グレッチに搭載されるピックアップは、特にコードが美しく響くような、比較的低出力で澄んだサウンドを持つものが主流です。
この3つを主軸とし、ここから枝分かれしたバリエーションモデルやTVジョーンズ社製ハイエンドピックアップが使用されることもあります。まずは主軸の3モデルを見ていきましょう。
フィルタートロンを搭載した G6118T-SGR Players Edition Anniversary
「フィルタートロン(High Sensitive Filter’Tron)」は1958年以来グレッチの定番をつとめる、名誉あるハムバッカーです。それまでは他社製ピックアップ(ダイナソニック)を使用していたわけですが、オリジナルピックアップ「フィルタートロン」の登場で、グレッチは名実ともに「エレクトリック・ギターのメーカー」になることができたのです。
フィルタートロンの「1959年6月30日特許取得」は、ギブソンのハムバッカー(セス・ラバー氏発明。1959年7月28日特許取得)に先行しており、その意味で「世界初のハムバッカー」と言われています。「シングルコイルに内在する60サイクルのハムノイズ」に悩むチェット・アトキンス氏のために、レイ・バッツ氏が発明しました。
「相反するシングルコイルを直列につなぐ」という開発コンセプトはギブソンと同じでしたが、コイルの寸法や巻き数、磁石の大きさなどの違いから、
というように個性は大きく違い、ルックスの帯びる雰囲気も大きく異なります。
フィルタートロンは、最新仕様(Players Edition)のほとんどのモデルに搭載されるほか、アーティストモデル(Professional Collection)でも盛んに採用されます。また「Gretsch Electromatic」シリーズでは、ピックアップの上面を黒にした「ブラックトップ・フィルタートロン」が使用されています。
名機フィルタートロンは、これからの音楽を見据え、また搭載モデルのコンセプトに合わせ、さまざまにバリエーション展開しています。
モデル名 | 特徴と搭載モデル |
Broad’Tron | フィルタートロンの個性を保ちつつ、ドライブサウンドに対応できる高出力。グレッチのこれからを作るピックアップ。 G6228 Players Edition Jet BT G6609 Players Edition Broadkaster Center Block G6659TFM Players Edition Broadkaster Jr. Center Block |
Blacktop Broad’Tron | Broad’Tronのエレクトロマチック版 G5220 / G5230 Electromatic Jet BT |
Broad’Tron Humbucker | Broad’Tronのストリームライナー版 G2420 Streamliner Hollow Body G2622 Streamliner Center Block G2655 Streamliner Center Block Jr. |
Gretsch Dual-Coil Humbucking | フィルタートロンの雰囲気を持った、「ジェットクラブ」用ピックアップ。 G5421 / G5425 / G5426 Jet Club |
CUSTOM WOUND “Black Top” Filter’Tron | ビリー・ダフィー氏のわがままをすべてかなえた特別製。 G7593T Billy Duffy Falcon |
Mega’Tron | 公式には名前の紹介しかないが、ソリッドボディにフィットするアレンジを施したと推測。 G5135CVT-PS Patrick Stump Electromatic® Stump-O-Matic CVT |
表:グレッチで使用されるアレンジ版フィルタートロン
Patrick Stump on his New Gretsch G5135PS
「メガトロン」というピックアップについては公式サイトでも詳細な解説がありませんが、現代的なサウンドにフィットする十分なパワーがあり、音量を絞れば繊細なサウンドも出せるもののようです。「G5135PS」はグレッチでは非常に珍しいソリッドボディを採用し、3ピックアップモードと2ピックアップモードをスイッチで切り替える特殊配線が採用されています。
レイ・バッツ(Ray Butts。1919-2003)氏は、「フィルタートロン」および「エコーソニック(テープエコー内蔵ギターアンプ)」の発明者として知られています。
1940年代にはアコーディオン奏者として活動していましたが、家庭の事情で帰郷、電気屋を継いだのち、ギター/アンプショップ「レイ・バッツ・ミュージック(Ray Butts ‘Music)」を立ち上げます。音楽関係者が通い詰める名店だったようで、レコーディングスタジオや音楽プロデューサーとも商売していました。
ダイナソニックを搭載した G6129T-1957 Silver Jet
先述の「フィルタートロン」が発明される1958年までグレッチのギターに採用されていたピックアップは、ディアルモンド(DeArmond)社製の「ダイナソニック」でした。同名のドラム(ロジャー・ドラムス社製”Dyna-Sonic”)との混同を避けるため、いち時期「フィデラトーン(FidelaTone)」と改名していましたが、今では元通りになっています。
ダイナソニックは固定式とネジ式の2列のポールピースを持っていますが、コイルはこれをまとめてぐるぐる巻いてあるので、内部構造はシングルコイルです。「固定式ポールピース自体が磁石で、縦長の磁界で振動をキャッチする」という方式はフェンダーのピックアップに近く、明るくトレブリーに響きます。ネジ式のポールピースは高さ調節ができるので、弦ごとの音量バランスを整えることができます。磁石は脆いので、ネジの溝を刻むことができません。じゃあ、そのすぐ隣に鉄のネジを挿せばいいじゃないか、というアイディア設計です。
