[4b-32] Backside battle of the TV
それを一言で表現するなら、馬の無い馬車だった。
……もちろん、普通の馬車には魔動砲も定置魔弓もくっついていないし、金庫みたいに頑丈な装甲板も、擦れ違う者を輪切りにする側面閃光刃ブレードも無い筈だが。
『次のお相手は大型戦闘車両ゴーレムだ! 何という大盤振る舞い! 予算は大丈夫なのか!?』
軍の陣列すら薙ぎ払える武装のゴーレムだ。素人目に見ても、個人が相手にできるような代物ではない。
対峙するジャレーは……紆余曲折を経た末、右半分が溶けたミスリルの鎧と冒険靴以外はパンツ一丁で、素肌に武装ホルダーのベルトを巻いているジャレーは、もはや恐怖と言うよりもうんざりした様子で、肩で息をしながら目の前のゴーレムを見ていた。
『さあ、どうやって逃げ回る? どうやって攻める?
手段だけはたっぷりご用意致しました。もちろん皆様の誠意次第となりますが、ね!』
パーティー会場で司会進行をするキョウコは、もうジャレーの戦いが始まってから一時間ほどは経つというのに、まだ無尽蔵に言葉が湧いてくる様子で賑やかし続けていた。
キョウコの言葉に合わせて係員らしきエルフが機械を操作し、
『まずは最初の商品!
素人が乗りこなすのは難しいですが……ご安心ください、ジャレー君は大学時代に経験しております! おのれ金持ち!!』
紋様を刻んだ細長い板が映し出されていた。
人一人が上に立てるくらいの大きさをしたこれは、少しだけ宙に浮かんで飛ぶことができるアイテムだ。
うまく体勢を変えて飛行の方向を制御すれば、魔法が使えない者でも驚くべきアクロバットを実現できる。実際それが競技になっていた。
『お値段は大金貨五百枚!
さあさあ! どなたがお買い上げになりますか!?』
いくら
だが、もはやその値段に文句を言う者は居ない。これは
もはやパーティーの参加者たちは、ジャレーだの捕まった人々の生き死にに対して、あまり関心を持って居らず、商売のことに血眼になっていた。ジャレーの命懸けの戦いは、既に彼らにとっても完全にただの余興だった。
「俺だ!」
「520でどうだ!」
「530!」
「535!」
「600だ」
キョウコが何か言うまでもなくオークションが始まって、すぐに決着が付いた。
『他にございませんね? はい! 大金貨600枚にて落札とさせていただきます!
さあ、そちらのオジサマ、前へどうぞ!!』
流石に大金貨600枚をポンと出すのは、普通なら憚られる。
禿頭の紳士は、周囲から驚きの視線を浴びながら壇に上がった。
『私は……スミス調合商会の、アルバート・スミス。
しかしここではジェームズ&ジャクソン商会の名代として言葉を述べます』
「はあ!?」
「そんなのアリか!?」
アルバートが開口一番、そう言うと、今度は別の意味で驚いた声が上がった。
ジェームズ&ジャクソン商会と言えば、名を知らなければ常識を疑われるほどの大商会だ。なるほど彼らなら大金貨の600枚ごとき、お駄賃ぐらいの感覚で投資できるだろう。
騒ぎを聞きつけ、会場に居るビジネスパートナーに連絡を取ったか。あるいはパーティー参加者の側から誘いを掛けたか……
こんなやり方が許されるのかと、問い詰めるかの如き視線がキョウコに向けられた。
この商機は、パーティーに集まった冒険心ある者たちだけの特権ではないのかと。
『もぉちろん問題ありません! お金さえ出してくれるなら
底抜けの笑顔でキョウコは言う。
その言葉はもちろん、共和国中に届く。
戦いの次元が変わった。
パーティーの参加者はジャスミン・レイの持ち込んだ新技術に興味を持った者ばかりで、しかも危険な賭けを厭わない野心的な新興商会だのに限られていたわけだが、今宵の余興の
にわかに、パーティー会場に出入りする者が増えた。
参加者の秘書や従者だのが、青く光る
*
VIPルームは余興の舞台裏の統括。そして修羅場であった。
「バイパス繋いで! 根元を切られた蔦も、拘束だけは維持すること!」
壁に貼られた巨大な市街地図には、大蔦の配置とそれによる街の破壊状況が描かれている。
さらにその上から、蔦の根元が破壊されたことによる影響範囲が、観測ゴーレムの情報を受け取ったエルフの手で刻一刻と書き足されていた。
