「先延ばし癖を直すためにいろいろ試してみたが、どれも効果がない」
「学生の頃から先延ばし癖が直らず、どうすればいいかわからない」
このように、先延ばし癖を克服できず悩んでいませんか? あなたの先延ばし癖が直らないのは性格や意志の弱さのせいではなく「過度なストレス」が原因かも。
そこで今回は、先延ばし癖とストレスとの関連性を解説するとともに、まず身近なストレスから軽減していくための3つの方法についてご紹介しましょう。
過度なストレスと先延ばし癖の関係
脳神経外科医の菅原道仁氏が、著書『なぜ、脳はそれを嫌がるのか?』のなかで、次のような研究結果を紹介しています。
先延ばしをする傾向がある人は、自分の判断や行動が、将来的にどんな影響を及ぼすかを理解する力が弱い。
(引用元:菅原道仁 (2018), 『なぜ、脳はそれを嫌がるのか?』, サンマーク出版.)
そして、そうなる原因は、
将来の心配より、目前にある心配事に目を向けざるをえないほどの強いストレス状態に置かれていること
(引用元:同上)※太字は編集部にて施した
だというのです。
この研究は、ビショップ大学(2015年発表当時)のフスキア・シロワ氏によるもの。シロワ氏は、高血圧および心血管疾患を患う182人と健康な564人を対象に性格や対処、健康状態などを調査しました。その結果、先延ばし癖があることと疾患があることは関連しているとわかったそうです。先延ばし癖があると、疾患に対し不適切な対応をとりやすくなってしまうよう。
菅原氏はこの研究をふまえ、「心配や不安が強いと、先延ばしをしやすくなる」とまとめています。
仕事の例で考えてみましょう。たとえば、来週に大事なプレゼンが控えているとき。準備が必要だとはわかっていても、「取引先へ送った商品は無事届いただろうか」「昨日送った謝罪メール、あれでよかったかな……」のような目の前の心配が強くあるほど、プレゼンの準備に手をつけられず、つい先延ばしにしてしまうことが起こりうるということです。菅原氏が言うように「体感的に共感できる」のではないでしょうか?
菅原氏によると、「外的な要因によるストレスを少しでも軽くする」ことに加えて、「暮らしを改良」し脳の負担を減らすことが、先延ばし癖の改善に有効だとのこと。では、どのように改良すればいいのでしょうか? 具体的な改良点を3つご紹介しましょう。
【1】スマートフォンを見るのをやめて「目を閉じる」
菅原氏は、脳に負担をかけるもののひとつに「余計なネットサーフィン」を挙げます。
東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏も、ランチタイムのような、本来休むべき時間に息抜きのつもりでスマートフォンを見るのはやめたほうがいいと指摘。スマートフォンから視覚を通じて脳が得る情報量は、きわめて膨大なので、情報処理のために、脳へ負担がかかりすぎてしまう――というのがその理由だそう。
スマートフォンを見る代わりに、休み時間は目を閉じたり、仮眠をとったりして、視覚情報を遮断することを梶本氏はすすめています。
休憩後の仕事の効率を考えれば、30分ほど目を閉じることが理想だと梶本氏。それが無理なら、1分間だけでもいいそうですよ。脳をしっかり休ませてあげましょう。
【2】マルチタスクを「シングルタスク」に変える
- 電話応対をしながら、データを入力する
- テレビを見ながら、LINEの返信をする
こうした複数の作業を同時に行なうマルチタスクを、私たちは公私に渡ってやりがち。しかしマルチタスクを続けると、ストレスが過度にたまりやすいと菅原氏は言います。
というのも、脳は本来シングルタスクを好むから。しかし実際は、予定外の仕事を頼まれたり電話やメールが来たりして、ひとつの作業だけに没頭するのは意外と難しいもの。
そこで、マルチタスクからシングルタスクに切り替える方法をふたつご紹介します。
1. メールやチャットの通知を切る
リーダー向けコンサルティングを手がけるピーター・ブレグマン氏は、Harvard Business Reviewの記事において、「集中を妨げるものを遮断」することをすすめています。
その代表例といえば、メールやチャットの通知ではないでしょうか。
人事・戦略コンサルタントの松本利明氏は、通知はすべてOFFにし、1日のうちに2~3回まとめて対応する時間をつくるとよいとしています。「メールやチャットの返信をする」というひとつのタスクに集中できるという点でも、効率的だそう。通知につど対応するのはやめましょう。
2. 1日2回「空白の時間」をつくる
世界的ベストセラー『SINGLE TASK 一点集中術』著者のデボラ・ザック氏は、約束や打ち合わせを入れない「空白の時間」を30分、1日2回設けることをすすめているそうです。
作業中に頼まれた別のタスクは空白の時間を使って処理すると決めておけば、ストレスをためず作業へ集中できるでしょう。
【3】乱雑な作業スペースを「整理整頓する」
あなたが仕事をしているデスクは、きれいに整頓されていますか? 物があふれ、乱雑に置かれた状態は、脳にとってストレスになっているかもしれません。
前出の菅原氏によると、部屋のなかに物が乱雑に置かれていると、脳がそれに気をとられてしまうのだそう。
加えて、ストレスが増大するという研究結果もあるとか。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームによる調査では、自宅でたくさんの物を目にすると、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌量が増えることがわかったとのこと。
こうしたことから菅原氏は、先延ばし癖を直すには整理整頓を心がけるべきだと説きます。
なお、脳神経外科医の築山節氏は、「脳が活き活きと働く状態をつくれる」という観点から、整理整頓をすすめています。「本を棚に戻した」「不要な紙を捨てた」といった、小さな成功体験を重ねると、やる気に関わる脳の側坐核を刺激できるそう。結果、その後の作業がはかどるとのことです。
脳のストレスを軽減するだけでなく、やる気も高まるなら、一石二鳥ですね。先延ばし癖に悩んでいる人は、作業を始める前に片づけをする習慣をつけてみてはいかがでしょうか。
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あなたが先延ばし癖から抜け出せずにいるのは、脳に過度なストレスを与えているせいかもしれません。身近なところから改善してストレスを減らし、「すぐやる人」を目指しましょう。
(参考)
菅原道仁 (2018), 『なぜ、脳はそれを嫌がるのか?』, サンマーク出版.
Fuschia M. Sirois (2015), “Is procrastination a vulnerability factor for hypertension and cardiovascular disease? Testing an extension of the procrastination–health model,” Journal of Behavioral Medicine, volume 38, pages578-589.
梶本修身 (2017), 『すべての疲労は脳が原因 3 仕事編』, 集英社.
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|マルチタスクをやめる方法と、やめるべき理由
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リクナビNEXTジャーナル|生産性10倍に?!「シングルタスク」に切り替える方法
YouTube|University of California Television (UCTV)|A Cluttered Life: Middle-Class Abundance
築山節 (2012), 『脳が冴える勉強法 覚醒を高め、思考を整える』, NHK出版.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。