デジタル庁の今 vol.4 行政機関システム全体アーキテクトの設計への挑戦
業界で注目を浴びるスタートアップの会社自体ではなく、今一番求めているポジション(急募求人)にフォーカスを当てて掘り下げていく本企画。
今回は番外編”デジタル庁の今”として4回に渡ってインタビューを実施。今注目を集めているデジタル庁準備室のお仕事について、実際にデジタル庁準備室で勤務しておられる皆様にお話を伺います。
4回目の今回は、デジタル庁準備室でIT戦略調整官を務める本丸さんに、仕事の詳細ややりがいをお聞きしました。
本記事の登場人物
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 IT戦略調整官※ 本丸達也
株式会社HERP 代表取締役CEO 庄田 一郎
デジタル庁準備室について
デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指し設立準備中。
徹底的な国民目線でのサービス創出やデータ資源の利活用、社会全体のDXの推進を通じ、全ての国民にデジタル化の恩恵が行き渡る社会を実現すべく、取組を推進しています。
本記事で取り上げるデジタル庁準備室の求人
※デジタル庁(準備中)Webサイトに新規タブで遷移します
ユーザーは最初から国民全員。ベースレジストリの整備で国民のユーザー体験を改善する
早速ですが、本丸さんはどのような経歴で、なぜデジタル庁への参画を決められたのでしょうか?
外資ソフトウェア会社でキャリアをスタートし、企業の基幹系情報システムの開発をしていました。1990年代当時は外資企業とはいえマニュアルや設計書等も出来上がったものはなく、メーカーや製造業など大手企業のプレッシャーの中、手探りしながらソフトウェアを作っていました。
外資で海外のエンジニアと競いながらソフトウェアを作ることも刺激的ではありましたが、国内大手企業のコアの部分が外資のものでよいのかという違和感を覚え、同じような意識を持った仲間とソフトウェア開発の会社を立ち上げました。自ら、サーバーサイド、組み込み、フロントエンドの部分に至るまでをその時々の技術の趨勢に身を任せて設計・開発を行ってきました。
オンプレがメイン、ハードウェアが中心だったレガシーからクラウド化・仮想化したモダンアーキテクチャを経験しているので、その両者の架け橋になれればと思い参画 しました。
また、 個人の体験として、20歳の時に阪神・淡路大震災を経験しています。建物や構造物といったハードが悉くフラット化するという衝撃を受け、志向性がソフトウェアにシフト しました。当時、神戸市に手を差し伸べてくれた小さなお返しとして、国難においては自分も何かしら貢献したいと長らく考えていました。
現在は概要設計の段階です。一部重点計画にも公表されている、どのような方針でシステムを作るのか、どうやって現行の制度と折り合いをつけるか、新しい制度策定と足並みを揃えられるかといったことを、モダンアーキテクチャの技術コンポーネントと擦り合わせながら検討しています。
公表している内容はまだ抽象的なものですが、実際はどのようなソフトウェア・アーキテクチャで構成するか、仮想化技術を用いたネットワーク・クラウド環境とシームレスな連携、データフローの一元化等、かなり具体的に青写真を描いています。
様々な府省が関係しますので調整が落ち着きましたら、具体的な内容の公表ができると思います。
エンジニア目線だとこうしたらいいのにと思うものがたくさんあるが、それがすぐに実現できるわけではありません。 技術的に論理的な部分と行政として論理的な部分がなかなかな交差せず、着任当時は悩んでいましたね 。
それに呼応して行政官でも技術に詳しい人たちが評価をしてくれるようになりました。おそらく今までに内製でアーキテクチャを設計するという機会がなく、概念設計を自身の目で確認して初めて、自らの手で生み出すことに可能性を見出したのだと思います。
どの組織でも起きる、お互いがお互いを信頼するためのセレモニーのようなものだったと捉えています。
また階段を登ってる最中ですが、 アウトプットで対話するのが民間人材としてのルールで、官民混在の組織において一つのアウトプットを示せたのは大きな価値 だったと感じています。