「計測値、出ました」
「……まずいわね。流石に最後まではもたないか」
数字が並んだメモを受け取り、エヴェリスは顔をしかめた。
根元を切られた吸血蔦が死に始めている。エルフたちの自然魔法で蔦と蔦を継ぎ合わせ、延命することくらいはできるが、それでも時間の問題だった。
与えられた猶予と、可能な対策を、エヴェリスは頭の中で捏ね回す。
「
そうだ、最後だけ救助対象者を檻に入れとくなんて趣向もいい。よーしよーし、なんとかなりそう!」
この大量の蔦を通じて血を集めるという目標は、既に達成している。大量に血を使わされるような事態にならない限りは大丈夫なはずだ。
考えなければならないのは、むしろ余興の進行の方だった。コース作りは既にほぼできているし、蔦が死んでも障害物になるからそれは問題無い。あの蔦を使って動かす仕掛けや、救助対象者の拘束を維持できるかどうかだ。
エヴェリスは、余興そのものを短縮することを考え、それで問題無いと判断した。
「後は……ミアランゼ自体の問題か」
幸いにも、ほとんどの目的はつつがなく達成に近づいている。
地下にあった金貨は確保した。
共和国中で多くの者が余興に魅入り、『
気を揉むべきは、
*
『ありました! 出口の転移陣です!』
焦燥に首筋を焼かれていたオズロは、ようやく部下からの報告が来て、思わず大きな手を打ち合わせた。
「でかした! 金貨は!?」
『……いえ、転移陣は発見したのですが……
運び去られた形跡も無いのに、何かが存在した形跡はあり……
と、ともかく、これはご覧頂きたく……』
雲行きが怪しくなったことをオズロは感じた。
司令部にしている馬車を飛び出せば、すぐに夜空に≪
自ら
そこには確かに、魔法で刻み込んで固めた地面のミゾに、どす黒く不気味な塗料を流し込んだ転移魔法陣があった。
そして。
「何だ、これは?」
大量の箱が置かれていたと思しき、四角い痕が、地面にいくつも存在した。
何者かの足跡もある。
だが、物を引きずったり、何かを載せた車輪が転がった痕跡などは見受けられなかった。
「おかしい……風読みにも無反応だったんだぞ。金貨はどこに消えた?」
そもそも、魔法の収納箱に突っ込んでも百箱を超える、あんな目も眩むほど大量の金貨を運び出そうと思ったら並大抵ではない。
魔法の射程を伸ばすとき、消費する魔力は距離の二乗に比例するとされる。転移系の魔法を使うとしても一発で大陸の反対側まで運べるわけではないのだ。街の周囲で耳を澄ませていれば、絶対に何らかの動きが検知できるはずだった。
姿を消したり、何かに隠れて動く者を探り出す術として、『風読み』と呼ばれるものがある。
コウモリが暗闇で鳴き声を放ち、その反響で周囲の様子を知るように、風を放って辺りの様子を探るのだ。
オズロはその『風読み』ができる術師を、街を囲うように配置して、警戒網を張っていた。
……逆に考えれば、警察がそういった対策を取ってくることは、相手方も考えているはずだった。
「中継して、再転移で他所に移したか?」
オズロは一つの推論を立てる。
一気に遠くまで転移することはできなくても、細かな転移を繰り返して『風読み』を掻い潜り、探知圏外まで抜け出すことはできるだろう。
それでも凄まじい量の魔力を消費するだろうが……“怨獄の薔薇姫”は膨大な魔力を内蔵できるのだという情報を、オズロは既に得ていた。それを燃料とするのなら、あるいは。
「トウカグラの南には、確か……」
折りたたんでポケットに突っ込んでいた周辺地図を確認し、オズロは冷や汗を掻く。
『風読み』の警戒網を出て、更に先。トウカグラの南には、うねりながら東から西へと流れる川があった。
「くそったれ、おそらくここから川まで転移陣が並んでる!
川を封鎖しろ! 上流も下流もだ! 通る船が居たら全部止めろ! 逃げるなら沈めても構わん、俺が
“怨獄の薔薇姫”は今、トウカグラで戦っている。
もし『風読み』による警戒網の外まで金貨を逃がすことが彼女の仕事だったとしたら、それは既に済んでしまったのだと考えるのが自然だった。
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