Haru.Robinsonの末並です。

 

 

 

さぁ、とうとうやってきました。

 

この歌を解説するために、これまで歌詞におけるテクニックを紹介してきたといっても過言ではありません。それくらい今回は何の予備知識もない人だと理解できない難解な歌詞です。しかし、読み終わったあと皆さんの読解力がぶち上がりするくらい徹底的に解説していきたいと思います。

先に言っときますが、今回は途方もなく長いです。頑張ってください。笑

 

 

このブログを始めて最も反響があったのは小沢健二さんの「流動体について」の歌詞について書いたときでした。

(参照:帰還した彗星 (平行世界と意思重力) | ロビンソン音遊記)

 

歌詞の凄さというより、歌詞の中に「多次元宇宙論」や「引き寄せの法則」が潜んでること、そしてのその考え方についての反響がありました。

いずれにせよオザケンは凄いということですね。

違う次元で歌詞を書いてる人と認識してもらっても差し支えないと思います。

 

銀杏BOYZの峯田和伸さんが小沢さんとの対談で「小沢さんの歌詞は"歌詞"ではなくて"詩"だと思う」という内容をお話しされていて、かなり的確に的を得ている考察だなと共感しました。

 

 

 

 

 

 

歌詞というのは、歌うことを前提とした詞、つまりメロディーに乗せることを前提とした詞であるということです。

そのためメロディーという規制があり、逆にメロディーに乗せることで意味が伝わるなどの特徴があり、そのうえでのテクニックなどをこのブログで紹介してきました。

 

一方、詩というのは、その言葉だけで作品として成り立っている言葉です。メロディーに乗せなくても、存在理由を果たしている文学作品を意味しています。

 

つまり小沢さんの歌詞とは、メロディーに乗せなくても文学作品として完成されており、且つそれを音楽に乗せることでさらに化学反応を起こしているような、1曲が2つの作品になっているような、色んな確度から楽しめるような、そんな歌詞なんです。

 

まず、小沢さんをそんなに知らない人のために、超ざっくりエクストリームに紹介します。

というのも、ある程度人物像を知らないと歌詞が理解できないってのも小沢健二さんの歌詞の特徴なんです。なので重要なとこだけ。

 

 

 

 

1968年 ドイツ文学者の父と心理学者の母、それから叔父に世界的指揮者の小澤征爾を持つ絵に書いたようなスーパーインテリ家系に生まれます。

最終学歴は東京大学卒。(ここポイント①)

そして現コーネリアスの小山田圭吾とフリッパーズギターとしてデビュー。(ここポイント②)

解散後ソロデビューし、今夜はブギー・バックのヒットをきっかけにトップアーティストに。

軽快かつ知的で余裕のある振る舞いやファッションが支持され、「渋谷系の王子」と称される(これは僕の主観ではなく、Wikipediaから抜粋。それも含めてここポイント③)

人気絶頂の中、突如音楽活動を休止し、ニューヨークを拠点に世界中を旅する。

その間、ライブを実施することがあるも不定期。

そして2017年、19年ぶりに突如日本音楽界に帰還。(ここポイント④)

 

 

 

 

 

はい。まず粗方そんな感じの人なんだーと思っておいて下さい。

 

そして今回徹底解説する歌は、帰還後の2018年にリリースされた「アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)」です。

 

 

 

 

 

 

 

それではまず歌詞を読んでみましょう!

 

 

 

 

 

アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)

 

 

 

幾千万も灯る都市の明かりが生み出す

闇に隠れた汚れた川と 汚れた僕らと

 

駒場図書館を後に君が絵を描く原宿へ行く

しばし君は「消費する僕」と「消費される僕」をからかう

 

この頃の僕は弱いから

手を握って 友よ 強く

 

でも魔法のトンネルの先

君と僕の心を愛す人がいる

本当だろうか?幻想だろうか?と思う

 

僕の彼女は君を嫌う

君からのファックス隠す 雑誌記事も捨てる

その彼女は 僕の古い友と結婚し

子ども産み 育て 離婚したとか聞く

 

初めて会った時の君

ベレー帽で 少し年上で 言う

「小沢くん、インタビューとかでは

何も本当のこと言ってないじゃない」

 

電話がかかってくる

それはとてもとても長い夜

声にせずに歌う歌詞が振動する

僕は全身全霊で歌い続ける

 

