Eテレ 隔週 月曜日 午前10:00〜10:20
※この番組は、2022年度の新番組です。
第8回
太平洋戦争終結から75年あまり。
当時の人たちが何を考え、どのような暮らしをしていたのか、直接、話を聞いたことはありますか?
今回は「経験を語り継ぐ」というテーマで、戦争を知らない私たちが、戦争の経験をどう語り継いだらいいのかを考えていきます。
番組のMCは向井慧さん。
一緒に学ぶ生徒は石岡飛鳥さんです。
飛鳥さんが向かったのは岩手県大船渡市。2021年9月にできた学生団体「peace&voice」のメンバーを訪ねます。
この団体を立ち上げたのは、岩手県立大船渡高校3年生の小林友香さん。
戦争について深く考えるようになったのは、小学6年生の頃だといいます。
きっかけは、ひいおばあさんから、当時の経験を聞いたことでした。
小林「衝撃だったのは、兵隊さんを看護する女性の人たちがちょっと外に出て水を汲みに行ったりしている時に目の前で銃撃された(という話)。生きたくても生きられなかったのが当たり前だし、食べ物がなかったのも当たり前だし、家族と一緒に暮らせなかったのも当たり前だったっていう話を聞いて、何が当たり前なんだろうっていう憤りをそのとき私は感じました」
小林さんは続けます。
「曽祖母にも“語り継いでほしい”と言われたんですね。そのあと曽祖母が中学校3年生のときに亡くなってしまったんですけど、これが自分の大切な人が亡くなるっていうことなんだというのをすごく強く感じて。亡くなったときの家族の思いがそこでリンクして、伝えていかなきゃいけないっていう思いがすごく強まりました」
今回、小林さんたちは、同じ高校の卒業生に戦争を経験した方がいると知り、会いに行くことにしました。8歳の時に終戦を迎えた田村長平さんです。
田村さんはまず、赤紙といわれる召集令状(複製)を見せてくれました。健康な成人男子に、軍隊に入るよう命じる書類です。赤紙が届くということは、すぐに家族と離れ、戦地に赴くことを意味していました。兵士になるのは名誉なこととされたため、近所の人たちは盛大に祝って、送り出したそうです。
田村さんのお父さんにも赤紙が届きました。
Q)何か覚えていることはありますか?
田村「お祝いするのは本当に嬉しくてお祝いしたのではなくて、半分は悲しかったんじゃないでしょうか。私のおばあちゃんが大泣きしたのを少し覚えています。“なんで泣くんだろう、みんなお祝いしてるのに”と思いました。“戦争に取られる”っていう言葉を使いました」
Q)戦時中の家族との思い出とか印象に残っていることがあれば教えてください。
田村「そんなにないけれども、まず一番は母親が夜になると布団かぶって泣いているんです。なんで泣くんだろうなと思っているうちに、私ももらい泣きして知らないふりしていたもんです。今思うと、食べるものも十分ない、子どもが3人いる、朝晩働いてそれ以外に何もないという、そういう時代でやっぱり嫁さんにきてて寂しかったんじゃないですかね。つまり戦争は家族を破壊してしまう。戦争は東京だけでなく田舎の子どもたちまで含めて巻き込んでいく」
この活動をしている小林さんに、飛鳥さんが話を聞きました。
Q)戦争の体験者、当事者などにインタビューをするとき、大切にしていることはありますか?
小林「“一人一人に物語がある”っていう言葉を、私は団体の活動でも使っているんです。戦争経験者とひとくくりにしているものの、やっぱり一人一人家族も場所も経験したことも違うと思うので、家族構成とか実際どういう状況だったかっていうのを丁寧に聞くことを大切にしています」
Q) 小林さん自身がやっててよかったと思うことはありますか?
小林「実際に話を聞いたことによって、命の大切さ、重みを感じることができていることですね。社会の問題として、若い人とかが自殺してしまうというニュースも多く見ると思うんですけど、つらい中でも生き抜いていく、やっぱり命を大切にしていかなきゃいけないんだなっていうのを、いつも話を聞いて感じています」
小林さんたちの活動に、飛鳥さんも同行させてもらいました。この日お話を伺ったのは、5歳まで満州にいたという黒森顕さんです。黒森さんは、当時日本の支配下にあった満州国、現在の中国東北部に、両親と姉、兄の5人で暮らしていました。
小林さん「当時の満州の様子、状況はどのようなものだったか、暮らしについてなど、教えていただきたいです」
黒森「私はワンパクだったもんだから、友だちと朝から晩まで外で遊んでいたわけですよね。ちょっとした小屋があるわけですよ。戸をあけると鉄砲の玉がゴロゴロ転がっていた記憶があります」
飛鳥さんは、戦争の悲惨なイメージとは違う話に少し戸惑い、「 満州にいた時に一番つらかったことは何ですか?」と質問しました。それに対する黒森さんの答えは「楽しかったことしかないですよ」でした。
当時5歳だった黒森さんは、戦争の暗い影は感じなかったようです。しかし実際はどんな状況だったのでしょうか。満州国は終戦間際、ソ連軍の侵攻を受け、大混乱となりました。そんな中、現地に取り残されてしまった子どもたちもいました。
黒森「今現在も中国大陸には、戦災孤児(中国残留孤児)がいるわけですよ。親が自分たちを満州から連れてきてくれたことには、本当に感謝していますよ」
VTRを受けて、向井さんと飛鳥さんが話します。
飛鳥「自分でも知らないことが結構あって。(赤)紙一枚でその人の人生が決まっちゃうのは、とっても悲しいことだなあって思いました」
飛鳥さんの目には、同い年の小林さんの活動はどう映ったのでしょうか?
