ルームメイト
続きました。
コントレイルとデアリングタクトの創作ビジュアルも描いてますので、よかったらどうぞ。
コントレイル illust/89109402
デアリングタクト illust/89675443
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コントレイルは、栗東寮へ向かい寮長のフジキセキへ挨拶を済ませると、自分の部屋へ向かった。廊下を歩く中、コントレイルは先ほどのフジキセキとの会話を思い返していた。
十数分前
「そう言えば、君の部屋には他の子がいるからね」
「他の方? 先輩ですか?」
「いや、君と同じく今年入ってきた子だよ。数日前にここに来たんだ。なかなか面白い子だから仲良くしてあげてね」
「……分かりました。ありがとうございます」
(どういう方なのでしょう? 私は、人付き合いは苦手ですから仲良くなれるか心配。優しい方ならいいんですが)
コントレイルは、まだ見ぬ同居人に不安を感じながら、歩いていく。やがて、自分の部屋を見つけた。
「ここですね」
コントレイルはためらいながらも、ドアをノックした。
「はい! どちら様でしょうか」
ドアの向こうから声が聞こえる。良く通る声だ。
「すいません。今日ここに入る者なんですが、今入って大丈夫ですか?」
「はい! 大丈夫です。遠慮なさらずどうぞ!」
入室の許可が出て、コントレイルは、静かにドアを開け部屋に入る。
「失礼します……」
部屋の両脇にベットと机がそれぞれ一組づつ置かれており、真ん中にウマ娘が姿勢よく立っていた。青鹿毛の髪をショートにして、明るい緑の目、左耳に水色のリボン、その下に音符の形をした髪留めをつけている。
「初めまして、これからこちらでお世話になります。デアリングタクトです」
「あ、コントレイルです。よろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ。ここはあなたと私の部屋なんですから。こちらのベットにどうぞ。そういって彼女は、片側のベットに促す。すでに物があることから、デアリングタクトのベットなのだろうとコントレイルは思った。
「すいません。失礼します」
「紅茶は飲まれますか?ちょうど休憩しようと入れていたところだったんです」
コントレイルがベットに座ると、デアリングタクトがティーポットとカップを持ってくる。
「ありがたくいただきます」
デアリングタクトが、ポットから紅茶をカップに注ぐと、コントレイルに渡す。デアリングタクトが隣に座り、二人で紅茶を口にする。
「美味しい」
「お口にあったようでよかったです。いい銘柄なので実家から持って来たんですよ」
紅茶の好評にデアリングタクトは嬉しそうだ。
「ええと、デアリングタクト……さん」
「ああ、タクトでもかまいませんよ。長い名前ですよね」
「いえ、そういうつもりは、ではタクトさんで」
コントレイルとデアリングタクトは、互いの話をしていく。デアリングタクトはコントレイルの話にころころと表情を変え楽しそうに聞いていた。一方で、仕草からは品の良さが感じられる。しばらくして、コントレイルはデアリングタクトの机の下に大きな黒いケースを見つけた。
「タクトさん、これは何ですか?」
「ああ、これはですね……」
デアリングタクトがケースを持ってくると、留め金を外し開けた。中には、年季は入っているがきれいに手入れされたバイオリンが収められていた。
「わあ、すごい!」
「実家から持ってきたバイオリンです。数年前から使わせてもらっています」
「バイオリン弾けるんですか?」
「ええ、両親が二人とも音楽家で、私も小さな時から音楽の勉強をしていたんです」
デアリングタクトの思わぬ過去にコントレイルは驚きながらも、彼女の落ち着きぶりに納得がいった。だが、新たな疑問が浮かび上がる。
「すいません。質問よろしいですか?」
「はい、なんでもどうぞ」
「タクトさんは、今まで音楽の勉強をしていたんですよね。どうしてトレセン学園に入ったんですか」
「まあ、そうですよね。私も最初は音楽一本でいくつもりでした。でも……」
デアリングタクトは照れながらも言葉を続ける。
「家族でトゥインクルシリーズを見に行った時、まだレースとか興味が無かったんです。そんな中、聞こえたんです。ファンファーレが。すると、ターフにいたウマ娘の皆さんの雰囲気が変わって、レースが始まると……すごいとしか言いようがありませんでした。それから、あのファンファーレが頭から離れなくて、あのファンファーレを近くで聞きたい。走るウマ娘たちにどんな力を与えてるのか知りたいとずっと思ってて、両親に話をしたら『たまには別のことに取り組んでもいい。その経験は無駄にならない』と了承をもらったんです」
デアリングタクトは笑顔で答える横で、コントレイルは戸惑いをおぼえていた。
(なんだか変わった人だなあ)
「あ、もちろん走りも手を抜きませんよ。やるからには最大限の努力をします」
デアリングタクトの目は真剣そのもの、レースも本気のようだ。
「そうですか、安心しました」
「では、次はコントレイルさんの番ですね」
「え?」
「コントレイルさんはどうしてトレセン学園に来たんですか」
「え、あ、その……」
言い淀むコントレイルの横で、デアリングタクトが目を輝かして答えを待っている。
「ああ、そうだ、そろそろ荷物を片付けないと」
「ああ、そうですね。長く話し込んでしましました。私もお手伝いします」
「いえ、自分一人でも……」
「ルームメイトですから、これから二人で助け合っていきましょう」
「タクトさん、ありがとうございます」
「先ほどの話は、夕食を頂きながらということで」
「……お手柔らかにお願いします」
コントレイルは、そう答えるしかなかった。