インド軍区から技術顧問達が派遣されてくると言う報告を受けたルルーシュは、ジェレミアやナナリー達を伴い、キョウトへと赴いていた。
コーネリアの着任以降、目立った戦闘は無いがむしろコーネリア軍の内偵は密度を増しており、物資の供与なども難しくなりつつあるという。
「あんたがゼロぉ? へえ、随分かわいい顔してるのね」
KMFの輸出入も困難になる事が予測されるため、インド軍区としては貴重な技術者であっても同盟国への派遣を決断せざるを得なかったのである。
責任者のラクシャータ達には、ルルーシュもはじめから素顔を明かすことは決めていた。
技術者であり、インドへの愛着はあっても、ブリタニア皇族という大雑把な区分けを気にするような人物では無く、むしろはじめから自分という人間をさらけ出す方が彼女からの信頼は得やすい。
「見ての通りの若輩者だ。おかげで桐原公やルーベンの力を借りなければ何もできない」
「何も出来ない男がここまでブリタニアを苦しめるぅ? あんたからもらった資料も面白かったわよ」
ガウェインやエナジーウィングのデータはすでに流してある。ラクシャータ等の日本への移動に合わせての事であるから、彼女等より上の人間の目に止まることは無かったと思われる。
「読み込む時間はあったと思うが、開発に関してはどうだ?」
「残念だけど、今回の作戦には間に合わないわ。まあ、可能な限りやるわ」
「それでいい。今回はガウェインを作戦に組み込んでいない」
可能ならばそれで良い。あくまでも中華連邦の侵攻に間に合えば良い。それに、彼女に託したいのはKMFだけでは無い。
「ふーん。で、KMFとは別件での用事ってその子のこと?」
「ああ。妹のナナリーだ」
「はじめまして」
「例の事件で、足を怪我したというのは本当だったみたいだねえ」
「知っているなら話は早い。貴女は元々は医療サイバネティック技術の権威であると聞いている」
「歩行技術を構築しろって事? 専門家の意見はどうなの?」
「回復は極めて困難とのことです。リハビリもある程度は行っておりましたが」
元々、ナナリーは視力を失ってからの期間が長く。アッシュフォードに保護されて以降も可能な限りのリハビリは続けてきた。
今更だが、ルルーシュはナナリーに対しての同情から甘さが出ててしまい、ナナリー自身も視力を失ったことでルルーシュに対して甘えが出てしまった事からリハビリを満足に行ったとは言い難い。
結果として、今のようにナナリーの脚力回復の機会を奪ってしまったという後悔は残っている。
それはルルーシュやナナリー本人だけでは無く、長年二人を見守ってきたルーベンとミレイ。それに咲世子も同様であり、彼等としてもラクシャータの技術に縋るしかない状況でもあった。
「満足にはやらなかったって事ねえ。まあ、立場を考えれば仕方ないか」
「申し訳ありません」
「私に謝られてもねえ。それに、私が絡むとなると、KMF絡みになるけど……。要するにそういうつもり?」
「はい」
ラクシャータはそう言いながらナナリーとルルーシュに視線を向ける。
ラクシャータ自身、その道の権威である以上、自身の知識や技術を必要とする人間のためには全力を尽くす。しかし、人の身体には限界というモノがあることも当然だが理解している。
となると、必要となるのは身体だけではなく、外的な技術が求められる。
個人用の小型な物を開発する事は、理論は出来ても時間が必要になる。となると、今や専門的な領域となっているKMFと関連づける事からはじめるしかない。
そして、ナナリー自身はその被検体となるつもりのようである。傍らに立つルルーシュが目に見えて顔を歪めている事を見ても、苦渋の決断である事は分かりやすかった。
「分かった。柄じゃ無いけど、出来ることには全力を付くわよぉ」
「ありがとうございます。私も頑張ります」
「すぐじゃ無いけどねえ。それに、騎士団やキョウトのKMFと並行しなきゃだから時間も掛かるわよぉ?」
「大丈夫です。少しでも、お役に立てるのならば」
「それも良いけどね。あんた自身、あんたのために頑張ろうとしなきゃ意味無いわよ。人のために働けるってのは、自分のことを満足に出来てからの話。あんたはまず自分自身のために頑張りなよ」
「…………分かりました。よろしくお願いしますっ!!」