この頃は目が見えないから

手を握って 友よ 優しく

 

きっと魔法のトンネルの先

君と僕の言葉を愛す人がいる

本当の心は 本当の心へと 届く

 

 

時々は君だって弱いから 助け合うよ

森を進む子どもたちのように

手を握って 友よ 強く

 

きっと魔法のトンネルの先

君と僕の心を愛す人がいる

汚れた川は 再生の海へと届く

 

日比谷公園の噴水が

春の空気に虹をかけ

「神は細部に宿る」って

君は遠くにいる僕に言う 僕は泣く

 

下北沢珉亭 ご飯が炊かれ

麺が茹でられる永遠

シェルター 出番を待つ若い詩人たちが

リハーサル終えて出てくる

 

 

リリースされてすぐ聞いたとき、さっぱり歌詞の意味が解らなかったのですが、メロディーとアレンジが素晴らしすぎて「これは歌詞も全部理解して聞きたい!」と思いました。

そして歌詞の意味を紐解いていくと、小沢健二さんの人物像だけではなく、この歌にまつわる人やエピソードまで理解しなくては真意に辿りつけないことも解りました。

なので、そこも順番に解説していきます。

 

まずこの「アルペジオ (きっと魔法のトンネルの先)」は、2018年に公開された映画「リバーズ・エッジ」の主題歌です。

 

 

 

 

 

 

 

そして原作の漫画「リバーズ・エッジ」の作者である岡崎京子さんは、小沢さんの旧友なのです。

撮影に入る前、小沢さんと、岡崎さんと、主演の二階堂ふみさんが会談し、この歌が生まれたそうです。

制作にそういった背景があったことも頭の隅に置いおいて下さい。

 

では歌詞を順番に解説していきます!

 

 

 

 

 

 

幾千万も灯る都市の明かりが

 

生み出す闇に隠れた汚れた川と

 

汚れた僕らと

 

 

 

 

 

 

まず、この「汚れた川」とは、以前のブログでも登場した「渋谷川」のことです。

実は渋谷は「谷」という字が地名に含まれてる通り、川が下に流れているんです。

その谷の部分に蓋をして、その上に街を作っている場所なんです。なので今も地下に川が流れています。

つまり「渋谷という煌びやかな都市の地下に流れている汚れた渋谷川と、汚れた僕らと」となります。

 

 

 

 

 

 

「汚れた僕ら」?

 

気になりますね。次を読んでみましょう。

 

 

 

 

 

駒場図書館を後に君が絵を描く原宿へ行く

 

しばし君は「消費する僕」と「消費される僕」をからかう

 

 

 

 

 

 

 

京王井の頭線に「駒場東大前」という駅があるのをご存知でしょうか?

先ほど出てきた渋谷の近くに、東京大学駒場キャンパスがあるんです。

 

人物像ポイント①で書いた通り、小沢さんは東京大学卒なので、この駒場キャンパスの図書館で調べ物をしていたということです。

なのでこの歌は海外へ行く前、日本にいた頃の過去のストーリーであることがここでわかります。

 

 

そして原宿で「絵を書く」…。

 

 

そうです。この歌の「君」は「リバーズ・エッジ」の作者である漫画家の岡崎京子さんなのです。

 

 

 

 

 

つまり、ここで小沢さんから、岡崎さんへ宛てた歌であることがわかり、二人が音楽家、漫画家として活躍していた1990年代のストーリーを歌っていることがわかるのです。

そして岡崎さんは「消費する小沢さんと、消費される小沢をからかう」と書かれています。

 

ここで理解すべきなのは「作品を作るという作業は、アウトプットである」ということです。

 

料理を作るのに食材がいるように、歌を作るのにも歌を作るための材料がいるんです。

例えば恋愛をしないと、恋愛の歌は書けないですよね?

じゃあ恋愛をしてないときに、恋愛の歌を書くにはどうするか?

そいうときは恋愛作品を読んだり見たりして「インプット」するんです。

 

よくアーティストが、作品のアイデアが突如思い浮かんだときのことを「おりてきた」と言いますよね?

