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筋力とスピード、パワーの関係(スピードやパワーの決定要因とトレーニング方法)
スピード筋力?(筋肉の収縮速度と力の関係)
筋肉には、高い速度で縮んでいる時ほど小さな力しか発揮できず、逆に縮む速度が遅い時ほど大きな力を発揮できるという特性があります。これを、筋肉の「力-速度関係」と言います。
何か重たい物を投げる時には、力をギュッと込めることができると思います。しかし、バドミントンのシャトルのような軽いものを投げてみると、上手く力を込めることができません。これは、シャトルのような軽いものを投げる場合だと、すぐに筋肉の短縮速度を高められるため、発揮できる力が小さくなってしまうからです。
一方で、筋肉の「力-速度関係」は、伸張性収縮時では逆のことが起こります。つまり、速度が高い時に、大きな力を発揮しやすいということです。
この伸張性収縮とは、筋肉が力を発揮しながら引き伸ばされている状況、その時の収縮様式です。重たいものを持っていて、耐えられずに筋肉が引き伸ばされている状況や、持っている物体を意図的に下ろす動作の時もそれに当たります。
例えば、以下の図のように(超重たいという設定の)ダンベルの重さを受け止めようとする時、当然上腕二頭筋は一瞬高い速度で引き伸ばされることになります。
伸張性収縮の時は、高い速度で引き伸ばされている時ほど大きな力を発揮できるので、この時の上腕二頭筋は短縮している時よりも大きな力を発揮できています。
このように、何かに急ブレーキをかけるような動作をする時ほど、大きな力を発揮できるようになっている訳です。
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パワーとは?
パワー(仕事率)とは、単位時間あたりにどれだけの仕事をこなしたかを指すものです。この場合の仕事とは、物体をどれくらいの力でどれくらいの距離移動させたかを表します。
つまり、めちゃくちゃ大きな力を発揮しつつ、超短時間で、物体をすごい距離移動させると、パワーは最強になります。
一般に、パワーは以下の式で表されます。
このように、パワーの式は、結果的に「力×速度」で表すことができます。なので、人間の筋肉で例えると、「高い筋力を発揮しながら高い収縮速度を達成」できれば、パワーは高くなるわけです。
しかし、先述の通り、筋肉には「力-速度関係」があります。なので、素早く筋肉を短縮しようとしても、発揮できる筋力は小さくなるので、パワーは上手く高まりません。一方で、伸張性収縮時は、速度が高いほど力が出せるので、ものすごいパワーを発揮できていることになります。
そしてこの「力-速度関係」を基に、パワーをプロットしていくと、以下の図のようになります。
短縮性収縮では、筋肉の長さが変わらない、等尺性最大筋力の30-35%くらいで、パワーが最大になることが分かります。
パワーを決める要因
陸上競技の短距離走や、跳躍、投てき種目、または高いジャンプ力や加速力、方向転換力が求められる球技スポーツなどでは、筋肉を素早く動かしたり、大きなパワーを発揮できることが大事になります。
高いスピードで動く自分の体重やその他の物体をさらに加速させたり、動作に急ブレーキをかけたりするためには、高い速度でも大きな力を発揮できないといけないからです。
では、このパワーを高めるためには何が必要なのでしょうか?ここからは、その筋肉の収縮速度やパワーを決める要因について紹介します。
速筋と遅筋の比率
筋肉には、大きく分けて速筋線維と遅筋線維の2種類があります。速筋線維は大きな力を発揮できますが、持久性に乏しく、逆に遅筋線維は発揮できる力に限界はあるけど、持久性に優れているという特徴があります。
