彭載舟の行動は、董瑶瓊以上に大胆で計画的であったから、逮捕された彼の安全が極めて厳しいものであることは想像に難くない。彼は、政権転覆煽動罪に問われて重い罪を負うかもしれないし、その前に拷問死させられるかもしれない。だが、彼自身、それを承知の上で、命を賭しての抗議と覚悟があったと想像される。
中国では、激しい集団抗議を行って警官隊と衝突したり、バスなどの公共交通機関や公共の場所に対する自爆テロ行為を通じて社会への不満を訴えたりする事件は決して少なくない。だが、彭載舟のように、たった一人で習近平を名指しで批判し、しかも現場から逃げも隠れもせず公衆の面前で捕まってみせるようなケースは極めてまれだ。天安門事件以降、初めてといっていいかもしれない。しかも、党大会の3日前、海淀区四通橋という繁華街で事件は起きたのだ。
彭載舟について、天安門事件の際に、民主化要求運動をしていた若者たちを踏みつぶしに来た戦車の前に、たった一人立ちはだかった通称「タンクマン(戦車男)」と呼ばれた男性にたとえる人もいた。ネットでは、彭載舟を「四通橋の勇者」「現代のタンクマン」と呼ぶ声もある。
中国人の深層心理に波紋を広げた彭載舟の行動
この事件後、現代のタンクマンの行動に感化されたのか、多くの地域で、同様のスローガンの落書きやポスター、チラシが出現した。
ネットのSNSで確認できる限りでは、大学キャンパス内の掲示板や成都や重慶の地下鉄のトイレの壁や、浙江省の地方の公衆トイレのドアなどに、このスローガンが落書きされたり、チラシが張られたりしていた。