、リンクにコミカルな表現が加わって、グラフィック表現も油絵のようになったりと、方向性を変えましたよね。それは、カッコよさの追求は、『トワプリ』である程度達成されたということでしょうか?

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▲『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』。

青沼 達成したというわけではないのですが、『トワプリ』でカッコいいリンクを作ったので、つぎの『スカイウォードソード』ではもうちょっとニュートラルなイメージの、無印なリンクにしたいと思ったんです。ただ、『スカイウォードソード』では、学園もののイメージがあったりして、それでもまだリンクはカッコいいリンクだった。それが、現在作っている新作、先日、ちょっとだけ映像を公開しましたが、あれはわりと無印になっていると思います。僕は、主人公にはプレイヤー=自分の気持ちを乗せた主人公であってほしいという思いを持っているので、メーターを振りきったカッコいいリンクにも憧れるんですが、それとは違う方向性も追求したいなと思っていて、現在はそういうリンクを作っているところです。

――なるほど。作品のリンクの方向性に応じて、絵作りなども変えていくのでしょうか。
青沼 あとは、ゲーム全体の遊ばせかたを、どういう方向に持っていくかということも影響してきますね。『トワプリ』は、運命に翻弄されるリンクという、ある程度道筋があるものをガッツリ作っていこうとしていたので、その場合は無印よりもある程度意志を感じるカッコいいリンクじゃなくちゃダメなんだという、キャラクター性にしたんです。まあ、そういう遊ばせかたの方向性は、集まったスタッフがやりたいもの、おもしろいと思うものに左右されることも多いんですが(苦笑)。

――チームの方向性ですね。
青沼 そうですね。

――そんなカッコよさを極めた『トワプリ』ですが、佐野さんは女性の目から見てどう写りましたか?
佐野 私、感覚が一般的な女性と若干ズレていると言われるので、参考になるかどうか……(笑)。でも、初めて遊んだときに、純粋にキレイでカッコいいなと思いました。あと、前に進んでも進んでも、ちょっとずつ謎が残っている、世界の広がりがよかったですね。どこへ行っても、仕掛けを解いて、「私、頭いいかも!」と錯覚できる、あの瞬間があって。

青沼 “『ゼルダ』らしさ”ですね。

佐野 そして、どのキャラクターも少しずつ欠点があって、完全無欠じゃないところに強く惹かれました。物語もすごく印象に残っていて、イベントを進めるごとに少しずつ世界の謎が解けていく感覚が気持ちよかったです。謎の答えを知りたいから、キャラクターの違う一面が見たいからと、ハイラルを走り続けていたのを覚えています。

――キャラクターの濃さは『ゼルダ』の特徴ですが、『トワプリ』はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)との関係性が濃いイメージがあります。いっしょに戦う場面もありますし。
青沼 今回、フィールドだけでなく、ハイラル城も大きいので、城下町が広いんですよね。それで、NPCが多く出るのに、使わない手はないよねと。昔から宮本が言っているんですが、「『ゼルダ』は人との出会いのゲームだ」と。人との出会いがあって、別れがあって。そういうエピソードが、遊んでいる人の成長感につながっていくと思っています。『時のオカリナ』でも女性との別れが3回描かれますが、宮本は『時のオカリナ』であの別れを絶対に描きたかったと言っていました。『トワプリ』では、別れは意識していないのですが、 行く先々で新しい人たちと出会って、いろいろな方法で関与していくというドラマを入れたいと思っていて。そこは、わりと時間をかけて作りました。

――別れではないけれど、『トワプリ』も出会いを重ねますね。
青沼 はい。『トワプリ』は、NPCのキャラクターも、初期の設計段階から、綿密に打ち合わせをして、具体的なイメージで作りました。僕はディレクション歴はそれなりに長いんですが、登場人物を決めるとき、その人が何をする人なのかは決めるものの、デザインについては、デザイナーに任せることがほとんどなんです。それが、『トワプリ』ではいろいろと細かく指定をしましたね。とくに、テルマというキャラクターは、“大人の女性”らしい雰囲気を漂わせたくて、僕はとある女優さんをイメージして、デザイナーは外国のミュージシャンをイメージして、それを足して2で割ったようなデザインになりました。

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――テルマはいいキャラクターですよね。それにしても、『ゼルダ』はシリーズ作で、いろいろと奇抜な人が登場しますが、『トワプリ』もとても個性的なNPCが出ますよね。アゲハとか、アイテムですけど、おばちゃんとか……。
青沼 先ほど、『トワプリ』はキャラクターデザインに関与したと言いましたが、アゲハとおばちゃんはまったく関与していません(笑)。いつの間にやらできていて。アゲハの場合は、開発当時、ゴシックロリータといったキーワードが世間で飛び交っていたので、「そういうのがあってもいいか」と思っていたんですが、おばちゃんは何がどうしてああなったのか、まったくわからない。いや、経緯は知っているんですけど、ああなる理由がわからない(笑)。

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――『ゼルダの伝説』公式Twitterで、当時の設定資料が公開されていましたが、もともとのおばちゃんの原型は、完成形のおばちゃんとまったく違いますよね。
青沼 はい(笑)。

