第250話~冬の訪れ~
ちょいと短いですが更新再開です!_(:3」∠)_
※2020/09/05
すまないハーピィさん_(:3」∠)_(歴史が捻じ曲げられる
季節は流れて冬。
この世界の冬もまた元の世界の日本のように雪が深々と降る――というようなことはなく、木枯らしのような寒々しい風がぴゅうぴゅうと吹き荒ぶような感じであった。正直、四季がはっきりとしている日本生まれの日本育ちな俺としてはかなり物足りない。
まぁ、あまり寒くならないというのは良いことなのかも知れない。あまり寒くならないとは言っても、霜が降りたり溜めておいた水に薄っすらと氷が張る程度には冷えるので、凍死者が出ないわけではないらしいけど。
「冬の備えはどうだ?」
俺がクラフト能力で作った魔道コタツに入ったまま、シルフィが真面目な顔でメルティにそう聞く。キリッとした表情をした褐色肌の美人エルフがミカンめいた柑橘類の載っているコタツに入って真面目な話をしているというこの状況。アンマッチ感が酷い。
「各地からの報告では食料と燃料の備蓄は十分という話です。特に燃料に関してはコースケさんの活躍が大きいですね」
「冬になる前に夢に出るくらい木を切ったからな……」
苦労の末にメリナード王国領を掌握した解放軍――もとい新生メリナード王国が急いで行ったこと。それは越冬の準備である。
先に言った通り、この世界――というかメリナード王国では冬と言ってもさほど雪が降るわけではない。火も焚かずに毛布も使わず野外で寝れば軽く凍死できる程度には冷えるが、ちゃんとした家と毛布、それに十分な量の薪があれば快適に冬を越すことができる。
そして、その薪をいつもは誰が用意していたのか? それは奴隷として使われていた亜人達である。
ここまで言えばわかると思うが、今年は例年よりも薪の生産量が圧倒的に少なかった。その原因は解放軍による亜人の解放運動である。解放軍の手によって奴隷身分から開放された亜人達はそのまま解放軍に加わったり、俺の作った農地で農業を始めたり、解放軍の文官として働いたり、商売を始めたりした。単純な肉体労働に従事する人々が例年に比べて大幅に減少したのである。
結果として、各方面でそれなりに問題が発生していた。他に仕事があるのにキツい上にあまり儲からない仕事を選ぶ人はいない。
それもこれも亜人を安価な値段で大量に使うのが当たり前という聖王国統治下における常識というやつのせいなのだが……つまり、今のメリナード王国の人間の間には『単純な肉体労働は亜人の仕事で、その労働対価は非常に安いもの』という固定観念が根付いてしまっているのだ。
メルティはその是正に尽力しているが、今のところはまだ効果が出ていない。
「来年は大丈夫ですよ。今年の冬で懲りるでしょうし」
メルティが黒い笑みを浮かべている。詳しくは聞いていないが、俺が大量に生産した薪を使って未だに亜人を安価な労働力として使おうとする商人や地方の有力者に何か仕掛けているらしい。
絶対にロクなもんじゃないので俺は詳しく聞かないことにしている。下手につついてう虻から蛇を出したらたまらんからな。
「……すぅ」
アイラは俺の膝の上に座ったままコタツに突っ伏して寝ている。ここのところ、アイラはとても忙しい。彼女は天才的な魔道士であり、優秀な錬金術師であり、また同時に優秀な魔道具職人でもある。様々な魔道具の研究開発、新薬や貴重で調合難度の高い薬剤の調合、宮廷魔道士としての務め、後進の育成など日本のブラック企業も真っ青の激務をこなしているのだ。
正直言って身体が心配なのだが、本人がやる気を出しているのでどうにも止められない。たまにこうやって電池切れになるので、こういう時に甘やかしてやるくらいしか俺にはできない。今度無理矢理にでも休ませようかな。
「お主らはもうちっとこう、平和にのんびり生きられんもんかの?」
「私達とて好きでガチャガチャとやりあっているわけではありませんよ」
コタツに下半身を入れて毛布まで被っているグランデの発言にメルティが唇を尖らせながら反論する。グランデから見れば人族同士で争っているのが愚かに見えて仕方がないんだろうな。この世界には魔物がたくさん居て、彼らに支配されて利用できない土地というものがいくらでもある。国力を高めるのであれば、そう言った場所を開拓すれば良い。
にも関わらず、人と人は争いをやめられない。争いをやめたと思えば次の争いの準備をしている。グランデが俺達全員に対して苦言を呈するのも仕方がないことかもしれない。
「ところで、今日は予定を空けてあるのだが……」
そう言ってシルフィがコタツの中で俺の足に自分の足を絡めてくる。そうね、冬になって寒くて暇だと人肌が恋しくなるよね。
「子供は神からの授かりものですから。焦らずとも良いと思いますが」
俺の対面でミカンめいた柑橘類の皮を剥きながらエレンが呟く。いつもの豪華な聖女衣装でコタツに入っているのがどうにもシュールだが、見慣れてしまった今となっては俺以外の誰もそのことについて一切気にしない。
「それもそうか。冬は長いしな」
「ええ、そうですとも」
そう言ってシルフィとエレンが俺に視線を向けてくる。それはつまり俺に頑張れということですね? わかりますが手加減はして頂きたい。腹上死は男の夢かもしれないが、流石に孫の顔どころか自分の子供の顔も見ずに死ぬのは勘弁だ。
「ん? まだ日が高いが始めるのか? それなら妾も交ざるぞ」
まったりしていたグランデが顔を上げて輝くような笑顔を浮かべる。いや、いくらなんでもこんなに日が高いうちからはちょっと。
「そうだな……今日は仕事もほぼ片付いているし、良いのではないか?」
「そうですねぇ……」
「あーっと、そういえばセラフィータさんかドリアーダさんと会う約束をしていた気がするなぁ」
そう言って膝の上のアイラを下ろして俺は逃げようと……こ、これは!?
「逃げちゃだめ」
いつの間にか目を覚ましていたアイラが俺の服をがっちりと掴んでホールドしていた。はい詰んだ。詰みました。いや、アイラが俺を捕まえなくてもこの至近距離でシルフィやメルティから逃れるのは不可能だけどさ。
「コースケが嫌なら無理強いはしないが……」
「嫌ではないです」
嫌なわけではない。ただ、この時間からとなると明日どうなっているか怖いだけだ。干からびてミイラみたいになるんじゃなかろうか。
「いざとなれば妾の血を少し飲ませれば良いからの」
「回復の奇跡もありますから」
そういうドーピング的なやり方は大丈夫とは言えないんじゃないかなぁ……と思いつつも、俺は無駄な抵抗をせずベッドへと引きずられていくのだった。
コミックライド様よりコミカライズが開始されました!
是非見てね!_(:3」∠)_
【ご主人様とゆく異世界サバイバル!】
http://comicride.jp/survival/