あれって実はロジックは凄く簡単で「インプットしたものがいっぱいになって、自然とアウトプットされた状態」なんです。

だけど、まさに今売れているアーティストというのは次から次へと作品をリリースすることを求められて、インプットがアウトプットに追いつかなくなってしまうのです。

だから小沢さんは図書館へ行き、作品を生み出すための材料をかき集めてたんですね。

特に小沢さんの作品は1曲に詰め込む情報量が膨大なので、普通のアーティストより何倍ものインプットが必要なんだと思います。

 

なのでここは、そんな情報や知識を必死で消費して作品を書きながら、世間に消費される当時の小沢さんを、岡崎さんは友人としてからかっていた歌詞ということです。

 

そんないっぱいいっぱいだった当時の小沢さんの状況は、次の歌詞にも現れています。

 

 

 

 

 

この頃の僕は弱いから

 

手を握って 友よ 強く

 

 

 

 

 

 

 

ここで思い出してほしいのは、小沢さんの人物像ポイント③です。

 

「軽快かつ知的で余裕のある振る舞いやファッションが支持されていた」

 

いつも軽快で余裕そうで、いっぱいいっぱいなイメージなんて当時は誰も抱いていなかったんです。

でも本当は弱っていたんですね。

その真実がわかったところで、サビへ向かいます。

 

 

 

 

 

でも魔法のトンネルの先

 

君と僕の心を愛す人がいる

 

本当だろうか?幻想だろうか?と思う

 

 

 

 

 

 

 

この「魔法のトンネル」とは「未来へ向かう時空」のことを指す比喩です。

つまり今は売れっ子のアーティストと漫画家として二人は世間からの人気はあるけれど、その先の未来ではムーブメントとしてじゃなく、僕らの「心」を愛す人が本当にいるんだろうか?それは幻想だろうか?

と、時代を作っていたお二人だからこその悩みが描かれているのです。

 

 

 

そしてこの後、歌ではなく、ポエトリーリーディング(語り)になります。

 

語るのは小沢さんではなく、映画「リバーズ・エッジ」で主演を務めた二階堂ふみさんと吉沢亮さんです。

 

「リバーズ・エッジ」は、いじめ、浮気、薬物、援助交際、LGBT、自殺…等々、若者のリアルすぎる悩みや葛藤が描かれています。

そんな岡崎さんが自分を削りながら書いた作品の主人公を演じたお二人が、小沢さんが当時のことを書いた言葉を語るのは「20年前の小沢さんと岡崎さん」が語っているのと、かなり近いのではないでしょうか?

では、その語りの部分を読み解いていきましょう。

 

 

 

 

 

僕の彼女は君を嫌う

 

君からのファックス隠す 雑誌記事も捨てる

 

その彼女は 僕の古い友と結婚し

 

子ども産み 育て 離婚したとか聞く

 

 

 

 

 

 

 

当時の小沢さんの彼女は、小沢さんと岡崎さんの関係を良く思ってなかったようですね。

岡崎さんから送られてきたFAX(当時はまだメールが主流ではない)や、岡崎さんのインタビューが掲載されてる雑誌記事も捨てます。

では、彼女は友人関係であった岡崎さんに対して何故そこまで嫉妬心が強くあったのか?

 

1番の歌詞で何となく関係性が解ったかと思いますが、小沢さんと岡崎さんは当時の時代を作っていく立場だったのです。そして同じような人間などまわりにそうそういません。

つまり、自分の同じ立場の人間は、小沢さんにとっては岡崎さん、岡崎さんにとっては小沢しかおらず、自分の心境を完全に理解してくれる極めて稀な友人関係だったのです。

だからこそ、この二人しか解り合えない関係に、彼女は強烈なまでの嫉妬を抱いたのでしょう。

…そんな状況、普通ないから彼女は悪くないですよね。うん、同情します。

 

 

そしてその彼女とは、同じミュージシャンの嶺川貴子さんです。なぜわかるのか?

 

当時、小沢さんと嶺川さんが交際しているという噂は流れていたのですが、その後嶺川さんは現コーネリアスで元フリッパーズギターの小山田圭吾さんと結婚し、お子さんも持ち、離婚しています。

そのことから「古い友」とは人物像ポイント②で触れた小沢さんの元相方の小山田さんことで、「彼女」とは嶺川さんであることがはっきりとわかります。

 

別にここの詞はスキャンダラスな四角関係を楽しんでくれってことじゃ決してないですよ?