ルルーシュもそうであったが、ナナリーもまた、自分が他者に迷惑を掛ける存在であると言う思いが強い。
目が見えるようになってから、自分がどれだけ他人に甘えていたのかと言う事を思い知らされたため、余計に他者のためにと言う気持ちが前に出がちでもある。
だが、彼女は車椅子姿でもG1ベースにてルルーシュの補佐を担い、彼が出撃した際には彼に代わって情報統括なども行っている。
役に立つという面ならば十分役に立っているのだ。シャーリーもそうであったが、KMFが戦争の主役になってからは、KMFに目を奪われがちになるのは当然のこと。
だが、補助戦力としての戦闘車両や歩兵の役割は残っているし、後方での情報管制などは余計に重要性が増している。
ルルーシュがガウェインの奪取にこだわるのも、最前線に立つ司令部としての役割を果たせる機体を求めるからともいえる。
そう言った視点を欠き、KMF技術を流用した歩行手段を生み出しても、KMFで戦場に出られるとは限らない以上は回復にも繋がらなくなってしまうのだ。
「それじゃあ、そっちのことも考えておくから、久しぶりに紅蓮の状態でも見せてもらおうかしらねえ~」
「分かった。カレン、案内してやってくれ」
そして、ラクシャータの意識は自身が生み出した傑作機へと向く。
ちょうど搭乗者と共にキョウトに来ているそれこそがラクシャータにとっての主目的でもあるのだ。
◇◆◇◆◇
ラクシャータとの顔合わせを終えたルルーシュ達は、神楽耶達の下へと向かう。
かつての集まりから、片瀬を欠き、代わりに仙波が参加するその場。さらに、そこに加わったメンバーが解放戦線と対面するように座り、互いに口を真一文字に結んだままルルーシュ達の到着を待っていた。
「待たせてしまったな。火急のことと聞いていたが……」
「ゼロ、端的に言おう。片瀬少将の潜伏先を捕捉された」
「……そうか。さすがに、トウキョウ近郊に潜伏するのは限界があったのだろうな」
そして、ルルーシュの到着を待っていたとばかりに目を見開いた藤堂が静かにそう告げる。
そのような事態を招いた人物が目の前に座っている以上、声色も固くなっている。卜部と仙波が窘めるような視線を向けているが、まだまだ藤堂自身は割り切れていないらしい。
「元々、ジェレミアが誤魔化していた内偵だったからな。ヴィクトルも少しは役に立ったと言う事だ」
「すでに率いていたメンバーの多くは我々に合流している。残っているのは少将直属ぐらいだったのだ」
「……ドロテア、モニカからは何か聞いているか?」
ドロテアの言に対する藤堂の返答にもどこか棘がある。KMFを犠牲にしてでも討ち取ろうとした敵手が目の前にて健在な事実に、自分達の無力さを突き付けられているような気持ちになるのだろう。
とは言え、ルルーシュも藤堂の心情に構っている暇は無い。彼はどこか感情に流されがちな側面が多いのだ。
何より、今のルルーシュには彼以上に頼りになる味方が多くいた。皮肉なようだが、奇跡と言う二つ名は彼にとっては重荷でしかないことを証明する形になってもいる。
「すべての準備は整っていると。私の前に桐原公に伝えてあるようだがな」
そんなドロテアの言に、桐原以下、六家の当主達が肯く。つまりは、彼等の中でも結論が出ていると言う事であろう。
実際、モニカに操られたとは言え、巨大タンカー一隻分の流体サクラダイトを手土産に中華連邦に投降する等、彼等としては許しがたい裏切り行為である。
藤堂達は知るよしも無いが、片瀬がトウキョウ近郊への潜伏を選んだのは各埠頭に隠したそれを持って脱出する機会を探るためでもあったのだ。
「よろしい。救出作戦は我々黒の騎士団が担おう」
「待ってくれゼロ。君の手を煩わせるつもりは」
「ない。とは言わせん。私にとって、日本は大事な盟友。もちろん、協力はしてもらうが、共闘を拒まれるいわれは無い」
「……藤堂さん、気持ちは分かりますが、ゼロの言うとおりですよ。我々だけでコーネリアを出し抜くのは」
「着任以降、目立った動きを見せず、片瀬の居所を割り出すことを優先したのは、お前達を誘っているからだろうしな。“奇跡の藤堂”が黒の騎士団と同調していないことはブリタニアにも知れ渡っている」
「ぬう……」
元々、藤堂は恩のある片瀬の救出を自身の手で行いたいという気持ちはある。
