(お父さん、お母さん、コントレイルです。私が、トレセン学園に来てから早半年近くたちました。そちらはお変わりありませんか?私は元気です。トレセン学園では、勉強もトレーニングも頑張っています。また、ルームメイトやチームの先輩方とも仲良くなれました。そして、先日ついにメイクデビューを迎え、勝利を飾ることが出来ました。とてもうれしかったです。これからも、期待に応えていきたいです……が、ごめんなさい。もしかしたら、早くも道が閉ざされてしまうかもしれません)
「ちょっとだけ付き合ってもらうだけだからさ~」
「別に何もしないって。ほんとだよ」
コントレイルとデアリングタクトは、街中で2人組の男たちに絡まれていた。二人は、トレーナーから備品の買い出しを頼まれ、それを済ませて帰る途中だったのだが、そこに男たちがナンパしてきたのだった。二人は、一貫して断り続けていたのだが、押しが弱かったせいか、未だにしつこく絡まれていた。
「ですから、私たちは学園に戻らないといけないですし、寮も門限がありますので……」
「大丈夫だって!トレーナーさん?にはちょっと遅くなるとか連絡すればいいし、一回ぐらい門限破ったって問題ないって」
「それにさ、そんなの守ってて楽しい?それよりか俺たちと遊んだほうが青春って感じしない?だからさ……」
コントレイルの言葉に耳を貸さず、年上の男が続けようとすると、デアリングタクトが前に出る。
「いい加減にしてください!私たちは、あなた達についていくつもりはありません。お引き取りください!」
「……なんだぁ、せっかく楽しませてやろうとしてるのによ……」
「やめとけ。嬢ちゃんずいぶん威勢がいいじゃねえか」
デアリングタクトの拒否に年下の男が怒りを見せるが、年上の男が制す。しかし、彼もさっきまでの笑みを浮かべていた顔がデアリングタクトをにらむものに変わっていた。
(どうしたら……)
「ごめーん!待たせた?」
張り詰めた空気に突然明るい声が響く。四人が一斉に顔を向けると、そこにはトレセン学園の制服を着た鹿毛のウマ娘の少女が近づいてきた。コントレイルとデアリングタクトは、待ち合わせの約束はしていない為、あっけにとられた。そのことはお構いなしに少女は二人に近づく。
「寒くしてない?さあ、帰りましょう」
少女は二人の手をとって連れ出そうとする。その間際、二人の耳元に顔を近づけ、ささやいた。
「今は、話をあわして」
「あ、すいません。迎えがきましたのでこれで……」
コントレイルがささやきに従い、デアリングタクトと共に離れようとする。
「いや、ちょっと待てよ!」
突然の乱入者に年下の男が慌てて引き留めようとする。
「落ち着け、あんたアーモンドアイだろ?」
年上の男の呼びかけに少女が振り返る。
「あれ~お兄さん私のこと知ってるの?」
「もちろんだよ、去年のトリプルティアラほんとにすごかったよ」
「わぁ、ありがとう。これからも応援してね♪」
少女―アーモンドアイが男たちに笑顔を振りまく一方、コントレイル達を男たちから遠ざけようとしていたが、
「俺、あんたのこともっと知りたいんだよな。どう、これから?」
「……え~どうしようかな?」
男の申し出にアーモンドアイは悩んだそぶりを見せる。
「だったら、あの子たちは置いといて、私を全力で楽しませてほしいなあ」
「アーモンドアイさん!?」
まさかのOKにコントレイルが驚く。
「大丈夫!ちょっと話してくるだけだから、先に帰ってて。……さあどうしようか?」
アーモンドアイは、二人に笑顔で応えると離れたところで男たちと話始めた。
(大丈夫でしょうか。でも、私には何も……)
「全く、しょうがないな。君たち大丈夫」
コントレイルが途方に暮れていると、後ろから声がかかる。そこにもトレセン学園の制服を着たウマ娘がいた。
「私はキセキ。アーモンドアイと歩いてたらこの場に出くわして、アーモンドアイがとびだしてしまったんだ。とりあえず君たちは大丈夫そうだね」
「でも、アーモンドアイさんが……」
「彼女は、自分でなんとかすると思うけど。それに保険はすでにかけてるしね」
「?」
(まさか、あのアーモンドアイが出てくるとは思わなかったぜ。まあ、ウマ娘であれど結局は女の子だし、すげー強いヤツだから稼いでそうだし、あとは弱みでも握れれば金にはこまることは無いな。さーてどうしてやろうか。てか、自分からノってきてバカな奴)
年上の男が内心で思っていると、
「ああ、これはあくまで気にしなくていいんだけど」
アーモンドアイの声に男たちが耳を傾ける。
