違反者からのサインが絶対必要なワケ
取り締まりで一番大事なのは、違反者からサインをもらうことだ。
「お待たせしました、こちらにサインをお願いします」
違反者に切符を渡す直前の緊張の瞬間だ。この時、心の中で願うのは、「頼むからサインしてくれよ……」である。実は、交通違反の取り締まりにおいて、違反者からのサインは、絶対に必要な条件なのである。というのも、このサインがもらえなければ、違反を認めたことにならないからだ。
切符を渡す時、違反者の反応は実にさまざまだ。普通にすらすらってサインする人、黙って考えた後に渋々とサインする人、激高しながらなぐり書きで判読困難なサインをする人、明るく温厚な人、陰険な人、なかには涙を浮かべる人もいる。
ただし、こちらとしては、サインさえしてくれれば、どんな人でもよいのである。ノルマ達成のための貴重な1件として、切符処理ができるからだ。
そもそも、あの交通切符は、ただただ切りまくって「はい終わり」ではない。後刻、切符整理といって、現場で切ってきた切符に必要事項を記載して、後処理の作業をし、最終的には担当の方の審査を受けなければならないのだ。
ここで困るのが、否認切符。サインしてもらえなかった場合は、後々の切符整理の時間が、数倍になってしまう。普通だと数分で完成するのに、否認事件となると、詳細な実況検分地図の作成のほか、これでもかってぐらい諸々の書類を作成しなければならない。
同じ実績1件でも、途方もなく面倒くさくなるのだ。これらの手続きは、後日の裁判に備えての決められた作業なので絶対に逃れられない。この否認書類作成、慣れた白バイ隊員でさえ、2~3時間、あるいは半日かかる。