また、アウトプットも大事でしたが、理想に近づきたいという思いも同じく大切でした。アーキテクチャチームでは設計の際に「良心に基づいて」というフレーズを連呼しますが、行政官の方も想像以上にその想いを持っていて、それが前進のスピードを速くしていると感じています。
今回のアーキテクチャチームはそのコンセプトを具現化するためにリレーのバトンを受け取り、全速力で走っている状態です。
アーキテクチャチームは10人ほどで組成されていますが、チームメンバーそれぞれが高い設計力・実装力を持ち合わせています。難題でも果敢に向き合い、解を生み出す姿勢に心から感謝しています。
制度とシステム同時に設計することで、国全体の利便性を向上させる
次にタイプとしては、あらゆる技術チームと対話をしていくことになるので、相手の懐に飛び込める人が向いてると思いますね。 摩擦もあるかもしれないし、すぐに仲間になれるかもわからないが、飛び込んで信頼関係を作っていける人 が良いと思います。今チームもまさにそのプロセスにいます。
アーキテクチャチームは非常に仲がいいのですが、摩擦を恐れない人が多いんです。摩擦熱で一緒に温かくなればいいという考え方で来てもらえたらと思います。
自治体は地方班が担当しますが、自治体と国の接点の部分は我々の業務範囲になります。
将来的には開発(DevOps)・セキュリティ・運用とも密に連携しながら業務をしていくことになると思います。
例えば一般論としてクラウドネイティブでやればよいという考え方もありますが、行政は何らかの緊急事態が発生する場合に備えて迂回路を必ず持つ必要があります。クラウドやネットワークを複線化するのか、他の手段を用いるのか、設計にあたり、コストと安全係数を常に意識しています。できるだけ未来を見据えて新しい世界に移しつつも、リスクヘッジをした形で多段的な移行設計とすることは難易度が高いですが、完遂できるように使命感を持って取り組んでいます。
我々もそう認識を改めないと、デジタルインフラをこの国では支えられなくなるのではと感じています。
自身が声高に警鐘をならすというより、チームでアウトプットを残し、その残したもので対話したい と思っているので、それを残そうと今頑張っているところです。
今まで自動車会社等のクライアント向けも含め大規模なシステムやコアとなるソフトウェアモジュールを作ってきましたが、ずっと日本の産業が弱くなっていくことを実感し続けてきました。正直、回復は難しいと考えていた時期もありました。 デジタル庁ができたというこのタイミングは、日本がデジタルで利便性が高まり、また経済成長していく最後のチャンス だと捉えています。
その機会に自分の今までの経験を生かしたいですし、20歳の頃に地震で数多のものを失った経験を経て、今は何かを返したいと思っているので、それがモチベーションですね。
筆者の感想
今回のデジタル庁準備室の方々へのインタビューも今回で最終回となりました。4回のインタビューを通じて、集まっておられる方々の思いの強さがとても印象的でした。全文目を通すのが大変であれば挑戦しようと思った背景だけでも読んでみていただきたいです。今回の内容は、デジタル庁の掲げている構想のの根幹ともいえる全体のアーキテクトを担当されている本丸さんのお話でした。自分もサービス開発を行っている身からして、本丸さんは物作り・サービス開発の大先輩であり、その思想の深さ、思いの強さがめちゃくちゃかっこいいなとシンプルに感じました。私がサービス開発を始めた時はすでにクラウドが当たり前の時代でしたし、サービス開発に携わってまだまだ数年というところですが、本丸さんはその何年も前からサービス開発に携わられ、歴史をご存じでおられる。そしてその経験が日本のサービスを強くしたい、デジタル化を通じて日本の経済成長のきっかけを作りたいという思いに昇華されていて、真摯に直向きにサービス開発に向き合ってこられたんだな心から尊敬の念が生まれました。そしてそんな方々が集まるデジタル庁は大きな変化を日本にもたらしてくれるだろうと強い期待を覚えました。
改めまして、全4回にわたりインタビューの機会をくださった皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。インタビュアーとしてもとっても貴重な経験をさせていただきました!
※所属部署・役職は2021年7月当時のものです
本記事で取り上げたデジタル庁準備室の求人
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