「私って、自分で言うのもなんだけどトゥインクルシリーズの人気者じゃない?だからさ、もし何かあれば、多くの人たちに迷惑が掛かっちゃうのよね。まずトレセン学園でしょ、URAにレース場運営団体やイベント団体、あと管轄省庁簡単に言えば国ね。そうゆうところが動いちゃうかも~あとファンたちも悲しむかもな~今の場面、私とあなた達の写真を周りの人たちが撮ってて、ニュースになればすぐに特定されちゃうかもね」
アーモンドアイは軽いトーンで口に出している。しかし、それを聞いていた男たちの顔はどんどん青ざめていく。そして、アーモンドアイが年上の男に顔を向ける。
「それでも、私を連れていくつもり?」
「……ああ、もうこんな時間か!いやーこの後予定あるんだった」
「そうでしたね!ごめんねアーモンドアイちゃん。レース頑張ってね!ははは……」
男たちは、走り去ってしまった。
「やれやれ、ちょっと疲れたわ」
「お疲れ」
アーモンドアイが振り向くと、コントレイル達とキセキがいた。
「あれ、待ってたの?」
「君を置いていくるわけないだろ」
「大丈夫ですか、アーモンドアイさん」
「ああ、なんもなかったわよ。なんか急に予定思い出したようでさ、帰っちゃった」
「ああ、良かったです。私たちのせいで何かあればと心配で」
「もう、そんな泣きそうな顔しないで、これで万事解決、さあ帰りましょ。えーと」
「コントレイルです」
「デアリングタクトです」
「コントレイル・デアリングタクトね。じゃあ帰りましょ。キセキも」
「あと、学園には連絡入れてあるから。お楽しみに」
「……え?」
トレセン学園の校門には、トレーナーとサイレンススズカ、駿川たずな、シンボリルドルフ、エアグルーヴが待ち構えていた。
「コントレイル!タクト!」
トレーナーが一目散に二人に駆け寄る。
「二人とも大丈夫か?ケガとかないか?」
「はい、大丈夫です」
「そう、良かった」
サイレンススズカが胸をなでおろす。
「……すまない、慣れてない二人だけで行かせたオレのミスだ。もっと考えるべきだった。怖い思いをさせたな」
「!?いえそんなことは……」
「むしろここまで心配していただいたことに、うれしさと申し訳なさを感じます」
「二人とも、悪かった」
トレーナーとの話がおわったところで、
「このたわけ!」
エアグルーヴがアーモンドアイに一喝したのだ。
「あれほど学園外で何かあれば、すにやかに連絡を入れて指示を待つよう言っていたはず。それに自ら危険な状況に突っ込んでいくとは言語道断!」
「いやー、何と言いますか、一刻をあらそうと言いますか、もう少しで二人が押し切られそうだったので体が勝手に、的な?」
「それで二人を助け出せたとしても、お前が取り残されては意味がないだろ。トゥインクルシリーズの顔であることを自覚してだな」
延々と続きそうなエアグルーヴの説教をシンボリルドルフが制す。
「そこまでにしておいてくれ、エアグルーヴ。アーモンドアイ、君が後輩を守ろうとしたことは感謝している。ただ、自分のことも大切にしてもらいたい。君にもしものことがあれば多くの人が悲しむからね」
「はい、反省してます」
「そして、ありがとう、未来の希望を守ってくれて」
シンボリルドルフの感謝の言葉に、アーモンドアイはバツが悪そうにしながら笑みをうかべた。
「キセキ、連絡を入れてありがとう。やはり君は頼りになる」
「いや、そこまででも。ただ、言われた通りにしただけですから」
ここでこの場は解散することになった。コントレイル・デアリングタクト・キセキが栗東寮に住んでいる中、アーモンドアイは美浦寮に足を向けていた。
「アーモンドアイさん」
コントレイル・デアリングタクトが声をかける。
「ん、どうしたの?」
「あの、ありがとうございました!お礼はいつか必ず」
「お礼?別にいいわよ、あれは私が勝手にやったことだし」
「しかし、助けられたのは事実です。何もしないわけには……」
「そうね、私天皇賞(秋)に出るの。良かったら見に来てほしいな~なんて」
「はい、見に行かせていただきます」
「応援させていただきますね」
「あと、さん付けじゃちょっと堅苦しいよね。ここまでお近づきになったんだからもっと気軽に呼んでほしいな」
「気軽にですか?」
「そうですね、……アイ先輩なんてどうでしょう?」
「アイ先輩いいじゃない、ありがとう二人とも、これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いしますアイ先輩!」
しばらくして、GⅠ天皇賞(秋)が行われ、二人が見ている前でアーモンドアイはGⅠ6勝目を挙げた。今走っているウマ娘として最強といわれるアーモンドアイの強さを目の当たりにした二人は、高みを目指す思いを強くした。
コントレイル・デアリングタクトそしてアーモンドアイ、ここで一度交わった線は、それぞれの道を歩み、そして再び交わることになる。