慶應義塾大学(慶大)は10月11日、眼の白目の部分である「強膜」に生じる小胞体ストレスが近視進行の中心的役割を担っており、その制御により近視進行を抑制することができることを解明したと発表した。

同成果は、慶大 学医学部眼科学教室の坪田一男名誉教授(坪田ラボCEO兼任)、同・栗原俊英准教授、同・池田真一特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

世界的に見ても近視はこの50~60年で爆発的に増加しており、特にアジア圏では顕著で、研究チームによる調査によれば、東京都内の中学校においては、約95%の生徒が近視であるという。

近視の病態の本質は目の前後軸の長さ(眼軸長)が伸びることにあり、この形態の変化によって眼の後ろに物理的負荷が加わり、網膜剥離や黄斑症、視神経症などの失明につながりうる合併症が引き起こされる。実際に、日本より深刻な近視危機にある中国では、近視は中途失明原因の第2位となっているという。

また、眼軸長が長いと加齢に伴う視覚障害のリスクが増加する一方、眼軸長を短く保つことができれば、そのリスクがかなり軽減されることが明らかにされており、近年、近視進行を食い止める、すなわち過剰な眼軸長伸長を抑制する必要性が認識されるようになってきたとする。

眼球は、強膜にある、主にコラーゲン線維と線維芽細胞からなる組織によって維持されている。近視は眼球の形態変化を伴うため、研究チームは今回、強膜に着目することでその分子メカニズムの解明を試みることにしたという。

  • (左)正常眼

    (左)正常眼。黒点(リボソーム)で覆われた平らな袋状の構造(強膜粗面小胞体)が認められる。(右)近視誘導眼。顕著な粗面小胞体の膨張が認められる (出所:慶大プレスリリースPDF)