●ハイラルの世界のリアルは“キレイ”ではない!?

――トワイライトの世界は、 ザラザラした質感が特徴ですし、クッキリとキレイに表示されるHD化は大きな苦労があったのでは?
佐野 まさに“フォトリアル(写真の様なリアルさ)にしすぎない”という加減が、難しかったですね。タンタラスさんは写実的に描くのを得意とされているので、最初は写真のような世界になって、ちょっとイメージと違うかなと……(笑)。
青沼 オリジナルの『トワプリ』は、“実写”の世界ではなく、“劇画”の雰囲気を持つリアルさを目指して作っていました。ですので、リンクも人間としてではなく、キャラクターとしてのリアルさを劇画調に極めて作ったんです。
佐野 そのリアルさのバランスは、なかなか言葉や文章にしにくい部分でした。そこで、オリジナル版のアートディレクションを担当していた滝澤(滝澤智氏。任天堂企画制作部所属)に監修してもらい、「ここはあえてぼかしましょう」、「この部分はクッキリ描きましょう」とタンタラスさんに伝えたのですが、言葉の壁があって……。
青沼 “ぼかす”という表現は、日本語だといろいろな意味を持ちますが、英訳すると“フォーカスを甘くする”という直接的な表現になって、なかなかニュアンスが伝わらないんですよね。日本語って便利だなあと(笑)。

佐野 ですから、タンタラスさんとのテレビ会議で、言葉で伝わらない部分があるときは、お互いが絵を描いて伝えていました。フィローネの森の光でぼやける感じを残しつつ、しっかり見える場所が見えているという表現ができたときに、これでイケると。そこから先はスムーズに進みましたね。
――やはり絵だと、伝わるんですか?
佐野 そうですね。100言うよりも描いたほうが断然早いです。でも、逆に絵だとわからず、言葉のほうがわかることもあって、コミュニケーションの難しさが楽しくもありました。
――なるほど。タンタラスの方も『ゼルダ』を熟知していらっしゃるでしょうから、一度感覚が合うと、スムーズに進みそうですね。
佐野 はい。噛み合ってからは、先方もいろいろな提案をしてくださって、楽しく進められました。
――やり取りはメールが多いんですか?
佐野 いえ、テレビ電話を使った会議が多かったです。毎週のように、テレビ電話でコミュニケーションを取っていました。
――では、HD版完成の打ち上げは、タンタラスさんのあるオーストラリアで……(笑)。
青沼 そうしたいんですが、新作があるので……。
ミニダンジョン“獣の試練”は青沼氏から佐野氏への試練!?

――新要素の“獣の試練”ですが、導入した経緯や、意図を教えていただけますか。
青沼 いやー、我ながら、経緯はヒドイんですよ(苦笑)。リメイクに合わせて、「ウルフリンクとミドナのamiiboを作って、新しい遊びを入れようよ」と僕が言ったんですが、肝心の遊びの内容がなかなか決まらなくて。それで、佐野に「何か考えて」と。
――え! 丸投げですか!?
青沼 ほぼ丸投げでしたね(苦笑)。
佐野 急に豪速球が投げられたような感覚で、「受け取りました」しか言えないような(笑)。
――放りっぱなしですからね(笑)。
佐野 それで、どうしようと悩みながら、オリジナル版を遊び直していたら、人間の姿でしか遭遇しない敵でも、ウルフリンクの姿でちゃんと戦えるように設計されている、と気づいたんです。組み合わせを工夫すれば、獣姿だけで楽しく戦える場所が作れるんじゃないかと思って、タンタラスさんに相談したところ、「『ゼルダ』熟練者たちがプレイしても楽しいモノを作ってみせます!」と、頼もしいお言葉をいただいたんですね。そして、できあがったものをプレイをしてみたら、もう度肝を抜かれるくらいの難しいダンジョンになっていて(笑)。
――真の熟練者向きだったんですね(笑)。
佐野 まさに“試練”でした(笑)。ただ、ベースはとてもいい形で作っていただいたので、最後まで細かく難度を調整して。
青沼 タンタラスさんも、HD化だけだと、グラフィックのテイストを調整したりはするけれど、基本はあまりオリジナルに手を出せないので、もっとゲームデザインをしたいという欲求を持たれていたと思うんですよね。ですから、“獣の試練”は、かなりノリノリでやっていただけましたね。
佐野 “獣の試練”は全部で地下40階まであって、下の階に進むほどグラフィックが変わっていくんですが、「そろそろ変化が欲しいな」と思うタイミングで、アクセントとなる変化を入れていただけているので、戦闘だけでなく、見た目の変化でも楽しんでいただけると思います。
――ウルフリンクのamiibo以外にも、ゼルダやシークのamiiboでハートを回復したりできますね。
青沼 じつは、今回、“獣の試練”は僕も発売前にクリアーしているんですよ。珍しく(笑)。amiiboの力を借りたりと、いろいろ手助けはありましたが(笑)。
――(笑)。“獣の試練”は、回復アイテムが出ませんからね。やはり、避けながら戦うのが基本になるのでしょうか?
