イソップ クィアライブラリー

クィアの声を発信する

LGBTQIA+にまつわる文学作品のコレクションを期間限定でご紹介するイソップクィアライブラリーが日本に初上陸し、10月12日から16日まで東京のイソップ新宿店、20日から24日まで大阪のイソップ心斎橋店にて開催されます。グローバルでは今年で2年目を迎えるイソップクィアライブラリーは、クィアについて語り合うことが持つ変革の力、すなわち人々の心を広げ、ひとりひとりに勇気を与え、コミュニティやその仲間たちを束ねていく力を信じて立ち上げられました。

クィアライブラリーを開催する各店舗では、いつもなら見慣れたイソップ製品が規則正しく並びますが、この期間中は製品の代わりに小説、詩集、回顧録などの本が棚を埋め尽くします。60作品を超えるこれらの書籍は、クィアたちの声を取り上げる「読書サロン」を主宰している安田葵さんの選書によるものです。多様な作家を網羅したこのライブラリーは、クィア文学のこれまでの歩みと進化を示し、クィアたちの幾多もの体験を映し出しています。イソップの読書愛好家たちの案内のもと、来場者はお好きな本を無料でお持ち帰りいただけ、購入の必要はありません。 

書籍リスト

書籍リストには、藤野千夜『夏の約束』、伏見憲明『百年の憂鬱』、李琴峰『彼岸花が咲く島』など、幅広いジャンルの多様な声を集めた作品が揃っています。クィアの物語を発信することやアートで表現することの重要性について、これら三名の作家の方々の思いを以下にご紹介いたします。 

藤野千夜 文学を通して人生を見つめる

藤野千夜さんは、『夏の約束』『午後の時間割』などで数々の受賞歴があるトランスジェンダーの作家です。福岡県生まれの藤野さんは、1980年代に出版社で勤めたことをきっかけに文学の世界に入り、後に文筆業へ転向されました。藤野さんの作品は、マイノリティそして現代日本の社会風俗というレンズを通じ、自身の歩んできた道も織り交ぜながら人間像を描き出します。 

Author Chiya Fujino

クィア文学は、あなたにとってどのような存在でしたか。

孤独な時期、数多くのフィクションに救われました。悩みを同じとする者を描いた作品に勇気づけられたことはもちろん多く、今も生きていられるのは、そういった作品があったおかげと思っています。ただ、私の愛した文学の世界には、いずれにしろ少数者の営みといった側面があり、性的に「クィア」であるということの特別さよりも、そこにある普遍性に目を向けるようになったかもしれません。 

隅へ追いやられている人々の声をもっと広めていくために、芸術関連機関が今後さらにできることは何でしょうか。  中心部以外にも、人がいると知らしめる役割は果たしているように思います。決してあきらめずに、ありつづけることが大事と信じます。  アートがクィアコミュニティの基盤として大切である理由を教えてください。  なにかを美しいと思う気持ちに嘘はないと思うので、よりストレートに、自分の内なる声を知るきっかけとなるのではないでしょうか。 

李琴峰 共感とコミュニティを求めて

李琴峰さんは1989年台湾生まれで、2013年より日本で暮らしています。作家・翻訳家として、日本語と中国語で執筆を行っています。2017年にデビュー作『独り舞』を、第二言語である日本語で著し、第60回群像新人文学賞優秀作を受賞しました。書くということに自身の声を見出した李さんの作品は、ジェンダーアイデンティティ、言語や文化に関するテーマを扱っています。 

Author Kotomi Li

作品を通じて、読者の心にどのような問いを投げかけたいですか。  私自身もそうですが、日々の生活に没頭していると、世界の広さと人間の多様性を忘れがちです。文学作品を通して、私たちは出会ったことのない他者と出会い、見たことのない景色を見、接したことのない考えに接することができます。今ここに生きている自分とは全く違う生活を送り、全く違う人生を歩んできた人々がいるという想像、それは自ずと、「私たちは一体世界の何を知っているのか」という問いかけに繋がります。  

「私たちは本当は何を知っていて、何を知らないのか?」「自分が信じて疑わない常識は、本当に信じるに値するものなのか?」「他者の痛み、悩み、苦しみについて、自分はどこまで寄り添えるか?」――そういった思索を通して、より世界のことに、他者のことに思いを馳せてもらえればと思います。  

クィアスペースは、あなたにとってどのような存在でしたか。

生き延びるために必要不可欠な空間でした。私にとって、生き延びるには知識と、表現と、仲間が必要でした。書店は本と出会う場所として私に知識を提供してくれました。同時に私の表現を世の中に伝える役割も担ってくれています。また、LGBTQ+のコミュニティスペース――例えば大学のセクシュアル・マイノリティ・サークル、新宿二丁目をはじめとする各地のレズビアンバー、中野区のLOUD、横浜のSHIPといったコミュニティスペースなど――は、同じセクシュアリティの仲間と出会う場所です。そういった出会いを通じて孤独さから解放され、それが生き延びる力に繋がりました。手前味噌ですが、私は『ポラリスが降り注ぐ夜』という小説の中で、新宿二丁目をはじめとするLGBTQ+コミュニティへの深い愛情を表現しています。こちらをぜひお読みください。  心を動かされた、あるいはインスピレーションを受けたクィア作家を教えてください。 中山可穂さんは今は基本的に同性愛の題材から離れていますが、彼女が過去に創作していた素晴らしいレズビアン小説の数々は、日本のレズビアン文学の古典として歴史に残すべきものだと思っています。

世代が近い小説家と言えば、王谷晶さんがいます。彼女はオープンリー・レズビアンの作家で、差別反対の姿勢をはっきり打ち出しながら、幅広いテーマで面白い小説を創作しています。 

伏見憲明 既成概念にとらわれない思考法

作家であり、同性愛者の権利に関する活動家である伏見憲明さんは、クィアコミュニティの不朽の代弁者/論客です。1991年出版のデビュー作『プライベート・ゲイ・ライフ: ポスト恋愛論』では、日本における同性愛を描きました。30余年にわたる執筆活動の傍ら、京都大学、東京大学、早稲田大学その他で講演を行っています。 

Author Noriaki Fushimi

影響を受けたLGBTQIA+文学にはどのような本がありますか?  「クィアネス」というのがもはやなんだかわからないのですが、私に影響を与えた著作という意味なら、三島由紀夫の小説とか、林真理子の初期の作品とか、吉田秋生や萩尾望都などのコミック作品になるかと思います。  

書店やコミュニティグループなど、クィアスペースは、あなたにとってどのような存在でしたか。

書店がクィアの集う空間だということを初めて知りました。私が1991年に出したデビュー作『プライベート・ゲイ・ライフ』は、出版社の営業にも大手書店のフェミニズム棚の担当者にも疎まれて、販路を確保するのにずいぶん苦労しましたが、現在、書店がそのような自由な空間になっているとしたら、とても良い時代になったと思います。 作品を通じて、読者の心にどのような問いを投げかけたいですか。

私の場合、小説(フィクション)は自分自身のために書いているので、読者のことは「共感してくれる人がいたらいいな」くらいのことしか頭に思い浮かべません。

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