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発足早々各方面から批判を集めている日本ファクトチェックセンター。週末ツイッターを眺めてたら
ファクトチェック: 「沖縄県知事選3ヶ月前から那覇市だけでも100人以上人口増」は不正確
との記事が流れてきました。
記事の趣旨としては、このツイート「3ヶ月前から沖縄県那覇市だけでも100人以上人口増加」をファクトチェックしたものとのことです(引用失礼致します)
お、と思ったのは「統計データを用いて検証しました」というファクトチェックセンターのツイートの文言。どんな統計的手法を用いて検証したのかと思いきや。。。記事を読んでも何も出てこない。
そしてなぜか「那覇市の人口増加は、一時的には存在するものの全体的に減少傾向にあり、かつ、選挙人名簿登録者数も減っているため、不正確と判定した」と続きます。あまりにも仕事が雑すぎませんかね。。。
さらに目を疑ったのはその後段。「2021年7月の那覇市議選と2022年6月の参院選の際の登録者数が高い水準となっていますがこれは選挙人名簿の制度設計が理由です。新年度に合わせて転入した人が選挙人名簿に登録された一方、転出した人の抹消はまだだったことで選挙人名簿の人数が増えたと考えられます」
要は那覇市の選挙人名簿登録者には6月、7月に増加する季節性があるということのようです。しかし、同記事に載っているグラフを見る限り6月、7月に増加する季節性があるようにはとても思えませんでした。
そこで(スプリンターズステークスで負けていらいらしていたこともあり)、日本ファクトチェックセンターのファクトチェックをしてみようと思い立ちました。
ファクトチェックするのは日本ファクトチェックセンターの言説、「2021年7月の那覇市議選の登録者数が高い水準となっているのは選挙人名簿の制度設計が理由」です。
前段階として那覇市から選挙人登録者数のデータを取得します。那覇市の選挙人は四半期ごとに行われる定時登録と選挙前に行われる選挙時登録があるとのこと。
なぜか2012年から2016年まで大規模なデータの欠損があります。ちょっと補完で何とかなるレベルではなさそうです。グラフにすると以下の通り。 Image
分けてみると人口の増加に伴い選挙人登録者も増加傾向にあった2012年までと減少傾向にある2016年以降でトレンド自体も変わっていそうで、分けて分析したほうがよさそうです。 ImageImage
そしてここでいきなりずっこけることになります。定時の選挙人登録者数をみると、2022年3月時点と比べて6月時点では100人増加しています。
つまり、日本ファクトチェックセンターが検証したもともとのツイートにある「3ヶ月前から沖縄県那覇市だけでも100人以上人口増加」というのは、人口ではなく選挙人登録者とすれば正しかったことになります。
確かに人口ではなく選挙人登録者なので厳密にいえば間違いですが、ツイートの文意も選挙にかかわることである以上、選挙人登録者を人口と表記すること自体はそこまで問題があることとは思えません。ここまでくるとファクトチェックというより単なる揚げ足取りです。
気を取り直して先に進みます。「那覇市議選の登録者数が高い水準となっているのは選挙人名簿の制度設計が理由」とするためには、前述のように「那覇市議選の選挙人増加は選挙人名簿登録者が6月、7月に増加する季節性によるもの」ということを検証しなければなりません。
そこで、2006年-2012年の前期比での増加率の平均を見てみると。。。早くも怪しいw6月期も9月期も微妙に増えてはいますが、増加率の平均では12月期のほうが大きいです。 Image
同じく2016年から2022年についても見てみます。
これも怪しい。9月期に至っては-0.2%と減っていますwこれでは6月と7月に選挙人が増加する季節性なんて検証するまでもなく誤りな気がしてきます。 Image
ファクトチェックに万全を期すために先に進みます。季節性の検証のため、Demetra+という統計プログラムを用います。
これは、もとはスペイン中央銀行が開発したソフトウェアで、今では欧州委員会が無料で配布してくれています。季節調整として最も広く用いられているX-12-ARIMAを簡単にかけることができる優れものです。
これで、定時選挙人登録者数のデータに季節調整をかけ、季節要因によってどの程度の増減が説明できるのか見てみます。