佐野 そうですね。敵とどのくらいの間合いで戦うかが重要です。人間姿のリンクよりも獣リンクのほうが、 動きが素速いですし、ジャンプ攻撃をするとかなり飛ぶので、その間合いを見極めることがポイントになります。あと獣リンクは、攻撃をする瞬間に、一瞬敵の攻撃を弾く判定を持っているんです。ですから、正面から矢を撃たれても、うまく攻撃すれば弾けるんですね。敵へ飛びつく間合いと、この弾く判定を駆使すれば、先に進めると思います。
――カウンター攻撃のようなイメージでしょうか。
青沼 そうですね。敵が攻撃しようとしてくるのを見たら、瞬時に反応して攻撃を仕掛けるのがポイント。
佐野 相手の行動をよく観察して隙を突くという戦略は、人の姿と変わりませんね。敵をよく観察すると攻撃タイミングがわかると思いますが、ただジーっと見ていると、ほかの敵に襲われるので、うまく立ち回りながら、試行錯誤していただければと。
――後半は、とても歯応えがある難度になりますよね。
佐野 はい(苦笑)。でも、あまりアクションが上手ではない私も、保存した分のハートを回復できるウルフリンクのamiiboを使えば、クリアーできましたから。ちなみに、ウルフリンクに保存したハートは回復で使っても消えませんのでご安心を……。一方、ガノンドロフのamiiboを使うと、受けるダメージが2倍になります。さらに、辛口モードでプレイすれば4倍になるので、もっと難しい試練に挑戦したいという方にも楽しんでいただけると思います。クリアー時の成績表にamiiboを使った階や回数などがクリアータイムとともに表示されるので、ぜひ地下1階で使用してクリアーした証をMiiverseに投稿してください。
青沼 ガノンドロフのamiiboを難度アップに使えたのはよかったですね。今後『ゼルダ』シリーズでのガノンドロフamiiboの使いどころは、そういう役回りになっていくかもしれません。敵役のamiiboは、使いどころが難しいんですよね。
佐野 ほかのamiiboは、ハートや矢の回復に使っていますが、ガノンドロフがリンクを助けてくれるというのもおかしいですし……。
青沼 けっこう悩みましたね。amiiboをタッチすると、アイテムが減るといったアイデアも考えましたが、それじゃ誰も使わないよねと(苦笑)。
佐野 それで、リンクに不利益を与えるけど、プレイヤーの方が結果的に喜んでくださるとしたら、やはり難易度でしょう、といまの仕様に決まりました。タッチすると、ガノンドロフのとてもうれしそうな笑い声が聞けるので、ぜひ一度は使ってほしいですね。
――ほかのamiiboの効果は、救済策として考えられたのでしょうか?