これは、自分達に片瀬への合流を許さなかったキョウトへの反発もあったし、ルルーシュやドロテアに主導権を握られることを潔しとするべきかと言う思いもある。
当然、そんなことは周囲に見抜かれており、参謀格の卜部としてもそう言った思いを抱くべきでは無いと藤堂を窘めなければならなかった。
しかし、今回に限っては、ブリタニアの標的は片瀬では無く藤堂なのである。キョウトと騎士団の繋がりがブリタニアにバレていないからこそ、藤堂が騎士団と合流する前に。と言う狙いがコーネリア陣営にはある。
「藤堂、救出作戦の中核は当然貴方だ。エルンスト卿やカレンにはあの白兜を仕留めてもらわねばならない。となると、我々がコーネリアやG・Pギルフォードと渡りあうのは厳しい。ジェレミアも一人しか居ないしな」
騎士団が直接対峙する機会は今のところほとんど無いが、枢木スザクの駆るランスロットは各地の対レジスタンス戦で名を上げており、日本側にとっては忌々しい存在でもある。
元々、ジェレミアが上手くコントロールしていたからこそ、遭遇する機会が無かったのだが、今となっては遠慮無くこちらを叩き潰しに来るであろう。
そして、その白兜の搭乗者が枢木スザクである事は、この場に居る者達には知れたことであり、一気に首脳達の表情が曇る。
神楽耶に至っては、それまでの朗らかな表情が一気に消え失せ、能面のようになっている。
「ふ、私を倒した大エースが居るではないか」
「ふえっ!? わ、私ですか??」
「あれは火事場の馬鹿力というヤツだ。作戦に組み込む気は無い」
そんな場の空気を和ませようとしたのか、ドロテアが不敵な笑みを浮かべてルルーシュの傍らに座しているシャーリーに対して口を開く。
あの一戦とその後の関わりを経てすっかりシャーリーを気に入ったようだが、ルルーシュとしてはシャーリーを危険な目に遭わせたくないという身贔屓を指摘されているような気にもなっていた。
実際、カレンやリヴァルは当たり前のように危険な目に遭わせているというのに、シャーリーだけを特別扱いして良いものだろうかという気持ちももたげる。
だが、ルルーシュとしてはナナリーと同様に、彼女も失いたくは無いのだった。
「火事場の馬鹿力って……」
「シャーリーは坊やの傍らに居た方が良いだろう。ドロテア達の危機を察したのはシャーリーだと聞いているしな」
「ほう? それは初耳だな」
「えーと、そ、そんな事より、これがゼロからの作戦プランですっ!! みんな、見てくださいっ!!」
そんなルルーシュの気持ちをあっさりと見抜いているC.C.は肩をすくめつつシャーリーに対してそう口を開く。
ドロテアもつくづく縁があると言う気持ちで笑みを浮かべて居たが、形勢不利を悟ったシャーリーは、話を遮るように持っていた資料を神楽耶の間に進み出て渡し、桐原達にもテキパキと配布していく。
この辺りの手際の良さはすでに副官や秘書という立ち位置を確立しているのだが、彼女はそう言った周りの評価に気付いていなかった。
「この内容からすると、コーネリアの出撃を待ってからとなるが、後手に回る結果にならぬか?」
「当然、こちらで煽る。姉上は好戦的なお人だからな。藤堂周辺の動きを撒いてやれば罠と分かっていても乗ってくる」
「はっきり姉上と言われるとおかしな気分になるな。それで、海上に出た後の護衛に関しても空欄になっているのは何でだ?」
「それは、公方院閣下に聞いてくれ」
「……結果で証明する。今はそれ以上のことは言えん」
仙波と卜部の問い掛けにルルーシュは簡単に答えた後、公方院へと話を振る。海の事がある以上、元海軍提督である彼に委ねるのが筋であるし、ルルーシュの当初の要求にも応えてくれた以上は彼の判断を尊重しようとルルーシュは思っていた。
「海軍もまた、あの時に葬送されたはずだが……」
そんな公方院の言に、藤堂は不信の目を向けるが、さすがに立場の違いで問い詰めるような真似は出来ないようである。
(どこの国も陸と海は仲が悪いと言うが、この事態となってもこれか)
そんな様子にルルーシュは呆れ目を向けるも、藤堂も公方院も譲るつもりは無いのであろうか、お互いに口を閉ざしたままである。
「その件に関しては、私としても謝罪のしようが無い。弔鐘の森以上に、ブリタニア側は喝采を上げてしまったことだったからな」
「むしろ、ブリタニアに屈さなかった偉大な軍艦達に敬意を抱くべきだろう」
