オフの日の昼下がり、いつものプレハブ小屋
手に取った道具はニッパーにデザインナイフに紙ヤスリなどなど
説明書を読むたびに、よく設計したものだと嘆息するばかりだ

「にしても、話には聞いてたけどマジで出たんスねぇ」

組み上げているその『プラモデル』は……バイクや車、船やロボットなどとはまた違う繊細な作りで
そして同時に、よく見慣れたものでもあって

「ウマ娘のプラモデルって」
「実際モデルの自分が一番驚いてるプイ」

そう。このプラモデルは……プイ先輩その人のものだった

●

「第一弾から売れ行き好調みたいじゃないッスか、どこも品薄って聞いたッスよ」
「ありがたい話プイ。でも製作までは大変だったプイ」

でろーんとテーブルに溶けるプイ先輩だが、実際制作は相当難儀したそうな
今作っているプラモデル……ウマ娘プラモデルシリーズ第一弾。そのラインナップの一つであるプイ先輩のキット
いくつか貰ったけどプラモデルなんて作ったことないプイと泣きついてきたのが始まりで、こうして駄弁りながらちまちまと作っていくことになっていた

「フィギュアの時と同じで全方向からの同時撮影で写真撮って３Ｄデータ作るプイ。けど、関節曲げた素材とかも必要だからテイクがめっちゃ多いプイ」
「ああ、なるほど。そりゃ確かに面倒ッスね」
「その内そっちにも話が行くプイ。覚悟して勝負服用意しておくといいプイ」

制作監督が相当凝り性の人物だったこともあって、完成までに相当長いことかかった上に何度も呼ばれて打ち合わせや新素材の撮影があったらしい
フィギュアとかと違ってポーズが固定されておらず、しかも表情パーツだのハンドパーツだの何種類も用意することが前提のプラモデルは要求されるデータ量がケタ違いだったとか
いつか自分にも来かねない話だと思うとゾッとするが、とりあえず今はプイ先輩のためにプイ先輩の製作に集中だ

「ちなみにこんなものもすでに出てるプイ」
「ん、なになに……ブッフォ！？」

思わず吹き出してしまったが、これは責められても困る
だって、なんだこれ。頭だけプイ先輩で、首から下がやたらめったらゴツいロボットになってる画像を見て笑うなってのが無理だ
しかも無駄に拘ってるのか、色まで合わせてあるのが酷い

「同じメーカーのプラモデルと組み合わせ簡単らしくてみんな遊ばれてるプイ。空戦型ってなにプイ。空なんて飛べないプイ」
「くっくく……すんません、ちょっとそれ見せんでくださいッス」
「あとでオヤツたんまり要求してやるプイ」

そのくらいで済むならいくらでも承ってみせようじゃないか
しかし、本当に精密にできている。関節などもしっかり可動域を確保しつつ強度もばっちり。この辺はメーカーの腕の見せ所ということか
以前作った、姉貴が放り出した戦車か何かのプラモデルを思い出す
あれは部品もとにかく小さく接着も必須だったし、何より自分で塗装することが大前提だった
それを思えば、数枚のシールだけで色分けが完成されてるこのキットのなんと作りやすいことよ

「プイ先輩の場合勝負服のデザインがそこまで複雑じゃないのもデカいッスね。もっと大変な事になりそうな子たくさんいますし」
「それは撮影時にもスタッフさんに言われたプイ。ただフリル部分は相当頭悩ませてたプイ」

まぁその辺は仕方ないだろう。だってどうしたって細かくなるし
実際今胴体まで完成させて、困った部分といえばそのくらいだ。フリルはどうしても細かく繊細になるから破損が怖かったけど、なんとか文句なしにはできただろう

「まぁただ作るだけなら全然楽な部類ッスよ。プイ先輩もチャレンジしてみるといいと思うッス。道具は貸せますんで」
「んー、でも難しそうプイ。さっきから見てても相当凝った造り方してるプイ」
「今回はただ組み上げていくだけなんで楽な方ッス。拘ると本当に沼になってくるんで」

