「AV出演強要」は存在するのか? 多くの人が見落としている「本当の実態」

成人年齢引き下げで議論が盛んだが…
河合 幹雄 プロフィール

自主規制の枠を超えた規定

自主規制の枠を超えた規定は、2点ある。

第1点は、契約から撮影まで20日の期間を置く規定である。かつては、契約して、その日のうちに撮影、撮影が終われば現金で100万渡すなどの、乱暴極まりないやり方さえあった。契約日に撮影は、絶対許容できないと人権倫は判断し、最低熟考期間は3日は必要、手続は簡単としても、クリーングオフは8日ですよと迫り、結局7日間をおくことになった。販売停止の申請のでるタイミングの経験則だが、それ以上の日程は不要と思う。ほとんどのケースは、予約開始か販売開始した直後、顔バレ身バレで、販売停止の請求が、メーカーや人権倫に来る。

第2点は、販売から1年間、無条件で契約解除できる制度である。実は、契約に瑕疵があれば当然解約でき、時効の5年がすぎれば自主規制の配信停止できることも前提すれば、問題があるケースは、いつでも取り消せるようになっている。これで全く十分と思われる。メーカーは、これまで、未成年者取消権のケースだけでなく、問題があったとわかれば取り消していると思われる。無条件で契約解除できるとは、いかなる法理なのか。私には、超ド級のクーリングオフ制度としか理解できない。それに、運動団体が示す事例は、業者行方不明により、これによって救済されるケースが、そもそもないのが一番問題である。

繰り返しになるが、1980年代に誕生したAV業者は、90年代からゼロ年代、儲かりまくったため、なんとか、この商売を継続し、産業として世の中にも認められたいと考え、健全化してきた。そのグループである適正AVグループをさらに健全化していくのが現実的な方法であると考えている。

立法過程について一言

立法過程について一言しておきたい。

PTの立法骨子案は、どうやらAV人権倫理機構の自主規制を参考にしていただいたようである。従来から、普通の立法過程では、必ず実施される、対象業界のリーダーたちからのヒヤリングが何もないことは、誤った立法をしてしまうリスクが大きいとして批判してきた。AV業界は、確かに完全に合法と考えられないグレー業界であるとしても、立法するならヒヤリングは必要であることは間違いないと思う。

ここからは想像だが、この問題については、業界人からの直接のヒヤリングは無理なら、代替措置として、AV人権倫から情報提供してもらおうとなったように思う。

人権倫としては、内閣府から求められるままに、自主規制の詳細な中身や、業界の実態についての問合わせに答えさせていただいた。橋渡しに尽力いただいた野田聖子大臣には感謝の意を表明させていただきたい。幸い、自主規制のうち一番大切な、女優が、撮影直前でも途中でも、損害賠償も違約金も請求されることなく出演を取りやめられる権利は、法案に盛り込まれた。

一般向けの広報

実は、適正AVに限れば、あれだけ騒がれたAV出演強要は、もともとほとんどなかったし、2019年以降はないことについて、マスコミの取材に対しては答えたが、広報は控えてきた。

自主規制により、出演作品は5年で配信停止できるし、自主規制の内容を宣伝すれば、健全化によりAVに出演することのリスクが減少したということになる。これで、もし安易に出演しようとする人が出て来てはいけないと私は考えたのである。

AV女優の多くが、出演強要の批判に対して、大いに反発し、自分たちは望んで出演したし、感謝こそすれ被害になどあっていないと表明した。それはそうなのだが、活躍した女優さんを観察してみると気づかされることがある。

わかりやすい例からいくと、まず、5歳のときに強制わいせつの被害、12歳のときに強姦被害、14歳のときに強姦被害と、AV出演のリスクについて説明するというどころでない状況であった方が多数いる。

次に、自殺を考えて街を歩いていたところスカウトに声をかけられ、AVに出演したおかげで自殺を免れてという方々がいる。AV女優あるあるのケースはこういうものである。

もちろん、ひとりひとり深いストーリーがあることは承知の上だが、乱暴にまとめれば、地獄からの脱出口としてAV出演があり、感謝しているという話である。

彼女たちのすごさを知るほどに、普通の女の子たちは、AV出演など、けっしてして出演してはいけないと思う次第である。一応、自分から望んでプロダクションに登録し出演し、女優である自分中心にまわる現場は、その時楽しかったとしても、数年後に深く後悔することになるケースもある。禁止してはいけないと表明しながらも、同時に、普通は、やめとくべき活動であることの広報も抜かりなくするべきと考えている。

今回は、立法のために、本当の実態を示すしかないということで、本稿を執筆させていただいた。被害はゼロにはならないが、少なくするための現実策を理性的に進めていただけることを願う次第である。

 

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