「嘘のない言葉」を綴るために、何も包み隠さず、事実であった関係性を赤裸々に書いていることが凄いということです。

「そこをオブラートに包んでしまったら、表現したいメッセージが詩にならない」と判断したのだと思います。

ここまで詩に愚直に向き合える人は、そういないのではないでしょうか?

 

そして次の語りで、小沢さんと岡崎さんが出会ったシーンが描かれます。

 

 

 

 

 

初めて会った時の君

 

ベレー帽で 少し年上で 言う

 

「小沢くん、インタビューとかでは

 

何も本当のこと言ってないじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

世間に消費されることに抗うように、必死で勉強をしながらも、その努力を隠すようにメディアで「軽快かつ知的で余裕のある振る舞い」をしていた小沢さんに、初対面で「小沢くん、インタビューとかでは何も本当のこと言ってないじゃない」と言い放つ岡崎さん。

 

それは「作品を聞けばどれだけもがいているかわかるよ」という、トップクリエイター同士だけの共鳴と、「本当の心」を見抜いてしまう才能の一言だったのではないでしょうか。

 

いずれにせよ、初対面で相手の図星を突いたり、自分を削ってる人間をからかったり、強気でさばさばしてる感じが読み取れますよね。

 

そしてここから、このブログで岡崎京子さんのことを始めて知った方にはとてもショッキングな展開となります。

 

 

 

 

 

 

 

1996年5月、ひき逃げ事故に遭い、岡崎さんは自力で呼吸できないほどの重傷を負います。

幸い一命は取り留めたものの、意識障害の後遺症により、漫画家生命を断つことになります。

 

小沢さんは、この悲劇の瞬間をも詩にするのです。

 

 

 

 

 

 

電話がかかってくる

 

それはとてもとても長い夜

 

声にせずに歌う歌詞が振動する

 

僕は全身全霊で歌い続ける

 

 

この頃は目が見えないから

 

手を握って 友よ 優しく

 

 

 

 

 

 

 

本当は弱っていたけど、唯一気持ちを理解してくれる君が強く手を握ってくれていたことで、何とか見据えていた魔法のトンネルの先。

その僅かな希望すら見えなくなってしまったとき、

せめてここにいることを証明するために、生きていることを確かめるために、強くでなくていいから、優しくでいいから手を握り返してほしい。

 

そんな歌詞に聴こえてきます。

 

 

 

 

 

 

 

きっと魔法のトンネルの先

 

君と僕の言葉を愛する人がいる

 

本当の心は 本当の心へと 届く

 

 

 

 

 

 

 

例え今、トンネルの中のようなまっ暗闇の絶望の中にいても、きっと時空という魔法のトンネルをくぐり抜けた未来で、僕の歌の言葉、君の漫画の言葉の「詩」をちゃんと愛してくれる人がいるはず。

君と僕が今、本当の心で通じ合えているように、僕らの本当の心は、未来の誰かの本当の心に届くはず。だからどうかここで死なないで、生きてほしい。

 

 

そんな願いを引き連れて、アルペジオは間奏へと入ります。

僕はこの間奏の音楽こそが「魔法のトンネル」だと思っています。

そして間奏という「魔法のトンネル」をくぐり抜けた先で、20年後の未来の歌詞が待っています。

 

 

 


 

 

 

時々は君だって弱いから 助け合うよ

 

森を進む子どもたちのように

 

手を握って 友よ 強く

 

 

 

 

 

 

 

 

この歌の中で、余裕ぶってる小沢さんを本心を見抜いたり、それをからかったりしていた強気な岡崎さん。

でも理解してくれる存在であることに助けられていた小沢さん。

ここではまるでそれの逆のような歌詞になっています。

 

でも「今度は僕が助けるよ」ではなく「助け合うよ」と、全く逆というわけではないのは、20年という永い歳月が経ったからなのでしょう。

 

小沢さんは現在二児の父です。子供の純粋な視点から見る世界観が帰還後の歌詞にたくさん散りばめられているほど、お子さんができたことが作品に大きく影響しています。

 

トンネルや森といった、少し恐怖の対象となる場所でも、手をとって助け合えれば、純粋さを持つ人にとっては冒険する場所、成長する場所です。

そう考えるとここの歌詞は「もう一度手を取り合って一緒に時代を作っていこう」という希望の意思表示に聞こえてきて、「リバーズ・エッジ」を映画化することや、小沢さんが精力的に新譜を発表していくことの理由が垣間見れる気がします。

 

 



先ほど1996年の事故により岡崎さんは漫画家生命を断たれたと書きました。

そこで解った方もいらっしゃると思いますが、映画の原作である漫画「リバーズ・エッジ」は事故に遭われる前の1993年〜1994年の作品なんです。

 


 

 

 

 

皆さんが知ってる作品でいうと、2012年に沢尻エリカさん主演で映画化された「ヘルタースケルター」。これも岡崎さんの漫画が原作。発表されたのは1996年。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

どうですか?

