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新たなUIで生まれ変わったNTTドコモの『dTV』

2017.07.06

2015年4月22日、SVOD(Subscription Video on Demand:定額制動画配信)として国内最大の会員数を持つ『dビデオ』を『dTV』へとリブランドしたNTTドコモ。新サービスではテレビ視聴のようなザッピングを実現した新しいUI(ユーザー・インターフェース)に加え、専用アダプター『dTVターミナル』でテレビにつなぎ、付属のリモコンを使えば、さらにテレビと同様の楽しみ方が可能になります。

海外勢の進出でますます競争が激化するSVOD市場で、生まれ変わったdTVはどんな強みを発揮するのでしょうか。ITビジネスアナリストの大元隆志氏が、NTTドコモスマートライフビジネス本部マーケットビジネス推進部デジタルコンテンツサービス担当部長の大島直樹氏にお話をうかがい、市場動向とdTVの優位性について解説します。

黒船上陸は脅威かチャンスか

 「通信と放送の融合」。この言葉を聞くようになって久しいが、米国ではまさに業界の垣根を超えた再編が進んでいる。米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズがネットメディア大手AOLを44億米ドル(約5,280億円※)で買収したほか、AT&Tによる衛星テレビ大手DirecTVの買収が規制当局の承認待ちとなっており、衛星テレビのディッシュ・ネットワークとTモバイルの合併交渉が進行中とも報じられている。こういった交渉の背景には、スマート・デバイスの普及や広告ビジネスの転換など、さまざまな要因が複雑にからむが、そのひとつに有料動画配信最大手のNetflixの躍進がある。

 Netflixは1997年に宅配DVDサービスとして創業し、2007年からネット配信を開始した。米国では世帯の8割超がケーブルテレビや衛星放送などの有料契約でテレビを視聴しており、月額利用料金は約1万円前後。対してNetflixは月額7.99米ドル(約959円※)という価格で全コンテンツが見放題。ケーブルをカットしてNetflixへ移行する「コードカッティング」という言葉まで生まれたほどだ。現在では会員数約6,200万人、50か国でサービスを展開するグローバル企業へと成長している。さらに2013年にはオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード』を製作し、テレビ界のアカデミー賞であるエミー賞を獲得するなど、単なる動画配信事業者の枠を超えたコンテンツ制作力も身に付け始めている。

 そのNetflixが日本に上陸するとあって、国内ではVODに注目が集まっている。しかし、有料放送契約が当たり前の米国に対し、日本では無料で楽しめるテレビ放送があり、有料放送契約世帯の数は2割に過ぎず、状況が大きく異なる。国内有料動画配信最大手であるdTVでも会員数は450万人、Huluも国内サービス開始から4年をかけてようやく会員数100万人を突破した。両者の数を合計しても、レンタルDVD利用者やテレビ視聴者の数と比較すればまだまだ小さい市場だ。業界関係者の間では、Netflix上陸は脅威ではなく、国内でのVOD市場拡大のためのチャンスと捉えられている。

 黒船上陸を前にリブランドを果たしたdTV。拡大するVOD市場において、国内最大の同サービスはどのような戦略で攻めていくのだろうか。

NTTドコモ スマートライフビジネス本部マーケットビジネス推進部 デジタルコンテンツサービス担当部長 大島直樹氏

UI変更で視聴時間増加、新規獲得にも効果

大元:4月22日に新たな動画配信サービス・ブランドとしてdTVをスタートされましたが、既存ユーザーからの反応はいかがでしょうか。

大島氏: dビデオからdTVへのリブランディングによってUI/UX(ユーザー・エクスペリエンス)が大きく変更されたので、開始直後はそこに戸惑われたお客様からネガティブな反応もありましたが、最近では「おもしろい」「簡単」「使いやすい」といったご意見や、『新宿スワン』『進撃の巨人』などのオリジナル・コンテンツが楽しみだという声が多く聞かれるようになってきました。

大元:UI/UXの変更については、以前、同サービスを運営されているエイベックス通信放送の村本理恵子取締役にお話をうかがった時に、SVODの課題はユーザーが大量にあるコンテンツから自分が見たいものを選べないことであり、テレビのように流しっぱなしのUXを提供することで、ユーザーの視聴時間を増加させる狙いがあるとおっしゃっていました。そうした面では変化は見られるのでしょうか。

大島氏:はい、視聴時間やユーザーのアクティブ率が増加するといった効果は出てきていますね。

大元:リブランド後の販売状況はいかがですか。

大島氏: dTVの主な販売チャネルにはオンラインでの申し込みとドコモショップ等の店頭での販売の2つがあり、これまでと同様に店頭でのサービス販売は順調ですが、オンラインショップでの販売もリブランド発表以降予想以上に伸び、それまでの約1.7倍となりました。また、dTVターミナルの販売についてもオンラインでの良いスタートダッシュが切れています。店頭販売はスタッフが新商品に慣れるまでの期間が必要なこともあり、これからだと思っています。