佐野 はい。『トワプリ』は、とくに矢が不足することが多いので、矢の回復は便利なんです。その機能だけ聞くと、とても地味に思えますが、けっこう役に立つと思います。
新たな使い道が生まれた“マジックアーマー”
――“獣の試練”のクリアー報酬はサイフの上限アップですが、あの報酬になった理由を教えてください。
佐野 オリジナル版では最大1000ルピーまで持てたのですが、ルピーを消費する最強の鎧"マジックアーマー"を装備すると、1000あっても、わりとすぐになくなってしまったんです。でも、せっかく最強の鎧があるんだからこそ、もっと長く着てもらい、気持ちよく戦えるようにしたいなと思いまして。それで、9999ルピーまで貯められるようになったら、ユーザーさんにもうれしいと思っていただけるでしょうし、何より、ルピーを貯める楽しみができるかなと思って、この報酬にしました。
青沼 じつは、オリジナル版のマジックアーマーは、開発の終盤に入れたんですよ。というのも、テストプレイをした多くの人たちに「後半でルピーが余る!」と指摘されて。確かに、ゲームの終盤では購入するものも多くないので、ルピーを貯めても使いどころがなくてもったいないという話になったんですよね。それで、最強だけどルピーを消費するという装備を入れたらどうだろうということで入れたんです。ただ、宮本(宮本茂氏。『ゼルダの伝説』の生みの親)だけは、最後まで反対していましたね。「夢がない」と。
――ああ、お金で力を買うような。
青沼 そういうのは、どうかと思うと。でも、そこは“こういうものもあったらおもしろいのではないか”ということで、押し切って入れたんです。それで、じつはこの『トワプリ』のHD版の制作を進めているときに、うちの息子がたまたまオリジナル版の『トワプリ』を引っ張り出して、プレイし始めたんですね。当時は小さくて遊んでいなかったからと。
――それはまた、タイミングがいいような悪いような……。
青沼 家族とはいえ、リメイクしているとは言えませんから、黙って見ていたんですが、まさに終盤でマジックアーマーを手に入れたのに、「お金がもったいない」とか言って、ちょっと使っては外してと、ほとんど使わないんです!(苦笑) そういうユーザーの反応を目の当たりにしていたので、サイフの上限を上げるのはいいだろうなと。
佐野 サイフの上限をアップした、“底なしのサイフ”を追加するだけでなく、通常のサイフも上限をアップさせて使いやすくしています。
青沼 『トワプリ』は、それまでの『ゼルダ』の中で最大級の広さを持っていましたから、いろいろなネタを放り込んで、宝箱もいっぱい隠していたんですが、その結果、ルピーがサイフに入りきらなくなってしまう機会が、想像より多かったんですね。佐野から、その指摘もありましたので、最初からサイフの上限を上げるようにしました。
――確かに、オリジナル版では宝箱からルピーを見つけて、サイフがいっぱいということが多かったように思います。
青沼 そう。しかも、サイフがいっぱいでルピーが手に入らないと、オリジナル版では中身を戻して宝箱を閉めちゃっていたんです。これは、オリジナル版の開発終盤で、テストプレイヤーから「サイフに入っていないのに、ルピーが消費されるのはおかしい」という意見が出て、じゃあ、手に入らなかったら宝箱に戻して閉めようという対処にした結果だったんですが……。 『ゼルダ』は、宝箱を開けた状態が、自分が来た痕跡が残っているという証でもあるんですね。たとえば、ダンジョンで迷ってしまっても、その部屋に入って宝箱が開いていたら、「一度来たんだな」とわかって、進むべき道が絞れると。それが、宝箱が閉まったままだと、訪れたかどうかがわからなくなってしまって。ユーザーさんから「これは『ゼルダ』のセオリーに反する」という意見をいただいたのを、強く覚えていたので、今回はサイフがいっぱいでも宝箱を開けたら開けたままにするように直しました。
佐野 青沼からもらった、リメイクに合わせて直すポイントをまとめたリストで、いちばん上に書いてありましたね。
――サイフの上限アップで、サイフがいっぱいになる機会はオリジナル版よりは減りましたしね。そのほかに、オリジナル版から変更した細かいポイントで、ユーザーに気づいてもらえたらうれしいなというものはりますか?
佐野 ユーザーさんが改善した部分に気づかず、いつの間にかさらりとクリアーしちゃった……という快適さを目指したので、逆に気づかれないほうがうれしいですね(笑)。ただ、ひとつ挙げるなら、今回リンクが立っているときに世界がものすごく広く見えるように、カメラの位置や挙動には、すごくこだわりました。Wii版は16対9のワイド画面でしたが、当時の主流は4対3でしたので、いま見ると世界がとても狭く感じるんです。ですので、初めてハイラル平原に出たとき、世界がパッと開けたイメージが伝わるように、カメラをよりワイド視点にしつつ、ユーザーインターフェイスも邪魔しない大きさ・位置に再構築しました。
青沼 ただ、それによってオリジナル版では見えなかった、見えてはいけないものが見えてしまって……(苦笑)。最後まで、細かいチェックに追われましたね。