 

「リバーズ・エッジ」も、「ヘルタースケルター」も、20年という時を経て、ちゃんと評価されているじゃないですか。

魔法のトンネルの先で岡崎さんの「心」や「言葉」を愛する人がいて、岡崎さんの「本当の心」が、今の若い人たちの「本当の心」にちゃんと届いてるじゃないですか。

 

小沢さんの歌たちも、今人気の若いアーティストたちにカバーされ続けて、街から、テレビから、どこからでも、いつでも聞こえてくるじゃないですか。

 


二人の友情が、20年という時間をかけて「本当の心で書いた作品は、本当の心で受け取る人に必ず届く」と立証したんです。

 

 

これは、幻想でもなんでもない。

 

 

 


 

 

 

きっと魔法のトンネルの先

 

君と僕の心を愛す人がいる

 

汚れた川は 再生の海へと届く

 

 

 

 

 

 

 


 

「川」は、おそらく小沢にとって特別な意味を持つ言葉だと思います。

これまでの作品に度々出てきます。

特に(実質)活動休止最後の作品であり、日本での音楽活動を止めるか悩んでいる内容が歌われている「ある光」では、こんな歌詞が出てきます。

 

 

 

 

 

この線路を降りたら

 

海へ続く川 どこまでも流れるのか?

 

今そんなことばかり考えてる

 

なぐさめてしまわずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おそらく「川」というのは、止まることなく流れ続ける「心」の比喩だと思います。

つまり「人気アーティストを続けていくという決められたレールを降りたら、僕の心の本当の感情を塞き止めるものはなくなって、もっと大きな、もっと自由な世界に辿り着くんだろうか?」と考えていた気持ちを書いたのだと思います。

 

小沢さんは一時期Twitterのプロフィールにも「the brackish water area」と書いていました。

これは「汽水域」といって、海と川の間の場所を指します。

僕も真意はわかりませんが、小沢さんが「川」に対してかなり特別なもの感じていることは間違いないと思います。

 

なので最初に出てきた「汚れた川と 汚れた僕ら」とは、華やかな街を生み出すために、地下で流れる汚れた渋谷川のように、華やかな世界を生み出すために、心の川が汚れてしまっている僕ら」という意味だったのです。

 

もちろん「リバーズ・エッジ」の主題歌なので、「川」からこの歌がスタートして、漫画の物語のように「再生」に辿り着く構成になっているのだとも思います。

 

そして、汚れてしまっていた20年前のお二人の「本当の心」で書かれた作品たちは、魔法のトンネルの先の海のように広く自由な世界で、「オザケン世代」ではない僕らの「本当の心」へと辿り着き、再生されたのです。

 

 

最後はエピローグのように語りが戻ってきます。

 

 


 

 

日比谷公園の噴水が

 

春の空気に虹をかけ

 

「神は細部に宿る」って

 

君は遠くにいる僕に言う

 

僕は泣く

 

 

 

 

 

 

 

 

美しい情景描写と、二人の作品を作ることに対する想いの共鳴が描かれています。

ここまで読んでくれた方であれば、小沢さんが20年前から現在もなお、いかに細部までこだわって言葉を選んでくれているかがお分かり頂けたかと思います。

 

以前のブログでも書きましたが、「肯定詞」こそ小沢さん詞の最大の魅力です。

その小沢さんの唯一の理解者であった岡崎さんが、自分を消費しながらも細部にこだわり続けた小沢さんを「からかう」のではなく、20年の時を経て「肯定」するワンシーンですね。

ここだけで涙出そう。

 

 

 

 

 

 

下北沢珉亭

 

ご飯が炊かれ 麺が茹でられる永遠

 

シェルター

 

出番を待つ若い詩人たちが

 

