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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】相模原「キリン食堂」清く正しく潔い昔カレー
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人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。古くて立派とはいえないけれど掃除がとても行き届いていて気持ちのいいお店ってありますよね。今回、久住さんが偶然見つけたのは、飾り気一切無しの“実用食堂”。そこには少年時代にタイムスリップする“いにしえの味”がありました。
JR相模線の原当麻駅。「はらたいま」と読む。読めなかった。神奈川県相模原市。今回私用で行ったのだが、降りたことのない駅だった。
用事が終わり、日が暮れて、帰る途中に見つけたのが「キリン食堂」。シブい。オールド&シンプル。肉眼で見るともっと暗い。でも美しい。のれんの文字が店内のともりを透かしてクッキリと鮮やかだ。にしても暗い中に店内が見えるこのたたずまい。これはもう、ジャケ食いでしょう。
しかし「キリン食堂」なんて、今どきの若い料理好きな女性が、都内に開店したおしゃれなキッチンみたいな店名だ。映画になった「かもめ食堂」的な。でもこの店にはそんな雰囲気はまるでない。飾りっ気なし。質実剛健の実用一点張り食堂という感じしか、ジャケットつまり店構えからは漂ってこない。なんでそんな可愛い名前がついたんだろう。
入る。店内がまたシンプル!昔ながらのデコラ張り4人掛けテーブルが、6卓。店の中央にパキラ鉢植えひとつ。大きな石油ストーブが何ともうれしい。店内に目立つものはそれだけだ。飲み物の冷蔵庫と、なぜか店内に流し台。それ以外、無駄なものが見えない。
つくりは決して立派ではないが、とにかく片付いている。掃除が行き届いている。古そうな椅子はオレンジ色のビニール部分が退色しているにもかかわらず、スチールの部分がどれもピカピカ。これは日頃磨いてないと絶対さびる。
まずビールとギョーザを頼み、店内の空気に身を委ねる。ガランとしているのに、なんだか居心地いい。普通の蛍光灯のともりさえ、なんだかやさしいのだ。先客は女子大生っぽい2人のみ。食べ終わったのに、いつまでもおしゃべりしている。近所なのだろう。
ギョーザが来た。8個は普通のラーメン屋より多め。皮がカリッと揚がっていておいしい。ごはんというより、ビールにバッチリだ。
レコードでいう「歌詞カード」にあたるメニューを見る。ラーメン、味噌ラーメン、チャーシューメン…。オムライスにちょっとひかれる。カツライスとかつ丼がある。かつ丼950円、カツライス1400円。ずいぶん違う。レバー炒め。チキンカツ。なめこ汁。和洋中交じった、なかなか面白いラインアップだ。
ふと、メニューの最初に赤文字で「キリンビール」と書いてあるのに気づく。「キリンジュース」「キリンレモン」もある。ひょっとして店名はここから来ているのかもしれない。にしても、なぜ?
注文は、すごく迷った末、カレーライス750円にする。かなり時間がかかって「大変お待たせしました」と、出てきたカレーライス。カレー粉を炒めたようなちょっと焦げたような刺激的な香りが鼻を突く。なんか昔食べたカレーの匂いだ。紅しょうがが添えてあり、カレーはライスをほぼ全体に覆っている。
懐かしかったのは、水のコップにスプーンがささって出てきたところ。あったあった。今やこの出し方、ほとんど見ない。ここは古い店だぞぉ。
食べるとまさに昔カレー。それもいわゆるジャガイモゴロゴロの黄色い田舎カレーとはまったく違う、昔の本格家庭カレー。S&Bの缶のカレー粉と小麦粉をフライパンで炒めたのを使うタイプ。具が玉ネギと豚バラのみ。なんというか、潔い。量も結構しっかりしている。ああ、懐かしいなと思う半面、ちょっと単調で途中で飽きるかなぁと思いながら食べていて、気づいたら完食していた。
帰り際にトイレに行ったら、トイレも凄くきれいだった。いい店だ。途中ご主人らしきかなり年配の男性が出てきた。厨房(ちゅうぼう)に女性が2人いたが、娘姉妹じゃないかと思った。若い時は凄い美人だったんじゃないかとか、なんかいろいろあって今こうなっているんじゃないかとか、いろいろ妄想してしまった。ごめんなさい。
満足して店を出てから1週間後。またこの街に来た。別のところで食事して、ここの近くを通ったら風に乗ってあのカレーの香りが。すると猛烈にカレーライスが食べたくなった。今日は満腹で食べられなかったけど、今度行ったら絶対に食べようと思う。そういう、あとから効いてくる強烈な昔カレーだった。
◇キリン食堂 創業50年を超える老舗。餃子500円。ラーメン600円、カツカレー1000円。神奈川県相模原市南区当麻1328の9、JR相模線・原当麻駅徒歩3分。(電)042(778)2169。営業は午前11時30分〜午後2時、午後5〜8時30分。火曜定休。
◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。
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