飛鳥「自分なら、インタビューするときに、悲しいことを思い出させるんじゃないかと思って、ちょっとお話を聞くのに抵抗とかあるんですけど、小林さんはうまく聞き出したりとか、情熱的に聞いてらっしゃるので、そういうところがすごいなあっていうふうに思いました」
向井さんは、小林さんが戦争経験者をひとくくりにせず、一人の人としての話を聞こうとしていることに、共感を示しました。
向井「飛鳥も、よく“若者”って区切られることがあるだろうと思うんです。『若者ってこういうところ良くないよね』とか。でもその若者の中にも、そうじゃない人もいる。そのことを、(小林さんが)ちゃんと意識しているからこそ、(戦争経験者が)いろんなことをしゃべってくれるっていうところがあるんだろうなって思いましたね」
戦争の経験は、様々な方法で語り継がれています。
例えば文学。戦争にまつわる小説、エッセイ、絵本など、数多く出版されています。
長野県上田市にある「無言館」は、画家を志しながらも、戦場で命を落とした若い画学生たちの作品を集めた美術館です。
伊澤洋さんは美術学校在学中に召集令状を受け、満州、ニューギニアと転戦し、26歳で戦死しました。入隊する前日、死を覚悟しながら描いたのは、家族の肖像でした。
戦争が奪った大切なものを、絵画が語り継いでいます。
引き続き、小林さんの活動を見ていきます。
語り継ぐ活動の中で、小林さんが特に伝えたい相手は、同世代の若い人たちです。今回は、二人の戦争経験者から聞いた話を、高校の後輩たちに話すことにしました。2時間かけて聞き出した内容を、どんな順番で話すか、構成を組み立てて、数枚のスライドを作ります。
小林「一番最初にみんなの目に入るタイトルをどれだけ印象的なものにするかを一番意識しています。もちろん簡単な“~について”みたいなものでも内容は伝わると思うんですけど、やっぱり最初の入りの部分のタイトルで、“これはこういう話なのかな”っていう想像が膨らむというか。直接聞いたわけではなくても、頭の中で物語を作ってほしくて」
イベント当日、10人以上の1年生が話を聞きに集まりました。
田村さんと黒森さんから聞いた話を、小林さんはスライドを使って伝えます。その時に心がけていることがあります。まず、聞いていて胸が苦しくなった話は、相手にしっかり届くように、ゆっくり間をあけて話すこと。それから、聞いたことをそのまま伝え、最後に、自分が感じたことを自分の言葉で伝えることです。
そうすることによって、話を聞いた高校生が、さらに身近な人たちに語り継いでくれることを願っています。
小林「事実だけを伝えて終わり、ではなくて、やっぱりその先の、それを聞いてどう思ったのかっていう、私たちなりの言葉とか感想を伝えることで、同じ高校生にはより身近に感じてほしいというところがあります」
イベントに参加した生徒に感想を聞きました。
生徒「赤紙の部分ですね。自分だったらどう思うのかっていうのは、結構考えてみたりして、やっぱりちょっと心が苦しくなりました」
生徒「正直自分はあんまり、(戦争は)触れなきゃいけないんだけど触れたくない部分はあって。特に今、ロシアとウクライナがやりあっている中で特にそう思っていたんですけど、やっぱり避けちゃいけない。ちゃんと向き合っていかなきゃいけないなと思いました」
小林さんの発表を受けて、再び向井さんと飛鳥さんが話します。
飛鳥「自分たちみたいに戦争をあまり知らない若者世代に伝えるために、間をあけて分かりやすく説明したり、興味を持ってもらえるようなタイトルにしてやっているっていうところが本当にすごいなあって思いました」
向井「何かを伝えるときに主観と客観のバランスっていうのが非常に大事だと思っていて。もちろん熱量って大事じゃないですか。自分がこう思いましたっていう。でもそれが100%になってしまうと、やっぱ押し付けになって、『いやいやもういいよ』っていうことにもなってしまう。ここのバランスを小林さんはしっかり考えているからこそ、それがどんどん自分事になっていく人が増えていくというかね。僕自身も、あーやらなきゃいけないなとか、身につまされるね」
次回もお楽しみに☆
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