大元:dターミナルの店頭販売も、店舗側の準備が整えばさらに期待できるということでしょうか。

大島氏:そう考えています。全体のボリュームとしては店頭の方が大きいですから、今後伸びていくでしょう。

大元:dTVターミナルで動画をテレビで視聴したいというユーザーは、オンラインで申し込みをするようなリテラシーの高い層ではなく、店頭購入のほうが親和性が高いように思えますが、実際はオンラインからの加入が多いというのは意外ですね。

大島氏:ドコモの『dstick』やグーグルの『Chromecast』など、これまでにもテレビで動画を視聴する手段はありましたが、従来のデバイスはコンテンツを選択するにはスマホをリモコン代わりにする必要があり、これを不便と感じていた方も少なくありませんでした。dTVターミナルでは付属のリモコンで操作性が良くなりましたので、その点に興味を持たれた方が大勢いらっしゃったのではないかと見ています。

ファーウェイが提供した『dTVターミナル』。docomo ID自動設定により、自宅でWi-Fiにつなぐだけで簡単にセットアップが完了、テレビをつけるとすぐに動画を再生できる。dTVに加え、dアニメストアのコンテンツも視聴可能

月額500円で12万作品見放題、ダウンロードも可能

大元:dTVの競合はどこだと見ていますか。

大島氏:国内では最近プロモーションを強化されているHuluや、今秋の日本上陸が話題となっているNetflixといったサービスですね。

大元:競合に対する優位性について、どのようにお考えですか。

大島氏:まずは12万作品という圧倒的なコンテンツ数と、数だけではなく他では見られない良質なオリジナル・コンテンツが揃っていることです。その中からザッピングUIと高度なレコメンド機能により、観たい作品に出会うことができます。これを月々わずか500円で好きなだけ楽しめるというコスト・パフォーマンスは、どこにも負けないと考えています。dビデオの頃からエイベックスが培ってきたコンテンツの制作力や調達力と、ドコモの顧客基盤が相乗効果となって、この価格が実現できています。また、他のVODにはない機能としてコンテンツのダウンロードに対応していることも強みです。

大元:VODでコンテンツがダウンロードできるのはすごいですね。そもそもコンテンツ提供を交渉する時に、著作権者は違法コピーを恐れてダウンロードがあるサービスには供給したがらないのが一般的かと思います。

大島氏:そういった交渉を実現できたのもエイベックスとドコモのタッグがあってこそだと思います。dTVのサービスはモバイルでの視聴を前提としているので、ダウンロードは譲れない点でした。移動中にも安定してコンテンツを楽しんでいただくためには、通信環境に依存しない視聴スタイルを提供する必要があります。自宅でコンテンツをダウンロードして通勤・通学の電車内や出張時に新幹線の中で観るといった視聴スタイルは、ストリーミングのみの他社のVODでは実現できません。

大元:dTVには単なるVODにとどまらず、新たな視聴スタイルの提案という要素もあるように感じます。

大島氏:はい、そのとおりです。dTVを含むdサービス全体のコンセプトとして、ドコモのサービスを外出先でも自宅でも利用していただくことで、新たなライフスタイルを提案するという狙いがあります。

大元:dTVターミナルはファーウェイ製品を採用されていますが、どのような点が決め手となったのでしょうか。

大島氏:こちらが望む機能と価格とのバランスが良かったということがひとつです。また、新しいUXの提供を実現するためにわれわれと一緒にトライしようという姿勢と、短期間で迅速に対応してくれた点も重要でした。

UI変更によりザッピング視聴が可能に。画面上部のチャンネルバー(①)を左右にフリックするだけでジャンルの切り替えができ、アプリ起動時に映画・ドラマの予告編が自動再生される(②)

ドコモのサービス戦略におけるdTV

大元:NTTドコモは今年3月から「ドコモ光」のサービスを開始しました。これまで移動体通信が中心だったドコモが、ドコモ光で固定通信を提供し、dTVターミナルでテレビを通じて家庭の中に入り込むとなると、いわゆるクアッド・プレイのようなセット割を強化する狙いがあるのではないかと想起されますが、dTVはそういったドコモの加入者促進戦略の一役を担っているのでしょうか?

大島氏:ドコモ光をお勧めする際には、TVサービスとVODサービスをリーズナブルにお使いいただけるよう、ひかりTVとdTVをセットでお勧めしています。その意味では加入者促進戦略に寄与していると言えますね。

大元:NTTグループの映像サービスとしては、ひかりTVもあれば、NOTTVもある、さらにdTVもあるわけですが、グループ間での競争はないのでしょうか。

大島氏:ひかりTVとNOTTVは放送事業であり、dTVのVODサービスとは事業領域が異なります。競争というより、それぞれのサービスを組み合わせて動画の視聴形態や視聴できるコンテンツの幅を広げることで、より快適な映像ライフをお届けできると考えていますので、相乗効果や補完効果を期待しています。

