日本時間の10月10日、ウクライナ全土を襲ったロシアの爆撃。プーチン大統領はこれについて「我が国の領土内においてテロ犯罪行為を続ける試みがあれば、ロシアはそれに対し厳しい報復で応え、その規模はロシアが受けた脅威に見合うものとなる」と述べ、8日に起こったクリミア橋での爆発への「報復措置」だったと明らかにしました。

 ロシアは今後どのような行動に出るのか、核兵器使用の可能性はあるのかを、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに聞きます。

■転換点? クリミア橋の爆発

 今回のロシアの攻撃は、10月8日に起こったクリミア橋の爆発事件が関係していると言われています。

 クリミア橋は、2014年からロシアが実効支配しているクリミアとロシア本土を結ぶ唯一の橋で、2018年に開通しました。全長は19キロ、自動車と鉄道の専用橋で、ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍の重要な補給路となっています。

 10月8日の爆発は自動車が通る橋を一部崩落させ、また鉄道が通る橋でも、燃料を積んでいた列車が大炎上しました。
 ロシアは「トラックが爆発した」と主張し、ウクライナもそれを認めています。一方イギリスのBBCは、「海上用ドローンでは」という見解を報じています。

――Q:この爆発は、誰がどうやって起こしたんでしょうか?

【黒井氏】
「まだ分からない部分はありますが、ロシア側へのダメージが大きいので、爆破したのはウクライナ側の可能性が高いと思います。何が起こったかは検証してみないと分かりませんが、橋げたの下の方より自動車用の道路の損傷が大きく、ロシアもウクライナも『トラックが爆発した』と言っていますので、海上用ドローンではなくトラック爆発の可能性が高いと思われます」

――Q:ちょうど燃料を積んだ列車が通るタイミングだったということで、鉄道用の橋でも大炎上が起こっていますが、これは狙いだったんでしょうか?

「分からないですけど、やる側としては破壊工作なので、当然計算には入れていると思います。ただ、鉄道用の橋は激しく燃えていますが、破損自体は大きくはありませんでした」


■ウクライナ全土への攻撃の意図は

――Q:クリミア橋を爆破されたと主張するロシアは、80発以上のミサイルでウクライナを攻撃。キーウ中心部や8つの州でインフラ設備などが被害に遭い、120人以上の死傷者も出ました。これはどのような攻撃だったんですか?

「ロシアの国営テレビなどで『ウクライナ側へ報復しろ。恐怖を与えろ』という世論が流れるようになっているので、勢いをつけた形です。軍事的な効果は少ないですね」

――Q:今回は爆撃機などではなくロシア本土などからのミサイル攻撃だったようですが、大きな効果はなかったと?

「発電所なども攻撃されているので、軍事的な意味が全くないわけではありませんが、効果は少ないです。今のロシアにとって貴重な精密誘導のミサイルを市街地に対して発射するというのは、軍事的というより政治的に、ウクライナ側に反撃の姿勢を見せたいというところを優先しているんだと思います」

――Q:上空からの空爆はウクライナ軍の防空システムでできない、地上からの攻撃はウクライナ軍の反攻で難しい、ということからのミサイル攻撃なんですか?

「何かしらの反撃をしろというのがプーチン大統領の姿勢で、ロシア国内にある世論なんです。何かやるためにはもうミサイルしかない。ただミサイルも、今は豊富にあるわけではなくひっ迫しています。今回のような攻撃は長くは続かないと思います」

――Q:ウクライナ軍の防空システムというのは、ロシアからすると手出しできないようなものなんですか?

「空軍力というのはロシアの方が圧倒的に強いんですが、欧米の支援もあり、戦争開始時からウクライナ側に封じられています」

■追い詰められたロシア 今後は

――Q:厳しい状況に追い込まれているロシアですが、今後、核兵器を使う可能性はあるんでしょうか?

「核兵器の脅威はもう少し後の段階だと思います。プーチン大統領なので確かにその可能性はあるんですが。ただ、今ロシアがどういう雰囲気かというと、とにかく『ウクライナ人に恐怖を与えろ』と。またその後ろにいるアメリカに対しても、『これ以上自分たちに手を出せばすごいことをするぞ』と脅しをかけたいんです。そこで使用に現実味が出てきたのは化学兵器です。ロシアは戦争開始時から、『ウクライナが化学兵器を使う準備をしている』という情報を流してきました」

――Q:「ウクライナが秘密裏に化学兵器を作っている」とロシアは言っていましたね

「ロシアと同盟軍だったシリアの軍隊が使っていた『偽旗作戦』というものがあります。自らの行為を相手の行為だとする自作自演の作戦で、ロシアが同じことをするんじゃないかと周りは警戒していました。ロシアが『ウクライナが化学兵器を使う』と主張するということは、ロシアがウクライナに対して化学兵器の使用を想定しているのではないかと。今は、本当にそれをやりかねない状況になってきています」

――Q:核兵器ではなく化学兵器の自作自演ですか?

「核兵器は(核を持たないウクライナに対しては)自作自演が無理なので。ロシアのやり方は自作自演で、ブチャの虐殺なども、あくまでも『自分たちではない。ウクライナがやったんだ』と言い続けています。それがロシアの今までのやり方です」

――Q:化学兵器というのは、人を苦しませて殺してしまう兵器ですよね

「どういうものかは分かりませんが、ロシアは戦争初日にも『ウクライナのミサイルだ』と嘘をついて病院を攻撃したりしています。そういったやり方をすると、化学兵器の方が被害が大きい。化学兵器は比重が重いので低い所に流れるんです。砲撃が始まると住民は地下に隠れるので、そこに被害が及びます。シリアでも、地下に隠れた人たちが被害に遭いました」

――Q:この戦争の落としどころはありそうですか?

「『この辺りで手を引こう』という交渉の可能性は、相手がプーチン大統領である限り、ほとんどないと思います。彼の過去の言動を見ると、そういう生き方をしてきていないので。軍事的に戦況は、ウクライナ側が圧倒的に優勢です。プーチン大統領としては、さまざまな手を打てるだけ打って戦いを続ける。これが長期にわたって続くと思います」

(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月11日放送)