ダイナソニックは、1958年以前のスタイルを再現したモデルに搭載されています。
ハイロートロンを搭載した G6119T-62 Vintage Select Edition ’62 Tennessee Rose
「ハイロートロン」は、フィルタートロンの片側のポールピースを抜いて、もう片方のシングルコイルからしか音を拾わなくしたピックアップです。片方からしか音を拾わないのでサウンドはシングルコイル・ピックアップですが、音を拾わないもう片方のコイルの恩恵でハムノイズがカットされる(ハムバッカー構造)ため、高域(ハイ)から低域(ロー)まで美しく響きます。
ハイロートロンは主に、G6118アニヴァーサリー、G6119テネシーローズで使用されます。
特徴と搭載モデル | |
TV-CLASSIC | フィルタートロンタイプ。ヴィンテージ・グレッチのサウンドを再現。 G6118T 130th Anniversary™ G6120RHH Reverend Horton heat G6134T-KWP KDFSR Kenny Wild Penguin G6136T-AZM-LTD17 Limited Edition Falcon G6136T-DCHFL-LTD16 Limited Edition Falcon G6136T-KF FSR Kenny Falcon G6136T-KFJR FSR Kenny Falcon Jr. G6136TTV-FSR OCT JR Falcon™ Jr. G6120T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Chet Atkins® G6122-6212 VS Vintage Select Edition ’62 Chet Atkins® Country Gentleman® 12-String G6122T-62 VS Vintage Select Edition ’62 Chet Atkins® Country Gentleman® G6128T-59 Vintage Select ’59 Duo Jet G6129T-59 Vintage Select ’59 Silver Jet G6131T-62 Vintage Select ’62 Jet™ Firebird G6134T-58 Vintage Select ’58 Penguin G6136T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Falcon G6196T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Country Club |
Brian Setzer “Signature” TV Jones® | フィルタートロンタイプ。ヴライアン・セッツアー氏のシグネイチャーピックアップ。 G6120SH Brian Setzer Hot Rod G6120SSL Brian Setzer Nashville G6136SLBP Brian Setzer Black Phoenix |
Power Tron | フィルタートロンタイプ。グレッチサウンドとギブソン系ハムバッカーをブレンドさせ、中域の押し出しを増した。 G6118T-LTV 130th Anniversary™ Jr G6128T FSR Jet™ Solid Body G6199FSR Billy-Bo Jupiter Thunderbird G6199RV FSR Billy-Bo Jupiter Thunderbird Power Jet Firebird TV Jones (PowerTron Pickups w/Bigsby) G6131T-TVP |
Super’Tron | バーポールピースを採用。クラシカルな透明感を残しつつ、押し出し感も増した。 G6122T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Chet Atkins® Country Gentleman G6122-1959 Chet Atkins Country Gentleman |
T-Armond | ダイナソニックタイプ。突き抜ける透明感。 G6120T-55 VS Vintage Select Edition ’55 Chet Atkins G6128T-53 Vintage Select ’53 Duo Jet G6128T-57 Vintage Select ’57 Duo Jet G6136-55 VS Vintage Select Edition ’55 Falcon |
TV-HT | ハイロートロンタイプ。ブライトな中に、セクシーな低域。 G6118T-60 VS Vintage Select Edition ’60 Anniversary G6119T-62 VS Vintage Select Edition ’62 Tennessee Rose |
グレッチに搭載されるTVジョーンズ社製ピックアップとその搭載機(2018年9月版)
TVジョーンズ社からは、これ以外にも様々なタイプのピックアップがリリースされています。やはりヴィンテージ・ピックアップを再現したものが高人気ですが、フィルタートロンのルックスでダイナソニックの音を出す「マグナトロン(Magna’Tron) 」のような変わり種も。
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