「まあ、ルルーシュ様はロマンチストですのね」
「船には魂が宿ると言うのは各国共通でしょう。艦隊総旗艦が、国家の守護神であった船が、敵の砲撃に倒れること無く、キングストン弁を抜かれても沈まず、夜中、誰にも看取られぬ事無く去る。古の海の強者は死せずと讃えられる事であろう」
ルルーシュ自身、焼け跡の日本地を歩く中で、公開処刑とも言うべき砲撃の雨に晒された軍艦達の姿を覚えている。
自身やナナリーを追い込んだ事への怒りに震えていた頃であったから余計に印象に残ってもいたが、“ナガト”と呼ばれた一隻の艦が最後までブリタニアに屈さなかったその姿は、ルルーシュとしても忘れがたい光景だったのだ。
「ゼロよ。そのような讃えは我々にとっては何の慰めにもならん」
しかし、当事者達にはそのような気持ちは不要であったらしい。
実際、自分達が共に戦い、共に生きてきた艦艇をなぶり殺しにされたのである。それだけでは無く、国土を蹂躙され、同胞を理不尽に殺害された末の仕打ちでもある。
「……軽率だったな。すまん」
「私もです。すまぬ、公方院」
「いえ。いずれにせよ、役割は必ず果たす。ゼロよ、藤堂よ、エルンスト卿よ。片瀬のことはよろしく頼むぞ」
さすがのルルーシュも、それを嗾けた神楽耶も頭を下げるが、公方院もいつまでもそれを引きずる事は無い。
何より、火急の用件というのが最初の話である。いらぬ溝を作る必要は無いと言うのが、ドライな軍人らしいとも言うべきであろう。
「では、そちらはそれでよろしいといたしましょう。宗像、各国の動静は?」
「エルンスト卿等の処断とヴィクトルの追放は思いのほか大きな衝撃としてブリタニア内部に広がっているようです」
そして、神楽耶から外交上の報告を求められた宗像は、そう前置きしてさらに話を続ける。
ブリタニア国内では、ヴィクトルを処断したシャルルは再び政務から離れ、ドロテア、モニカ、ジェレミアの名誉回復に動く素振りも見せず、その結果としては貴族や軍人が動揺しているという。
これにはコーネリア等も反発していたが、すでに皇族達の反発が形になっているし、各エリアにも反乱の火種が燻る。
さらに、元々本国への反感が強かったユーロブリタニア内部は大いにあれているとも。
クルシェフスキー家は元々はユーロブリタニア貴族であり、先代当主達も本国を脱出してユーロブリタニアへと逃れているという。
元々、“主義者”の元締めであった一族である。記憶を操作されているが、それでも人脈は残る。そして、それを生かすための手札はこちらにある事をルルーシュは承知していた。
それと対峙するユーロピアは、それに乗じて反撃に転じるべきと言う主戦派と現状維持を望む穏健派が対立し、主戦派の総領とも言えるジィーン・スマイラス将軍の近辺が何かときな臭くなっているという。
(過去においては、どこの誰か知らぬが余計なことをしてくれたモノだ。ああ言う手合いは手駒としては最良だというのに)
ルルーシュもスマイラスと言う名は苦い記憶の一部として残っている。
彼が何者かに謀殺されてしまったが故に、超合集国に置いてはEUそのモノを切り捨て、各国からの合流という形を取らざるを得なくなってしまった。
だが、分裂状態で加盟したところで、ブリタニアの猛攻を受ける状況では戦力の抽出など不可能であったため、むしろ戦力を無駄に消費されたという思いが強い。
何より、腐敗したEUはそのままにシュナイゼルに蹂躙されてしまったのだから余計に。
「クルシェフスキー卿の家族を迎え入れたユーロブリタニアも、現状は進軍が停止しておりますが、いまだに四大騎士団の戦力は強力です。もっとも、彼等は皇帝では無く、大公に従っている側面が強いようですが」
「そうだな。だからこそ、我々も彼等を半独立状態にするしか無かった。殿下、ヤツらは手強いですよ?」
「分かっている。だが、シャルルの敵という点では見込みはある」
「待てゼロ。ユーロブリタニアは、ユーロピアを侵略する明確な敵だぞ?」
「だが、捲土重来を帰す以上、占領地の住民に対する統治は穏健であると聞く。日本人を虐げるユーロピアに比べればよほどまともだと思うが?」
「まあ、今はどうでも良いであろう。それより、そのユーロブリタニア内部でもきな臭い噂を聞いたが?」