この速筋線維と遅筋線維の「力-速度関係」を見てみると、その差は歴然です。速筋線維は収縮スピードも高く、発揮できる力も大きいことが分かります。なので発揮できるパワーもケタ違い(遅筋線維の約3倍)です。
この速筋線維と遅筋線維の割合は、生まれつきによるものがほとんどです。なので、トレーニングによってその線維数の比率を変えることは難しいと言えるでしょう。しかし、トレーニングをすることで、速筋線維を肥大させることは可能です。
活動電位の頻度や強さ
筋肉が収縮するためには、脳や脊髄からの信号(活動電位)を受け取ることが必要です。この活動電位には強さがあり、強いほど大きな力を発揮できる速筋線維を動員させることができます。
また、この活動電位は1回だけポンッと信号を送るだけでは不十分です。なので連続的に強い信号を送ることができなければ、筋肉の強く、速い収縮は望めません。なので、強く連続的な活動電位を送ることができることが、高いパワーを発揮するのに必要です。
この脳からの指令(活動電位)は、最大筋力を高めるような高強度のトレーニングを行ったり、重りを瞬間的に素早く持ち挙げるパワートレーニングで改善することができます。
また、大声を出すことで一時的に脳のリミッターが外れ(シャウト効果)、より強い活動電位を送ることができ、より大きな筋力、パワーの発揮につながることが知られています。
そもそもの最大筋力
最大筋力の高さは、高い速度で発揮できる力のポテンシャルに関わります。下の力-速度関係のグラフにおいて、最大筋力が高まることでグラフが少し上に持ち上がりやすくなるわけです。
このように、そもそもの筋肉が発揮できる最大の筋力を高めておくことで、より高速域で発揮できる力のポテンシャルは高められます。
最大筋力は筋横断面積(筋の太さ)と関わりがあるので、ベーシックな筋力トレーニングで筋肉量を増やしたりすることもとても重要なことだと言えるでしょう。
筋量を増やし、最大の筋力を高めることで、高速域での力発揮、すなわち高いパワー発揮のための土台を作ることができます。
関連記事
・最大筋力を高める要因とトレーニング方法(神経系と筋系) |
その他その運動そのもののスキル?
その運動を遂行するためのスキルを高めることで、その運動でのパワーを高めることができます。例えば、垂直跳びが「上手く」できるようになることで、発揮できるパワーが上がるなどの場合です。この垂直跳びの場合は、腕の振り込み動作や、反動動作を上手く使えるようになると垂直跳び中に発揮できるパワーが上がります。
筋肉量や筋力などの、筋肉自体のポテンシャルが大して向上していなくとも、その動作が上手くやれることで発揮できるパワーが高まるわけです。
また、その他にパワーを高めるスキルとして、拮抗筋の緊張を抑えるというものがあります。図のように肘を曲げる運動をする時、上腕二頭筋を短縮させることで肘が曲がります。この時上腕二頭筋は肘を曲げるメインの働きをしているので「主導筋」と呼ばれます。
一方この時、上腕二頭筋とは反対側にある上腕三頭筋が短縮してしまうと、肘を曲げる動作としては都合が悪くなってしまいます。このように、主導筋とは拮抗関係にある筋肉は「拮抗筋」と呼ばれています。
関節で大きなパワーを発揮をしようとしても、拮抗筋が緊張していては、上手く主導筋の力を引き出すことができなくなってしまいます。その動作そのものの練習を続けることで、徐々に拮抗筋の活動を抑えて、滑らかな動きになってくることがあります。一流選手のスポーツの動作がとても滑らかに見えることがあるのはこのことも関係していると言えるでしょう。
また、静的なストレッチをすることによっても、一時的に拮抗筋の働きを抑えることができ、特定の運動パフォーマンスが改善することが知られています。
関連記事
・主導筋と拮抗筋(拮抗筋のストレッチでパワーが上がる?) |
パワーを高めるトレーニングについて
最大筋力の30%でパワーが最大になるから、最大筋力の30%でパワートレーニングをするのが効果的…とは限らない?