思い出す、過去の数少ない経験での苦難。あれらに比べればこの程度など

「ここ、よく見てくださいッス。パーツ同士を合わせてるせいで合わせ目の線があるッスね？」
「ん、あるプイ。でもこれは普通に仕方ないやつプイ」
「拘るとこういうの全部消していくんスよ」
「え」

信じられないようなことを聞いた顔だが事実だ。実際、昔やったし

「接着剤でプラスチック同士を溶かして一体化させて、紙ヤスリで丁寧にならして、凹んでたらパテなんかで補修して、また削って……それらを繰り返して、完全になったら塗装するんス」
「……気が遠くなりそうプイ」
「だから今やってるのは本当に基本中の基本なんスよ。強いて言えば、切り口をデザインナイフで整えてやるくらいッス」

それに、普段作っている金属細工に比べれば取り返しがつく部分も多いからある程度大胆にやれるし

「ちなみに今頭の部分作ってるんスけど」
「自分の生首見てる気分プイ」
「顔パーツどれにします？表情が複数ついてきてて選択式なんで」

ロボットや戦車と大きく違う点の一つがここだろう
ウマ娘をモチーフにしているこのキットは、３種類の顔パーツが付属してくる。これの中のどれを選ぶかというのは作り手に委ねられると言う訳だ

「じゃあ、普通に笑ってるこれでお願いするプイ」
「あいよ。んじゃ、手のパーツもそれに合わせて適当に選びますんで」

パーツをはめ込んで頭完成、胴体に取り付ければあとは手足だけ
……本人も言ってたけど、知り合いの部品作っていくって凄い変な感じだなと

「貰ったやつで練習はしてみるプイ。いつかみんなのが出たら全部作って並べてみたいプイ」
「あー、それいいッスね。でも大変ッスよ。姐御なんか拘るでしょうし」
「作り手より先に製作スタッフが過労になりそうプイ」

プキュキュキュキュなんて笑って。まぁあの人絶対妥協しないだろうしね
そしてそんなこと考えると、ふと

「……自分の時って、またスタッフさん大変そうッスね」
「ぷきゅ？……あー、勝負服プイ」
「細い部品めっちゃ多くなりそうッス。ＳＮＳで破損報告相次いで心も折れそうッス」

その辺、苦労する子も多いだろうなぁと。今回のラインナップは比較的楽なデザインを選んだのかもしれない
ただ既存のノウハウが通用しない子も多いだろう。袖がダボダボだったり、やたら柄が煩雑だったり、ウエディングドレスなんてのもあるし
……うちのメンツだと、魔女っ娘なんかも相当悩ませる類だと思う

「ロボットとかそういうのってオモチャ化前提のデザインだったりすることが多いッスけど、これはそうもいかないッスからねぇ」
「でもドールハウスとかの家具とかと合わせて遊んでる人達も結構いるみたいプイ。あ、これなんかカワイイプイ」

そう言ってみせてきたのは、某無敵のテイオーがカフェテリア調のテーブルと椅子で紅茶を手にしている作例
なるほど、そういうのもあるのか

「あと最近は百均で芝風のシートが売ってたりするからそれ使ってる人も多いプイ」
「それは普通にやってみたいッスね。今度買い出しの時に見てみるッス」
「……あれ？」

携帯を弄りながら自分の作例を検索していたプイ先輩だったが……微妙な顔で一時停止
なんだ、変な人の作例でも見つけたか

「今回のラインナップ、全員分を芦毛に塗装してる人がいるプイ」
「ここまでわかりやすい犯行もそうそうねーッスね」

なにやってんだあの狂人は

●

「つーわけで。完成ッス」

見た目以上にバランスよく立たせられるその設計に驚きながらも、プイ先輩の前にその完成形を差し出す
ちょっとこう、ポーズなんかとらせてみたりして
当の本人はと言うと、大層お気に召したらしくて目をキラキラさせてる

