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この作品「二人の序章」は「ウマ娘プリティーダービー」「オリジナルウマ娘」等のタグがつけられた作品です。
二人の序章/ユーカンの小説

二人の序章

4,554文字9分

 ウマ娘プリティーダービーの二次創作で、コントレイル中心に書いてみました。(今回はエピソード0的なものですが)
 とりあえずシリーズ化しておきます。

2021年7月5日 12:37
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 コントレイルが彼女を初めて見たのは小学生、夏に入りしばらくたった頃だった。空が白みかけた早朝にふと目が覚め、二階にある自室からふと道路を覗き込むと、そこを一人のウマ娘が走っていた。赤いジャージを着たウマ娘は、長い鹿毛の髪をなびかせながら、自宅の前を通りすぎていった。早朝にランニングをするのは、人でもウマ娘でも珍しくない光景だ。だが、コントレイルは、さっきの光景がなぜか心に残った。翌日、同じ時間に起きて、待っていると、同じようにあのウマ娘が通り過ぎていった。このランニングは、彼女の習慣なのだろうと、コントレイルは思った。
 そんななか、コントレイルは学校から下校している途中で彼女を見かけた。彼女の後をつけると近くの公園に入っていき、ストレッチを始めた。ストレッチを終えると、コンクリートのうってある一画にシートを敷き、腕たてふせや腹筋などトレーニングを行う。コントレイルは入り口で隠れながら見ていたが、彼女がこちらに視線を向けると驚いて逃げ帰ってしまった。自宅に帰ってから、逃げてしまったことを申し訳なく思った。
 翌日同じように公園を覗くと、彼女はトレーニングの最中だった。夕方になれど未だに熱気がこもる中、彼女のほほには汗が流れている。コントレイルはその様を見て、近くのコンビニに入ると、スポーツドリンクを買って公園に戻った。ちょうど彼女はベンチに座り休憩していたところだった。コントレイルは少しの間ためらったが、彼女のもとへ歩いていく。
「あの……」
コントレイルの声に彼女は、顔を向ける。
「……これ、どうぞ」
コントレイルは意を決してスポーツドリンクを差し出した。彼女は、キョトンとした顔をしたが、すぐに微笑み
「ありがとう」
と手に取った。コントレイルは受け取ってもらったのを確認すると、お辞儀をして立ち去ろうとしたが、
「ちょっと待って!」
と、呼び止められた。振り返ると、彼女は隣を指して、
「少し話していかない?」
と言った。促されるようにコントレイルは隣に座った。
「昨日、入り口で見てたわよね」
「! すいません……」
「何で謝るの?」
「……だって逃げてしまったから」
うつむきながら話すコントレイルの頭に、彼女が手を置く。
「別に気にしてないわ。むしろ私、見られるの好きよ」
彼女は笑って言った。コントレイルは話そうとしたが、ここで彼女の名前を聞いていないことに気づいた。それに気づいたのか、
「ディープインパクト」
「え?」
「ディープインパクトよ。ディープでいいわ。よろしくね」
「あっ、コントレイルです」
「コントレイルね。いい名前。近くに住んでるの?」
「はい、朝にディープさんが走っているのを見てました」
「あらそう。やっぱり天才は注目を集めてしまうのね」
ディープインパクトは満足そうにうなずいた。
「ディープさんはどうしてトレーニングしてるんですか?」
コントレイルは以前から気になっていたことを聞いた。
「気になる?私、トレセン学園の生徒でもうすぐトゥインクルシリーズにでるの。そのためのトレーニングってわけ」
「トゥインクルシリーズ!?すごいです!」
トゥインクルシリーズは、走りを志すウマ娘なら一度は目指すレースで、トレセン学園は正式名称は『日本トレーニングセンター』といい、学業とレースのトレーニングを行う学校だ。
「ふふっ、すごいでしょ。私は走りに向いていたからこの道を選んだの」
コントレイルとディープインパクトはしばらく語り合ったが、帰りが遅くなるので帰ることにした。その時、
「コントレイル、夏休みってもうすぐ?」
「はい」
「よかったら、私のトレーニングを手伝ってくれない?もちろん両親の許可をもらってね」
「! はい! ぜひ、お願いします!」
コントレイルは帰ると、両親にディープインパクトの手伝いをしたいと言った。当初は、戸惑った両親も、後日ディープインパクトに会うと誠実な印象から許可した。
 
 夏休みになると、コントレイルは朝からディープインパクトと共にランニングをし、公園のトレーニングの介助をする日々を過ごした。休憩の間には、コントレイルの宿題をディープインパクトがみていた。
ディープインパクトは、自らを天才とたびたび言っていたが、トレーニングや学業に手を抜くことは無く、むしろかなりストイックであった。コントレイルは、こうしたディープインパクトにひかれていった。ある日、
「コントレイルもトレーニングしてみる?」
突然ディープインパクトから提案を受け、コントレイルは遠慮したが、
「コントレイルは素質あると思うけどな~」
とのおしに負けて、ディープインパクトの指導と独自のメニューを行うようになった。最初はかなり苦しかったものの、ディープインパクトの指導によって徐々に耐えられるようになっていった。
 そうした日々を送り、夏も終わりになる頃、
「明日学園に戻るわ」
「……そうですね」
ディープインパクトの言葉に、コントレイルの気持ちは沈んだ。ディープインパクトがここでトレーニングをしていたのは、夏季休暇を使って学園を離れていたからであった。いつかは、学園に戻りコントレイルと別れることになるのは二人ともわかっていた。
「落ち込まないで。二度と会えないわけでもないし」
ディープインパクトは笑いながら続ける。
「むしろ露出は増えるわね。私これから勝ちまくるわけだし」
ディープインパクトの慰めにコントレイルは、涙ぐみながらも笑みを浮かべる。
「私、ディープさんのレース見に行きます。応援しに行きます」
「ありがとう。ならクラシック三冠は外せないわね」
クラシック三冠は、皐月賞・日本ダービー・菊花賞のクラシック級の選ばれたウマ娘が一度しか出れない、場所も距離も違うレースだ。一つ勝つだけでも至難の業だか、三つとも勝つと「三冠ウマ娘」と呼ばれ世代最強の証となる。
「三冠、目指すんですね」
「ええ、もちろん。私は天才だもの。目標は最高にもっていかないと」
夕暮れが二人を照らし、残り時間が迫っているのを感じさせる。
「次はレース場で会いましょう」
「はい」
二人は約束を交わし、別れた。