――あの原型が何をどう経由して、完成形になるのか……(笑)。
青沼 ええと、覚えている範囲で解説をしますと……。おばちゃんたちの故郷は天空都市なんですが、そこにいる人というのは、空を飛べるようなイメージなんですよね。でも、等身大の人間を出して、空を飛べるようにするのは開発の制限的に難しかったんです。それで、人間ではなく動物だな、となるんですが、それとは別に、天空都市のダンジョンとしてのギミックを考えると、そこら中に穴が空いていて落下したりするので、その上を飛ぶのに、フックショット以外の飛びかたをする遊びを入れようという話があって。その中で、リンクが飛ぶ、動物というイメージから、コッコが出てくるわけです。でも、コッコをそのまま出したら、天空都市でもなんでもなくなってしまう。それで、天空都市に出てくる、飛ぶんだけどコッコではないキャラクターとして天空人を作ったところ、それがダンジョン脱出の役目を持ち、おばちゃんという名前で地上にいるという設定がつけられたんです……。ちなみに、おばちゃんという名前をつけたのは、当時のスクリプト(キャラクターのセリフや、アイテムの説明文などを指す)を担当していた京極(京極あや氏。『どうぶつの森』シリーズなどを担当)なんですが、この前、おばちゃんの由来を聞いたら、完全に忘れていましたからね(笑)
佐野 いつの間にか、あのすごくフレンドリーなしゃべりかたのキャラクターができていたと(笑)。
青沼 そうそう。でも、ああいうアゲハやおばちゃんといったキャラクターができるときは、ゲームの開発がいい感じで進んでいるときなんですよね。みんなが“多少遊んでも大丈夫”と思える状況が見えてきている証拠ですので、変なものがどれだけ入っているかによって、その開発が順調だったかどうかわかるんですよ。それだけ、気持ちに余裕があるということですからね。

――それは大事ですね。同じように、マロマートの“カッチャイナー♪”もビックリしました。
佐野 あれは、コンポーザーの峰岸(峰岸透氏。『Splatoon(スプラトゥーン)』のコンポーザーも担当)が、“思わずノリノリで買ってしまいそうな曲”というリクエストを受けて、皆さんお気づきの、例のお店のテーマソングなどを、リサーチしたうえで作ったらしいです。個人的に忘れられない曲のひとつですね(笑)。

――一度聞いたら忘れませんよね(笑)。話は変わりますが、じつは10年前に、オリジナル版の『トワプリ』でインタビューをさせていただいたのですが(当時の記事は→コチラ、当時、青沼さんは「『時のオカリナ』を超えた120%の『ゼルダ』です」とおっしゃっていました。ということは、当時、やはり『時のオカリナ』を意識していたのでしょうか?
青沼 『時のオカリナ』を開発していたときは、初めて『ゼルダ』を3Dにすることに必死で臨んでいたので、僕自身、手掛けているものを冷静に判断できないまま作っているところがあったんだと思います。こんなことを言うと、怒られるかもしれませんが、正直、『時のオカリナ』が当時そんなにたくさんの方に遊んでいただけるとは思っていなかったんですよ(笑)。それまでの『ゼルダ』は、どちらかと言うと、じわじわと広がっていくゲームでしたから。それが、蓋を開けてみたら、発売当初からとても多くの皆さんに遊んでいただける結果となって、改めて『ゼルダ』の可能性に気づいたんです。一方、『トワプリ』のときは、『時のオカリナ』で3Dのノウハウがすでにあったので、明確に自分たちがカッコいいと感じるもの、おもしろいと思うものをすべて詰め込んで作ったんです。マップやダンジョンも広くしてガッツリ作って、“『時のオカリナ』を超えるんだ”という意気込みでやっていたので、意識はしていましたが、超えられたかどうかはわかりません。ただ、意気込みとしては、120%は出し切ったと思います。

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Wii U版『ゼルダの伝説 最新作』について

――今回、ウルフリンクのamiiboに保存した本作のセーブデータが、現在開発中の『ゼルダの伝説 最新作』と連動するという話がありますが……。
青沼 セーブデータではなく、「ウルフリンクのamiiboに保存したデータの一部を、引き継いで新作のほうでも使える」ということですね。人によっては新作を遊んでいると、もう一度『トワプリHD』で遊びたくなるかもしれません。

――そういう連動要素なんですね。その新作の開発状況は、いかがですか?
青沼 忙しいですね。Wiiの『スカイウォードソード』のとき、開発終盤にセリフなどのスクリプトを担当したのですが、現在も似たような状況になっています。今日もスクリプトを打っていました(笑)。ただ、それだけしっかりしたモノになってきて、僕も手が入れやすくなっているんですよ。そういう意味では快調に進んでいます。

――それはうれしい情報ですね!
青沼 キーワードをひとつ明かすと、“新しいモノ”ができているかなと。『時のオカリナ』から3Dの『ゼルダ』を作っていますが、3Dの『ゼルダ』はベースにずっと『時のオカリナ』という秘伝のタレがあったと思うんです。それが、今回は和食が洋食になるくらいテイストが変わっています。きっとユーザーの皆さんにも驚いていただける、『時のオカリナ』のときのような“新しいモノ”ができていると思うので、ご期待ください。

――それだけ、“新しい”と言えるものが見えてきたと。
青沼 そうですね。日々、手応えも増していますし。皆さんのお手元に届いたときには、「あ、そういうことだったのか」と、わかってもらえるものになるかなと思っています。

――では最後に、本作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
佐野 10年前に遊んでくださった方も、今回初めて手に取ってくださった方も、また新たな形でハイラルを楽しめるソフトに仕上がったと思いますので、気軽に触って遊んでみてください。
青沼 『ゼルダの伝説 最新作』を作りながら、このリメイクを見ていると、いま新作でやろうとしていることの原点が、ここにあるように感じるんです。本作をプレイしてから新作を遊んでいただくと、「そうか!」と感じる部分が出てくると思いますので、ぜひ『トワプリHD』を遊びながら、『ゼルダの伝説 最新作』を楽しみにお待ちいただければうれしいなと思います。

――ありがとうございました!