リハーサル終えて出てくる

 

 

 

 

 

 

 

「民亭」はバンドマンならみんな知ってる有名な中華屋です。僕もリハーサルやライブで下北沢周辺にいるとき、お世話になります。

行ったことがある方はわかると思いますが、タイムスリップした感覚になるほど(良い意味で、あくまで良い意味で)すごい汚いお店です。

 

 

 

 

 

 

 

そこには、昔から変わらない味や独特の空気があります。

時代が移り変わっても「本当の心」は変わらなかったように、「永遠」の象徴として民亭が描かれています。

 

シェルターは下北沢にあるライブハウスです。

そこからリハーサルを終えた若い「詩人たち」が出てきます。

 

 

 

 

 

 

ここで小沢さんは「ミュージシャン」を「詩人」と書いてます。

しかも「詩人たち」と複数形になっているので、これは「バンドマン」のことですね。

 

このブログの冒頭で、銀杏BOYZの峯田さんは「小沢さんの歌詞は"歌詞"ではなく"詩"」と評したと書きましたが、「バンドマン」を「詩人たち」に変換したのは、まさしくそれが顕著に現れている表現だと思います。

 

岡崎さんが下北沢出身であることもあり、民亭とシェルターを通して、最後に未来と永遠を描いたのではないでしょうか。


 

そしてこの歌は…いや、この詩は、いやいや、この物語はアルペジオのままでアウトロを奏で終えるのです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お疲れ様でした!!

以上で全歌詞の完全徹底解説となります!!

ここまで読んだ方、優しい!!笑

 

MVや音源がYouTubeになかったのでダウンロードなりストリーミングなりで音源を聴いてみてください。

また、あまりにも長いブログとなり文字数が限界に達したので歌詞を再掲することもできないのですが、戻ってじっくり読み直してみるのもいいと思います。

 



いかがでしたでしょうか?


このブログを全て読んでここまで辿り着いた方は気付いてくれたかもしれませんが、「情景詞の魔法」「時計じかけの言葉たち」「こころ残るサビ」「感動のロジック」「違う誰かから見た世界」「比喩と現実のWoven Song」など、1曲の中に様々なテクニックが散りばめられている歌でもあります。

 

また「ある光」の歌詞に少し触れて解説したように、小沢さんは自身の人物像や人間関係、作品が作られる経緯などを包み隠さずリアルに作品に投影するため、全ての作品がひとつの人生として繋がっており、過去の作品を聞いたうえで、アルペジオが収録されている最新アルバム「So kakkoii 宇宙」を聞くと、大長編の物語を体感したような壮大な感動を体験できます。

 

小沢作品を網羅したあとの「彗星」なんか、ドーパミン出まくりますよ。

 

こうしてオザケン世代ではない詩人の僕の心にも小沢さんの歌は届いていて、そして2020年以降も魔法のトンネルは続いていて、その先でまた本当の心に届く作品がこれから生まれていくのです。

 

僕も「本当の心」を歌って、これを読んでくれた人の「本当の心」に届くように、詩を書き続けていこうと思います。

 

 

過去最長ブログ、全てお読み頂き感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

 

それではまた。

 

 

▼Haru.Robinson(ハル・ロビンソン)

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福岡県出身シンガーソングライター、末並弘史によるソロユニット。

2015年 1st Music Video「愛が降る街」(三菱電機 風神 CMソング)をリリースし、活動を開始。スマホ向けタテ型コネクトMVがLINE NEWSや、「NEWS ZERO」「スッキリ!!」「関ジャム 完全燃SHOW」「ミュージックステーション」等のメディアに取り上げられる。

YouTubeにInstagramの機能を搭載した“YOUSTAGRAM(ユースタグラム)”を搭載した2nd Music Video 「Identity」では、カンヌライオンズが主催するアジア最大級の広告賞「Spikes Asia」のMUSIC部門にてブロンズ賞を受賞し、再びLINE NEWS、「関ジャム 完全燃SHOW」に取り上げられる。

メジャーアーティストへの楽曲提供の他、漫画「ブラッドラッド」(角川コミックス・エース)完結記念PVのテーマソング、アニメ「ID:INVADED(イド:インヴェイデッド)」挿入歌、横浜DeNAベイスターズ砂田毅樹投手の登場曲も担当。

 

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