「おおー。こうして実際に見ると感動プイ」
「いや、実際に完成形は製作段階で何度も見てるんじゃないッスか？」
「それとこれとは別プイ。んー、綺麗に作ってもらえてうれしいプイ」

実際このキットの完成度かなり高い。本人が苦労した甲斐もあったというものだろう
作った側としても、適度な作りごたえと完成度の高さで大満足だ

「ポーズ取らせてみていいプイ？」
「いいッスよ。ていうかプイ先輩のキットなんスから」

色々自分の人形を面白そうにポーズ取らせてるプイ先輩は、まるで子供のようで
うん、ひさびさにいい仕事した感じ。やはり物作りは気持ちがいい
ただ………本音を言えば……

「……どうしたプイ？」
「いや、なんでも」

これは、うん。言わないでおこう。その方がいい

「こうなってくると、確かに家具とか色々揃えてみたくなる気持ちも分かるプイ」
「スケール表記がここにあるんで、それで揃えるといいと思うッスよ」
「スケールプイ？」
「ほら、ここ。これが元のサイズの何分の一なのかを表してるんで………」

たしかに、この人の勝負服ってどことなくドレス感あってこういうの合いそうなんだよなと
軽く検索しただけでももさっと出てくるドールハウス用の家具の山。あ、わかった。これ沼だな？

「……でも、まぁ」
「ぷきゅん？」

自分は……携帯で検索して、それを出す

「やっぱプイ先輩は、これじゃないッスか？」

それは……ジオラマ用の、人工芝
やはり、勝負服のこの人は……楽しそうに走ってる姿が、よく似合うんじゃないかって
そんなことを言いかけてふと我に返る
あれ？これ相当恥ずかしいこと言ってるな？

「……いや、なんでも」
「走るプイ」
「え」

ガシッとつかまれた手。キラキラ光る笑顔のプイ先輩

「そんなに走るところが似合うって言ってくれるなら、今から走るプイ。さあ走るプイ。すぐ走るプイ」
「い、いや。片づけしないと」
「後でいいプイ。走るプイ走るプイ走るプーイー！！」

手をぐいぐい引いて自分を小屋の外に引きずり出していくその姿は、なんともまぁ子供じみたもので
格好はジャージで、とてもプラモのそれには比べられない
なのに、なんで……こんなに、プラモで再現できないような顔してるんだ、この人は

「思い返せば最近一緒に走ってないプイ！！さあ早くいくプイ！！」
「わかった！！わかったッスからクツくらい履かせてくださいッス！！！」

……当然、かもなぁなんて
この人の走り好きを完璧に魅せられるのは………今この時のこの人しかいないんだから
メーカーさんごめんなさい。けど、この光景だけは……貴方方にも再現できないだろうから

「そろそろみんな来ると思うんで、そしたらみんな巻き込みます？」
「巻き込むプイ！！！けどその前に二人で走るプーイ！！」

そうして二人して駆けだして、後片付けもしないままに
にっかり笑うプイ先輩に、呆れた顔でついていく自分自身
インドアから一転の珍騒動に巻き込まれて、プラモデルでは表現できないほどに楽しい時間が自分たちを待っていた

●

「……………………………」
「待ってくださいッス」

数日後、プレハブ小屋
今日は誰も来ないはずで、だからこそこうして作業していたのに

「言い訳させてくださいッス」

眼前には、ぷっきゅん顔でフリーズしたプイ先輩。手にある紙袋は……手土産か何かだろうか
一方、こちらが持っているのは………先日のと同じ、プイ先輩のプラモデル
ただし、丁寧に丁寧に丁寧に、合わせ目を消してヒケを消して線を掘りなおして作り上げてる最中の

