Good Bye! 男脳・女脳という迷信【クラーク志織のハロー!フェミニズム Vol.21】

男の子は自然とぬいぐるみより電車を選ぶ……という伝説、まだ信じてる?

クラーク志織
Clark Shiori

皆さん、ニューロセクシズムという言葉をご存知ですか?

男女の行動や考え方の違いの多くが、脳の性差によって引き起こされているとする考え方です。女性脳・男性脳というコンセプトと共に「男性は地図が読める」「女性はきめ細やか」「男性は大胆」「女性は感情的」「男性は理論的」「女性はおしゃべり」などと語られる場面、たしかに見たことあるぞ。

確かに、私は地図を読むのがすごく苦手です。そしておしゃべりです。でも、全然きめ細やかじゃないし、大胆で大雑把な性格です。感情的に振る舞う事もあれば論理的に考える時もあると思います。世間一般に「女性っぽい」と言われる特徴と「男性っぽい」と言われる特徴を私はどちらも持っていると思うのです。

というか、周りを見渡しても「あの人はもう隅から隅まで典型的な男性だな」とか「あの人は隅から隅まで典型的な女性だな」って人なかなかいない気がする。

なので、「男女は脳が違うから考え方や行動が違う」のような言葉を見ると、「本当かな?」といつもどこかモヤモヤしていました。

「脳は男女の特徴差より個人差のほうがはるかに大きい」

そんな私の長年のモヤモヤに対して、最近読んだ『ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性』という本がついに終止符を打ってくれました! ぽんっ!

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ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性

神経科学者のダフナ・ジョエルとサイエンスライターのルバ・ヴィハンスキによって書かれたこの本では、MRIのスキャン画像を用いた調査結果などから、たしかに脳には「男性によくある特徴」と「女性によくある特徴」が見られるけれど、でもそれよりも個人差の方が大きい事がわかったと書かれていました。「大半の脳はそれぞれ男性的な特徴と女性的な特徴の独自の《モザイク》から成る。これらの特徴には、男性より女性に多いもの、女性より男性に多いもの、女性と男性双方に見られるものがある」「ある脳の持ち主が女性か男性かを知っていても、その脳の特性はほとんどわからない」そうです。

ならば、なぜ世間には「男脳・女脳」という考え方がこんなにも浸透しているのだろうか?

この本の中では、その原因は男性中心に発達してきた脳の研究の歴史に潜んでいると書かれています。男性科学者たちが「男性のほうが女性より優秀な脳を持つ」と証明するために、いかに多くの研究結果をあの手この手を使って都合よく解釈してきたのか、そんな事例がたくさん取り上げられていました。

クラーク志織
Clark Shiori

例えば17世紀には、男性のほうが女性よりも頭蓋骨(脳の大きさを示すと言われていた)が大きいので男性のほうが優秀と言われていました。しかし多くの動物がヒトよりも大きな頭蓋骨を持っている事に気が付き、今度は身体に対する脳の大きさが重要だと提唱したのに、多くの科学者が身体に対する脳の比率は女性がよりも高いことを発見してしまった。けれど女性のほうが優秀と結論づけられることは一度もなかった。(そもそも、脳の大きさと頭の良さは関係ないそうです)などなど。

今でも、「出版バイアス」と呼ばれるように、男女の脳に性差がなかった研究結果はさほど報告されない一方で、性差が見つかった時のほうが発表されやすくメディアでも熱心に取り上げられる傾向にあると言われています。

女児と男児の嗜好の差はどこからくるのか

しかし、「そうだよね。やっぱり男脳・女脳なんてナンセンスだよね」と思うと同時に、5歳になる自分の子やその友だちを見ていると、すごく小さいうちから多くの男の子は車や恐竜を好むし、多くの女の子はピンクやプリンセスものを好む。こういう時、少し頭がこんがらがります。

脳は性別よりも個人差による違いのほうが大きいならば、なぜこのように男女の振る舞いに違いが出るのだろう?