大元:格安スマホが注目を集める中、通信事業者としてはリッチなコンテンツを提供することでMNOのサービスを選択してもらうというのも重要な戦略ではないかと思いますが、dTVにもそうした狙いがあるのでしょうか。

大島氏:まず、dTVはドコモ回線ユーザーに限らない、いわゆるキャリアフリー・サービスとして、MVNOを含め他社回線ユーザーの方にもご利用いただくことを目指しています。一方、ドコモの契約では高品質なネットワークを使いやすい料金プランで提供していますので、より快適にdTVを楽しんでいただけますし、今後はドコモ・ユーザー限定の特典も検討していきたいと考えています。

ライブ配信も強化、4K対応はこれから

大元:海外の通信事業者の動向を見ていると、LTEブロードキャストの技術を使ってスポーツを中継し、スマートフォンでライブで楽しむという事例も出てきています。dTVは多数のアーティストが所属するエイベックスとの共同事業なので、コンサートのライブ配信などにも力を入れていかれるのでしょうか。

大島氏:エイベックスが毎年開催している『a-nation』というイベントのライブ配信を、昨年トライアルとして実施しました。今後はエイベックスさんの強みを生かすという意味でも、音楽イベントなどのライブ配信には積極的に取り組んでいきたいと考えています。

大元:Netflixは4K対応をアピールすることもあります。通信事業者の視点では、画質も当然ながら、通信インフラという点にも配慮する必要があると思いますが、dTVでの4K配信はどうお考えですか。

大島氏:現在はまだ4K対応はできていませんが、8Kまで含めた市場動向を見極めながら、必要な時期には即座に対応できるよう準備している段階です。

大元:今後の展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

競合サービスを一歩リード、インフラとの連携が課題

 Netflixの上陸後、dTV、Huluとどのように競い合うのかが注目の的だが、筆者はdTVが一歩先を進んでいると見ている。この3社が提供するSVODは、価格とコンテンツと視聴デバイスが主な差別化要素となる。価格はdTVが500円で提供しているため、競争の下限は限られている。コンテンツについてはライセンスとオリジナルの2種類に大別できるが、すでに飽和状態となっているライセンス・コンテンツで差別化できなくなるのは時間の問題だ。オリジナル・コンテンツは現状では数が少なすぎて、無料試聴期間で観ることができる程度なので、まだ差別化要素と言えるほどにはなっていない。視聴デバイスについても主要なデバイスには3社いずれも対応しているため差別化は難しいが、dTVターミナルでテレビ機器と接続し、専用リモコンで操作できるのはdTVの利点だ。

 現状の競争だけでもdTVは他社の先を行っているが、さらにUI/UXを日本人の視聴スタイルに「最適化」している点が最大のポイントだ。NetflixとHuluはユーザーが見たいコンテンツを選択して動画が再生される。これは一見便利なようだが、数万点ものコンテンツの中からひとつを選び出すのは実はとても難しいことだ。この点をdTVはSVODの弱点と捉え、テレビと同じ「流しっぱなし」のUIを再現し、コンテンツを選ばなくてもリラックスしてテレビの前に座っていれば編成された映像コンテンツが次々に再生されるというテレビのUXを再現している。もちろん、他のVODと同じようにユーザー自らが視聴するコンテンツを選択することも可能だ。日本のテレビ放送の視聴スタイルになじんだユーザーをよく研究されてつくられたデザインであり、米国流のNetflixやHuluにはない視点だろう。これらに加えてドコモの顧客基盤と販売網を生かせるのもdTVの優位な点だ。

 VODとして見れば他社より優位な位置にあるdTVだが、懸念がないわけではない。dTVをNTTドコモのサービスとして見た場合には、方向性が見えづらい点がある。格安スマホの普及が進む現状において、携帯通信事業者としては帯域を消費するリッチ・コンテンツで顧客をつなぎとめることは重要だ。dTVはまさにこのリッチ・コンテンツであり、LTEで視聴すると2時間映画1本で1.5GBほどのデータ量が発生する。しかし、NTTドコモのデータMパックの利用可能データ量は5GB。つまり、dTVで映画を月に3本も見れば、簡単に上限に達してしまうのだ。dTV単独での競争力に加え、インフラ側もその魅力を最大限に発揮できる状態になっていることが望ましいのではないか。

 Netflix上陸によってVOD市場がさらに拡大すると仮定するなら、MNO事業者は「VODを生かすためのデータ通信プラン」を準備することで、回線契約獲得の機会につながるかもしれない。

取材・文

大元隆志(ITビジネスアナリスト)

大手システム・インテグレーターで通信事業者のインフラ構築、設計、企画などに14年従事。モバイルを軸としたITのビジネス企画を得意とし、MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)アワードの審査員も務める。『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』など著書多数。Yahoo!ニュース、Impress IT Leaders、ZDNet、CNETなどIT系メディアで多くの記事を執筆。米国PMI認定PMP、MCPC認定シニアモバイルシステムコンサルタントの資格を持つ。

※1米ドル120円換算