大きな力を発揮しながら、高い速度を生み出すようなパワートレーニングを行えば、当然その運動でのパワーが高まります。ここでよく用いられる考え方に「最大筋力の30%くらいでパワーが最大になるから、その重さを使ってトレーニングをすれば効率的にパワーが高まる!」というものです。
確かに、最大筋力の30%あたりで発揮できるパワーは最大になるので、その重さを使ってトレーニングをやれば、トレーニング中に大きなパワーを発揮できます。
しかし、注意すべきなのは、「最大筋力の30%の負荷でパワートレーニングをやってまず向上するのは、最大筋力の30%の負荷でのパワー」であることです。
パワートレーニングにも特異性があり、ある負荷(速度)でトレーニングをやればその負荷(速度)でのパワーが高まります。なので、重たい負荷でパワートレーニングをやれば重たい負荷でのパワーがまず高まる、逆に軽い負荷でトレーニングをやれば軽い負荷でのパワーが高まるわけです。
スポーツの競技特性上、高いスピードでの力発揮が大切な競技種目、遅いスピードでの力発揮が大切な種目…様々あると思います。陸上の短距離走では高いスピードの力発揮が求められる一方、パワーリフティングでは、多少動作が遅くても、とにかく大きな力を発揮して重いバーベルを持ち挙げられれば良いわけです。
このように、最終的にはその競技動作でのパワーを高めることが必要になります。最大筋力の30%の負荷でトレーニングをしたからと言って、それぞれの競技に応じたパワーも高まるかと言うと…高まるかもしれないし、高まらないかもしれません。こういうことを言うと、
「じゃあ、その競技そのものの練習が一番のパワートレーニングじゃないか!」
…との意見が出てきます。これはその通りで、最終的にはその競技そのものの練習をゴリゴリ行うことが必要です。しかし、それだけではパワーの発揮にすぐ頭打ちが来てしまうから、あえて別のやり方で筋パワーのポテンシャルを高めようとしているわけです。それが、その競技動作中にかかる負荷以外のパワートレーニングになります。
そこで、その競技でかかる負荷よりやや重たい負荷でのパワートレーニングをすることで、筋パワーのポテンシャルが上げられるかもしれませんし、逆に軽い負荷でのパワートレーニングで、筋パワーのポテンシャルが上げられることもあるわけです。もちろん、最大筋力の30%の負荷を用いても、それが達成できるかもしれません。
したがって、「パワーを高めるには最大筋力の30%が鉄則である!」という考え方は、正しいものとは言い難いでしょう。その選手の競技特性や、試合で高いパフォーマンスを発揮する上でどのような時期にあるのかをよく理解したうえで決めるべきです。加えて、その競技には短縮性の筋力が重要か、伸張性の筋力が重要かも同じく考慮が必要になります。
筋肥大、筋力向上の基礎をおろそかにしない
紹介した通り、高いパワーを発揮するためには速筋線維の比率が高い方が有利です。しかし、速筋線維の比率は生まれつきのものなので、どうしようもありません。
しかし、速筋線維1本1本の太さはトレーニングを行うことで変えられます。加えて、速筋線維は遅筋線維と比較して、筋力トレーニングによる肥大のポテンシャルも高いです。なので、筋力トレーニングを行い速筋線維を肥大させて、その能力を存分に引き出してあげることをやれば、筋パワーはきちんと高めることができます。
そのためには、やはりベーシックに筋力トレーニングをやって、筋肉量を増やしたり、最大の筋力を高める手順は踏むべきだと言えます。速筋の運動単位を動員するためには、高負荷でトレーニングすることが必要です。低負荷でも限界までやれば速筋線維が最後の追い込まれるところで動員されますが、時間がかかる上に、トレーニングがおそらく非常にきついです。1RMの80%以上を目安にプログラムを組んでみましょう。
その土台を強固にしたうえで、パワートレーニングを行ったり、実際の競技の練習をやることで、選手のパフォーマンスをさらに引き上げることができます。
・【陸上競技】ウエイトトレーニングの必要性とトレーニング方法大全
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参考文献
・Faulkner, J. A. (1986). Power output of fast and slow fibers from human skeletal muscles. Human muscle power.
・Thorstensson, A., Larsson, L. A. R. S., Tesch, P., & Karlsson, J. (1977). Muscle strength and fiber composition in athletes and sedentary men. Medicine and science in sports, 9(1), 26-30.
・Sandberg, J. B., Wagner, D. R., Willardson, J. M., & Smith, G. A. (2012). Acute effects of antagonist stretching on jump height, torque, and electromyography of agonist musculature. The Journal of Strength & Conditioning Research, 26(5), 1249-1256.
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