その原因の1つとして、この世界にあるジェンダーバイアスが挙げられるそうです。

shiori clark
Clark Shiori

「Guardian」紙の「Meet the neuroscientist shattering the myth of the gendered brain」という記事の中でも、性別による脳の神話を打ち砕く神経科学者としてインタビューをされていたGina Rippon氏が「男女の脳にそれほど違いがないなら、男性と女性の振る舞いの違いは何によって引き起こされるのですか?」と質問をされ「ジェンダー化された世界によってです」と答えていました。彼女は、脳は経験によって大きく変化するものであり、外の世界のルールによって脳の働き方や人の行動が変わると答えています。だから幼少期にレゴを与えられなかった少女は空間認知能力が育ちにくかったりする一方で、そのような空間的な課題を何度も与えられば上手になる、と。

実際、2018年に世界各国の250万人以上の人を対象に行われた調査によると、ジェンダー格差が少ない国のほうが、男女の空間認知力に差が少ない傾向にあることがわかったそうです。

なるほど。というか、そもそもジェンダーバイアスだけでなく、身長とか身体的特徴とか、どの国に住んでいるとか、どんな教育を受けたとか、今どんな境遇におかれているかとか、数え切れないほど様々な事柄が「個人」の人となりを左右している気もする。だからなおさら、「あの人は女性だから」「あの人は男性だから」という物差しだけでは、その人の性格や能力なんて何も見抜けないんだろうなと感じるし、「男の子だから、女の子だから」という理由で、その人の役割や生き方をカテゴライズしてしまうのはなんだか窮屈だよなと思います。

男女だけで分けること自体が不自然

すこし話は逸れますが、私は最近、人を女性と男性という男女二元論の箱の中に押し込めるのって物凄く不自然だなと思うのです。なぜなら人間はもっと多様で豊かで奥が深い事を知ったからです。

「男女二元論に人々を押し込めるのは無理がある」こういった考えは10年前の自分だったらピンとこなかったかもしれない。なぜならそう思えるための知識を全く持っていなかったから。(※)

[加筆・訂正 2021.12.18 性自認の多様性と身体の多様性を一緒くたにする書き方をしてしまった箇所があり、その事をDSDs(性分化疾患)を持つ子どもと家族のための情報サイトのネクスDSDジャパンさんからご指摘いただきましたので加筆・修正いたしました。ネクスDSDジャパンさん、ご指摘くださりありがとうございました。]

クラーク志織
Clark Shiori

でも今、こうやって知ることができているのは(勿論、まだまだ知らない事も沢山あるとも思います)、ガチガチにジェンダー化された社会の常識にハマれなかった人や疑問を感じた人が、苦しい状況の中でも何度も何度も声を上げ続けてくれたからだと思うのです。本当に感謝です。と同時に、苦しい立場にいる人がどうしてわざわざもっと苦しい思いをして声をあげなくちゃいけないんだという理不尽も感じます。

男脳・女脳は迷信だと発表した学者たちも、その発表のせいで多くの非難を浴びたと言います。それでも諦めずに発信し続けたからこそ、私も「脳はひとりひとりユニークな特徴をもつモザイクみたいなのだ」と知り、そのことを今こうして発信できている。そしてこの記事を読んでくれた誰かが、きっとまた誰かに伝えてくれると思うのです。

世界は一晩では変わらないし、1人のヒーローでも変わらない。多くの人の勇気と優しさの集合体で変わっていくのだと私は信じています。だから2022年も私は自分のできることの1つ、この連載を頑張って続けていきます。と、年の瀬に決意を新たにしてみました。

ということで皆様、良いお年を!2022年もよろしくおねがいします!

【参考文献】

『ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性』 ダフナ・ジョエル, ルバ・ヴィハンスキ
「Meet the neuroscientist shattering the myth of the gendered brain」The Guardian

「The gender biases that shape our brains」BBC

「Global Determinants of Navigation Ability」 ScienceDirect

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