その結果がこちら。 ImageImage
まあこうなりますよねという内容です。6月、7月に増える傾向があるどころか、2006年-2012年では6月期、9月期ともにマイナス、2016-2022年では9月期がマイナスです。そもそも季節調整係数がどの期も少なく、季節性自体がほとんど存在しません。
もう勝負はあった気がしますがファクトチェックに万全を期すために先に進みます。2016年から2022年のデータを用いて季節調整を考慮した変動をもとに、那覇市市長選挙で見られた+0.6%という選挙人登録者数の変動がそれに収まるかどうかを検証します。
今回は那覇市市長選挙という一つのデータを検証するため、外れ値の測定で一般的なスミルノフ=グラブス検定を用います。
結果は以下の通り。t値は驚異の13.7、p値は限りなくゼロとなりました。 Image
統計的に有意かどうかを判定するには厳しい基準がありますが、ここまでくるともう言い切っていいレベルです。「那覇市議選の選挙人増加は選挙人名簿の制度設計が理由です」という日本ファクトチェックセンターの言説は統計的には「誤り」と判定できると思います。
ここで終わりにしたいのですが、日本ファクトチェックセンターなどというザコを斬って終わりにしても仕方がないので、もう一歩踏み込んで「選挙になると那覇市の選挙人登録者数が増えるのか」を統計的に検証したいと思います。
対象とするのは、2006年-2012年については、2006年の県知事選、2007年の参院補選、参院選、2008年の市長選、2009年の市議選、2010年の参院選、2012年の県議選。2016年-2022年については、2021年の市議選、衆院選、2022年の参院選、知事選です。
これらの選挙にあたっての直前の定時調査からの選挙人の増加分を求め、それらが通常の定時調査における増加と比べて有意に多いかを検証します。
平均だけ見ると、通常の選挙人の四半期の増加率は2006-2012年は+0.13%、2016-2022年は-0.03%ですが、選挙になるとそれぞれ+0.39%、+0.17%と増加幅が大きくなります。こうした増加が統計的に有意なのかをt検定を用いて検証します。
結果は以下の通り。前述のように選挙前に選挙人が増えるという傾向は確認できましたが、それが2016-2022年について統計的に有意かは怪しくなっています。2016年以降の選挙時の選挙人登録は2021年以降しか公開されておらず、サンプル数がわずか4というのが制約となっています。 Image
一方、2006年から2012年については1%の水準では統計的な有意性は棄却されますが、5%では棄却されないという結果となりました。つまり、最初のツイートの趣旨にある「那覇市では選挙の前になると選挙登録人が増える」というのは、統計的に有意性がある程度確認されるというものとなりました。 Image
ただこれ自体は自然な気がします。米軍基地を抱える地政学的な要衝という性質上、沖縄での選挙が他の選挙と比べて重要なのは当然で、選挙の直前に住民票を移したりする行動は、与党・野党問わずある程度ありうることだとは想像できます。
結果として日本ファクトチェックセンターがやったのは、数ある中からこのツイートを選び、揚げ足取りに近いファクトチェックとやらを行った挙句、追記で那覇市長選の選挙人登録者数について統計的にほぼ間違いが確実な言説を流すというどうしようもない結果となりました。
日本ファクトチェックセンターの問題点として1.人員の選出が偏っている、2.既存メディアを対象としない、3. プラットフォーマー自らが出資しているという批判が各方面からなされていますが、今回はそれに加えてファクトチェック自体のレベルの低さが露呈した格好です。
そもそもある事象について何がファクトで何が間違っているのかを判定するのはどんな統計を用いても最終的には不可能で、それを自らが断定できると考えること自体、「致命的な思い上がり」と言わざるを得ません。
日本ファクトチェックセンターが各方面から批判を集めているのは、プラットフォーマーによる非常にレベルの低い検閲によってウェブ上の言論が制限されることへの嫌悪感が大きな理由でしょう。個人的にはファクトチェックセンターにこれらを改善する自浄作用が備わっているとも思えません。
以上、ありがとうございました。連続ツイート失礼しました。

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