 それからのディープインパクトの活躍は目覚ましいものだった。デビューから無敗で皐月賞に挑み勝利、日本ダービーも5バ身差の圧勝。ディープインパクトは日本中の注目を集めていた。コントレイルは両方ともレース場で観戦していた。
「ディープさんすごい!」
コントレイルの瞳は輝いていた。
 菊花賞は秋の京都レース場で行われる。コントレイル住んでいるところから遠い為現地で観戦は難しいと思っていたが、ずっと応援してきた娘を見てきた両親の計らいで、見に行けることになった。
会場には多くの人々が詰めかけていたが、コントレイルは最前列にいた。ウマ娘たちがターフに入ってくると歓声と激励が飛ぶ。しかし、ディープインパクトが入ってくると、それまでとは比べられないほどの歓声があがった。ウマ娘たちが向こう正面のゲートに入り、緊張が張り詰める。ゲートが開くと、ウマ娘たちが飛び出す。ディープインパクトは集団の後方に控える。正面を通りすぎると歓声があがり、コントレイルも声をあげる。集団が向こう正面を過ぎ第4コーナーのあたりでスパートをかけた。
『外からディープインパクト! 外からディープインパクト!』
実況の声に力が入る。ディープインパクトはそこから他のウマ娘を抜き去っていく。そして、残り100メートルで先頭を捕らえ、ゴール板を駆け抜けた。
『世界よ見てくれ! これが日本近代ウマ娘の結晶だ! ディープインパクト!』
「うおぉぉぉ!」
観客の叫びが京都の秋空にこだました。ディープインパクト、6人目の三冠達成、そしてシンボリルドルフに次ぐ2人目の無敗三冠であった。ディープインパクトは、息を整え観客席の前に行くと、右手の三本指を突き上げた。さらに大きな歓声がその場を包んだ。
「ああ、ああぁ」
コントレイルは、涙を流しながら見ていた。今の歓声では、自分の声は届かないと思った。でも、
「ディープさん、おめでとうございます」
胸がいっぱいになった声で言うのが精いっぱいだった。
 しばらく落ち着かせてから後にしようとしたところだった。
「すいません。コントレイルさんのご家族の方ですか」
スーツを着た男性が話しかけてきた。
「私、ディープインパクトのトレーナーを務めさせていただいてます。ディープインパクトがコントレイルさんに会いたいと言っています。お時間よろしいでしょうか?」
「ディープさんが?」
コントレイルは困惑しながらもディープインパクトの控室に案内された。トレーナーがノックをすると、「どうぞ」の声がして、中に招き入れられた。ディープインパクトは勝負服を着たままで椅子に座って待っていた。
「久しぶり。コントレイル」
ディープインパクトは、コントレイルの顔みて嬉しそうに笑った。
「なんで、いると思ったんですか」
「だって約束してくれたじゃない。レース場で会いましょうって、クラシック三冠は見に行くって。それに……」
「それに?」
「レース後、観客席の前に来た時、聞こえたの。コントレイルの声で『おめでとうございます』って」
「!?」
コントレイルにとって、あの声は届くはずのないものだった。どうして聞こえたのかはディープインパクトでも分からないだろう。だが、想いは確実に届いていた。コントレイルの目に涙が浮かぶ。
「もう、泣かないで。うれしいことなんだから。話は変わるけど、トレーニングはまだ続けてる?」
「……はい」
コントレイルは、ディープインパクトが戻ったあと、やっていたメニューを参考にネットで情報を探りながら続けていた。
「そう、よかった。ここに呼んだのはこれを渡したかったの」
そういって、ディープインパクトは鞄から一冊のノートを取り出す。
「これは?」
「これは、今のあなたに有効なトレーニングメニューや理論をまとめたものよ。これをあげる」
「!? こんなすごいもの私なんかがもらっても」
「あなただからこそもらってほしいの。あなたは強くなる。誰よりも速く、強く、人々の期待に応えられるウマ娘になる。天才の私が保証する」
「ディープさん……」
「だからもう一回約束させて。今度はトレセン学園で会いましょう」
「……はい! 私ディープさんの作ってくれたトレーニングで頑張ります。がんばって、トレセン学園に入って、皆さんの期待に応えられるウマ娘になります!」

 数年後、桜が咲き始めた頃、車から荷物を持ってコントレイルは降りた。
「大きい荷物は、寮の方に送ってあるから」
「体には気を付けてね。いつでも家に帰ってきていいから」
両親が車の中から心配そうに声をかける。
「心配ありがとうございます。でも大丈夫です」
コントレイルは、去っていく両親を見送ると、目の前の大きな門に目を向けた。表札には『日本トレーニングセンター学園』と大きく書かれている。
「ディープさん、約束、果たしに来ました」

新たな物語が作られようとしていた。

コメント

  • モチカ

    ディープインパクトとコントレイルの物語、とても面白かったです!続きが気になってしまい仕方がありません笑!完結目指して頑張ってください、自分も負けじと頑張ります!!

    2021年7月6日
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