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目の前のお皿には、甘い匂いを漂わせる円柱形のケーキが乗っている。チョコレート色に粉砂糖で白くデコレーションされたそれは、姉たちに手伝って貰って作ったフォンダンショコラだ。慎重にソースをお皿に盛りつけ、栗花落カナヲはほっと息を吐いた。 何回も失敗したけれど、なんとかバレンタインには間に合った。試食したカナエもしのぶも美味しいと言ってくれたし、カナヲも自分で作ったにしては良い出来だと思っている。 だがしかし。これをプレゼントする相手は、竈門炭治郎だ。パン屋の手伝いを日常的にしている恋人は、当然ながらパン作りどころか焼き菓子の類までプロ顔負けの出来だ。バレンタイン前に、試作だと貰ったチョコレート味のマドレーヌは、びっくりするくらい美味しかった。あれに敵うとは到底思えないし、高級チョコレートを買うことも真剣に検討したのだが、それを阻んだのもまた炭治郎だった。はにかみながら微笑んで『俺、本命チョコってもらったことなくて。手作りチョコレートに憧れていたんだ』なんて言われてしまっては、とても既製品でもいい?とは聞けなかった。しのぶの『味だけではなく、温度も利用するのはどうです? 熱い、冷たいといった要素も食事には重要ですよ』というアドバイスと『お家で御馳走したらいいんじゃないかしら。炭治郎君にあーんしてあげたら喜ぶわよ?』というカナエのおそらく冗談半分(だと思いたい)の助言により、自宅で温め直したフォンダンショコラを炭治郎に食べてもらうことにしたのだ。 実家の手伝いで忙しいだろうから、家に来てもらうのは難しいかと思ったのだが『彼女ができて初めてのバレンタインくらい、私たちに頼ってよ』と禰豆子たちが店の手伝いを引き受けてくれたらしい。あとで彼女や下の子たちにも、お礼をしなければと思う。 フォンダンショコラの飾りつけも終わったし、紅茶も準備ができた。後は炭治郎に食べてもらうだけだ。カナヲは深呼吸すると、慎重にトレイを手にして自室へと向かった。
可愛い表紙はillust/73087205からお借りしてます。