「いやあの。物作りやってる立場として、徹底的にやってみたくなったと言いますか」

プイ先輩から見れば、こそこそと自分の姿をしたものをルーペまで使って凝視してる奴が一匹いる訳で

「決して邪な気持ちはないんス。けど、作り手としては拘れるところは拘りたいといいますか」

しかもそれがよりにもよって、脚のライン整えてる所だったって
なんの拷問だ、これ

「……実物参考にしたプイ？」
「いやあのそれは」

あの目……知ってる
例の芦毛マニアが芦毛を観察してる時のそれに似た、ジトーーーーーーーーーっとした目
言いようのない罪悪感と後悔が身を焼き滅ぼしてしまいそうになる

「ですから、これは」

だからせめて、その

「………ドスケベプイ」

こころをおるひとことは、やめていただけませんでしょうか

以上。プラモ作りながら酒を飲んだので舎弟した

>そう。このプラモデルは……プイ先輩その人のものだった
発売日はいつですか？

乙

実物を誰より見慣れてるからね

>だって、なんだこれ。頭だけプイ先輩で、首から下がやたらめったらゴツいロボットになってる画像を見て笑うなってのが無理だ
これで武インパクト豊思い出した

このまま行けばいつの日かサンライズパースで刀を構える聖剣先輩の写真がSNSに出回るんだ…

🐴白系の塗料の消耗が激しいですね

>>だって、なんだこれ。頭だけプイ先輩で、首から下がやたらめったらゴツいロボットになってる画像を見て笑うなってのが無理だ
>これで武インパクト豊思い出した
つまり…ディープ武豊インパクトってことか…

今回も良いプレハブだった
>全員分を芦毛に塗装してる人
あいつならするよな…

もっと酒飲んでプラモ作れ

（ハヤヒデのプラモは箱が）でけえなあ…

ﾋｿﾋｿ…脚のラインから全部把握してるのね…

ガレキは沼だぞ

勝負服と制服が選べるといいな
エールちゃんは寝間着姿もついてほ

>No.983353630
あらかわいい

>1666013509807.png
発売日が無いようだが

>勝負服と制服が選べるといいな
プレミアムウマダイ限定商品がありそう

舎弟のキットが発売したら頑張って作って並べて飾るのかな

リニューアル版でしれっと舎弟が原型に参加しているのいいよね

バリエ販売しようにもジャージくらいしか使い回せないし身長を考慮するとそれも難しいな

芦毛マニアの事だから白系も複数あるんだろうな…それこそパッと見何か違う？レベルの誤差みたいな違いの白を大量に

>芦毛マニアの事だから白系も複数あるんだろうな…それこそパッと見何か違う？レベルの誤差みたいな違いの白を大量に
🐴芦毛と一言で言っても様々ですから当然ですよ
その人に合った芦毛を用意してこそです

>>芦毛マニアの事だから白系も複数あるんだろうな…それこそパッと見何か違う？レベルの誤差みたいな違いの白を大量に
>🐴芦毛と一言で言っても様々ですから当然ですよ
>その人に合った芦毛を用意してこそです
最終的に自分で調色してそうなんだよな…

🐴の親友は顔パーツ異様に豊富そう

姉貴のキットは全体的に小さくて作りにくいッスね

>No.983363408
あの目だ…

>1666014862008.png
言い逃れなどできない状況

しかしこの数日後プイプイはオルフェ渾身の一作を観ることになるんだよね…
オルフェも一旦手を付けたが最後走りきらずにはおられなかったのだ

多分完成品は相当クオリティ高いのをお出ししてくると思うよ
ただ舎弟がすけべ認定にトラウマ負っただけで

アルト空戦型いいよね

ディープインパクト・ダブルバレットみたいなのが作られちゃうんだ…

実物を見なくても思い出すだけで正確に作れる程度に見慣れた先輩

本当の沼はドール素体とドール服に手を出した時に牙を剥くのだ

>No.983368198
流石に恥ずかしい乙女の顔…

>No.983368198
まあ足のラインまで正確に把握されててそれを再現されてたら恥ずかしいよね

🐴は葦毛パターン複数制作してそう
ゴルシみたいに真っ白なやつとかオグリみたいにちょっと斑なやつとかハヤヒデみたいに一部だけ白いとか