「天皇の末裔」に会いに行く
そうした思いを抱えて町内での取材を続けながら、やはり、どうしても会わなくてはならない人物のところに向かおうと決めていた。
天皇の末裔。
いや、正確にいえば、明治天皇に成り代わった大室寅之祐の子孫である。
事前の調査で、その人物が町内に住んでいることは、わかっていた。
だが、町内の関係者から「会うのは難しいだろう」とも言われていた。
一部の歴史マニア(あるいは陰謀マニア)が、どこでどう調べたのか、大室の子孫の自宅を訪ねることが頻発し、それが嫌ですっかり当人は引きこもってしまったというのだ。
大室家と親しい町民の一人が打ち明けた。
「本人はもう、天皇が云々といった話には付き合いたくないと口を閉ざしています」
それを聞いて少しばかり躊躇したのは事実である。
嫌がっているというのは、本人にとってはけっして愉快な話ではないからだろう。
当然だ。
「天皇の末裔」だと祭り上げられようが、陰謀論の主役に連なる家系だと指摘されようが、いずれにせよ、いまさら何かが変わるわけでもない。
それでも──私はハンドルを切った。
町の中心部を抜け、川を渡り、里山を抜ける。
大室家に向かった。
(後編につづく・文中敬称略)
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