URA賞受賞会場
「では、これで受賞者のスピーチを終了させていただきます。皆さんありがとうございました」
司会者のアナウンスで壇上にいたウマ娘達が舞台から降りていく。
「お疲れ、コントレイル」
降りて来たコントレイルにトレーナーが労いの言葉をかける。
「緊張しました……うまく話せていましたか」
「ああ、ばっちりだ」
コントレイルは、ホープフルステークスの勝利が評価され、最優秀ジュニア級ウマ娘賞を受賞した。そこで、授賞式に出席したのだった。
「にしても、皆さん堂々としていてすごいです」
「まあ、お前も頑張っていけばこういうところにはなんども来ることにはなるな。今のうち慣れとけ」
「ふふっ、それはさすがに」
「もし、よろしくて?」
二人は声をかけられ、向き直る。そこにはドレスを着飾ったウマ娘がいた。
「レシステンシアか、受賞おめでとう」
「ふふ、ありがとうございますわ、コントレイルさんもトレーナーさんもおめでとうございますわ。」
レシステンシア、阪神ジュベナイルフィリーズの勝ウマ娘であり、コントレイルと同じく最優秀ジュニア級ウマ娘賞を受賞した。大企業の社長令嬢であり、派手な言動とそれに見合う実力で常に注目を集めている。
「レシステンシアさん、何か聞きたいことが?」
「ええ、わたくし、今年は桜花賞を一番の目標にしていますの。あなた方にも、ティアラ路線に向かう子がいるかしら?」
レシステンシアが試すように尋ねる。コントレイルは少し戸惑いながら、トレーナーの顔色を伺うが、
「ああ、うちからは、デアリングタクトがティアラ路線に向かうつもりだ」
「デアリングタクトさんね……」
レシステンシアは、一瞬考えると、
「ありがとうございますわ。では、コントレイルさん今後の健闘を祈ってますわ」
レシステンシアは満足したように、二人の前から立ち去った。
「よかったんですか?タクトさんのこと言ってしまって」
「別に隠すことでも無いしな。タクトにもレシステンシアのことは言っておこう」
こうして二人はパーティーを楽しんだ。
一ヶ月後、トレセン学園教室
キーンコーンカーンコーン♪
「コントレイルさん、カフェテリアへ行きませんか?」
午前の授業が終わり、コントレイルが片付けをしていた時、デアリングタクトが声をかける。
「はい、行きま……」
「デアリングタクトはいますかしら!?」
突然、ドアが勢いよく開けられ大声が響く。そこにはレシステンシアがいた。
「え、レシステンシアさん!?」
「デアリングタクトは私ですが、なにか用ですか?」
デアリングタクトが応えると、レシステンシアは一直線に向かう。
「あなたが、デアリングタクトさんね。あなた、本当に桜花賞に出るつもり?」
「はい、エルフィンステークスを勝ちまして資格を得ました。レシステンシアさんも出られるのですよね。いいレースになるよう頑張りましょう!」
デアリングタクトは、笑顔で手を差し出す。しかし、
「どうゆうおつもりですの!?」
レシステンシアの言葉に、周りがポカンとする。
「あなたのことを調べさせていただきましたわ。そしたら、ここに来るまでレースとは縁もゆかりもないようではありませんの。実家は音楽家、音楽の勉強をしてきたのに急にレースだなんて、なめるのもいい加減にしなさい!」
レシステンシアはデアリングタクトにまくしたてる。
「いい?GⅠレースは、少し走れる程度でその舞台に立っていいものではありませんの。ひやかしのために枠をつぶすのは、本気で取り組んできた者たちへの侮辱ですわ。そのつもりなら、今すぐ出走を撤回しなさい!」
あたりが静まる。
(ああ、私たちが教えたためにこんなことになるなんて…)
コントレイルが後悔している中、
「ええ、確かにレシステンシアさんのいう通りです」
「!?」
「確かに私は、皆さんよりレースへの理解や経験が足りないことは自覚しています。それに、レースで結果が出なければ、再び音楽の道の戻ることもできます」
「なら!」
「ですが!」
デアリングタクトは顔を上げ、レシステンシアを見つめる。
「私は、レースを遊びでやるつもりはありません。この世界に身を投じた以上目指すのは勝利のみ、想いは皆さんに負けないつもりです」
デアリングタクトの言葉は迷いのないものであった。
「レシステンシアさん、忠告ありがとうございます。しかし、桜花賞は私が勝ちます!」
「!?」
デアリングタクトの言葉に周りがざわめく。
「ちょっと、あれ本気?」
「無理だよ、だってレシステンシアさんすでにGⅠウマ娘だよ」
「でもなんか、おもしろくなってきた」
デアリングタクトの言葉を聞いていたレシステンシアが口を開く。
「なるほど、これがあなたの覚悟というわけですわね。では、こうしましょう」
「!?」
「桜花賞、わたくしとあなたのどちらかが勝利すれば、負けたほうに好きに言うことを聞かせるっていうのはどうかしら?」
「!?」
緊張が走る。
「もちろん受けなくても結構。それで走るのも今回は許しますわ。しかし、それはあなたの覚悟はその程度ということになりますけど」
「タクトさん、やめましょう」
レシステンシアはすでにGⅠを勝ったウマ娘。さらに、阪神ジュベナイルフィリーズでレコードを出している。桜花賞も同じ条件のため好走する可能性が高い。一方のデアリングタクトは無敗とはいえ、桜花賞がGⅠどころか重賞初挑戦になる。明らかに不利だった。だが、
「分かりました。受けましょう」
「タクトさん!?」
コントレイルが声をあげる。
「大丈夫です、コントレイルさん。これが私への試練ならば、正々堂々受けて立ちます。それでいいですか、レシステンシアさん」
「……ええ、よろしいですわ。もう降りるのは許しませんわ。では、楽しみにしていなさい!桜花賞のウィナーズサークルで称えられるわたくしの姿を。オーホッホッホ!」
レシステンシアは、笑い声を響かせながら教室を出ていった。
「厄介なのに目をつけられたな」
チームスピカの部室でコントレイルとデアリングタクトから話を聞いたトレーナーは髪をかき上げつぶやいた。
「勝手なことをしてしまい申し訳ありません」
「まあ、あたるのは分かっていたことだ。こっちこそ申し訳ない」
2人がともに頭を下げる。
「しかし、やることは変わりません。勝利を目指しより励んでまいります」
「ああ、本番で驚かせてやろうぜ」
「私もできることがあれば……」
「お気持ちありがとうございます。ですが、コントレイルさんは皐月賞に集中してください」
「はい、わかりました」
目指すべき先が見えた。後は捕まえるのみ。決戦の日は近い。