「うむ。四大騎士団の一つ、聖ミカエル騎士団なのだが」
「シン・ヒュウガ・シャイングなる人物が台頭している。と言う事ではありませんか?」
「クルシェフスキー卿?」
話題はユーロピアからユーロブリタニアへと移ると、その内部において暗躍する一人の男が主題に上りはじめる。
だが、ルルーシュが口を開く前に、ゆっくりとした足取りでその場にやって来たモニカの声に全員が彼女へと視線を向ける。
「彼の本当の名は、日向シン。あなた方にも聞き覚えのある名では無くて?」
「日向家の生き残りかっ!? だが、彼の者達は、当主の乱心によって滅亡したはずだが」
「私どもが保護し、ユーロへと亡命させておりました。ですが、隙を見て逃亡してしまい、消息を絶っておりましたが」
「ユーロへと戻ったマンフレディ等に拾われ、軍人として頭角を現してきた。だが、実家の滅亡となると、なんらかの闇を抱えているかも知れんな」
モニカの言に、ルルーシュもまた口を開く。
シンはルルーシュにとっては、自分に敗北を味わわせた相手と言う認識がある。とは言え、その野心はブリタニアの敵としては巨大な存在とも言える。
だが、ユーロブリタニアを利用すべきと考えた際には、その戦力を壊滅させられては敵わないと言う思いもある。
「そこまで分かっているのならば、話は早い。殿下、私をユーロへと赴かせてくださいませんか?」
「ほう? どうするのだ?」
「宗像卿も申したとおり、我がクルシェフスキー家の本拠はユーロにございます。許されるのならば、我が智慧を持って殿下にユーロブリタニアを献上してご覧に入れましょう」
「おいおい、俺は支配しようとは思わんぞ? 大公はお前達と同じで、唾棄すべきブリタニア貴族とは異なる人物だ」
「左様でございますか。いずれにしろ、この身体では皆様のお役に立つことは敵いませぬが故、ご検討頂ければと思います」
「今は治療に専念するべきだと思うが……。神楽耶様、日本の皆様としてはどうお考えですか?」
実際の所、モニカにユーロ方面を任せられるのならばルルーシュには益しかない。とは言え、彼女はいまだ重傷から回復途上にある。
自ら武を生かすことは出来なくとも、智を生かすことは出来るという自負があるからこそであろうが、彼女の処遇に関してはキョウトに一任している以上、ルルーシュが勝手に決めるわけにもいかなかった。
「クルシェフスキー卿なりの私どもの義理立てにございましょう。ですが、クルシェフスキー卿、傷ついた女性を前線に立たせるほど我らも人が居らぬわけではございませんよ」
「一つ提案するとすれば、貴公の頭脳はお借りしたい。私もユーロ方面の伝手は少ない」
そんなモニカに提案に対し、神楽耶も宗像もやんわりとそれを断る。実際の所、ルルーシュほどに信頼しているわけでも無いのだから、このキョウトから離れさせる危険は大きいだろう。
とは言え、彼女の頭脳を遊ばせておくこともまた、智の損失と言える。宗像の提案は妥当な線であろう。
「そうでしたね。私としては事を急ぎすぎました……。ですが、ヴィランス大公やシン・ヒュウガなる人物と対峙する際には、私や殿下を伴いください」
「そうですわね。ルルーシュ様とクルシェフスキー卿。ブリタニアが誇る二つの智がそう告げる以上、私どもが考える以上の難敵と言えるでしょう」
互いの妥協案にモニカもそれを是とし、神楽耶の言にその場の日本人達もまた肯く。そして、モニカはやって来た副官達の手で退出していく。
彼女なりに、出身地でもあるユーロに対する思いがあったのであろう。とは言え、ルルーシュとしては事を急ぐわけにもいかなかった。
火種はあっても、シンの暴走までには時間が残されている。むしろ、スマイラスや彼を暗殺した人間達のことを調べてから事を起こすしか無いのだ。
そして、それ以上に眼前のコーネリア、そして中華という難敵への対処が迫っているのだった。
原爆実験での戦艦長門の逸話はけっこう感動的だったりします。
多少、亡国のアキトネタも入れてみました。いずれは、そちらも噛ませられたらなあと言う思いはあります。
ガウェインの相方に関するアンケートを設置してみました。
細かい話は活動報告にも載せようと思いますので、そちらにコメントなどをいただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。