「(欅坂46の)“黒い羊”は、私の為に歌詞を書いてくれたんだろうと思うような歌詞だったんですが、私以上にぴったりと歌詞がはまるNGTを辞めた山口真帆に、私の持ち歌をとられた。【中略】“説得される方が居心地悪くなる”、素晴らしい歌詞でありまして」――。5月25日、地元・埼玉県大宮市でのタウンミーティングでそう饒舌に語っていたのは、立憲民主党の枝野幸男代表(54)。集まった年配の支持者たちはポカンとするしかなかった。衆参ダブル選も取り沙汰される永田町。野党第一党の立民に期待されるのは、安倍一強政権に批判的な民意の受け皿だ。トップの枝野氏は政権奪取に向けて奔走しているかと思いきや、「最近の枝野氏は各地でタウンミーティングを開いていますが、例えば、小沢一郎氏のように地元の連合幹部らと酒を酌み交わすような懐の深さはありません。それより、アイドル好きの枝野氏は、番記者とカラオケに行くのが大好き。一人でマイクを握り続け、欅坂の46の“不協和音”や乃木坂46の“君の名は希望”等を熱唱しています。普段は議員会館でエゴサーチ(※インターネット上で自分への評価を検索すること)に熱心ですが、組織運営は基本的に最側近の福山哲郎幹事長に任せきり。選挙の候補者面談も15分で切り上げ、揉め事が起きても『福ちゃん、やっているんでしょ』と他人事です。辻元清美国対委員長は『代表はカラオケばかり』と呆れていました」(立民関係者)。
その枝野氏が掲げるのが、他の野党とは一定の距離を置く“単独主義”だ。野党共闘を訴える小沢氏とも月一回程度会談してきたが、今年に入り、頻度も減ったという。「旧民主党時代、同期の野田佳彦前首相や前原誠司元外務大臣が代表経験を重ねる一方で、枝野氏は代表選に一度出ただけ。この立民で初めて組織を率いる立場になったわけです。しかも、前原氏ら“煩い小姑”のいない最高の環境。枝野氏からすれば、政権奪取よりもこの状況を維持したい。実際、『安倍さんのうちは政権を取れないから』と投げ出している。寧ろ今、枝野氏の頭にあるのは、小沢氏の自由党とも合流した国民民主党を“焼け野原”にすることです」(政治部デスク)。象徴的なのが静岡選挙区(※改選数2)。野党の1議席獲得が濃厚だが、現職の榛葉賀津也氏(※国民)に対し、立民は態々、徳川宗家19代目で評論家の徳川家広氏を擁立したのだ。「立民幹部は『榛葉を潰すことが日本の為』と息巻いている。福山氏と榛葉氏の関係が悪いことも背景にあります」(同)。その立民から、東京選挙区で2人目の候補者が発表されたのは、5月23日のこと。元朝日新聞記者の山岸一生氏だ。東京大学法学部卒業後、2004年に『朝日新聞社』に入社。当時の菅直人首相や二階俊博幹事長らの担当を経て、4月から立民担当だった。「バツイチで、菅首相の番記者を同時期に務めた読売の女性記者と再婚しましたが、二股だった疑惑が取り沙汰されています。酒癖の悪さも有名です。酔っ払って自民党議員に悪態をつき、菓子折りを持ってお詫びに行ったこともありました」(自民党関係者)。退社にあたって、政治部の同僚に「(今の政治は)話を聞くどころか一方通行で上から目線/今こそ“記者のまなざし”を政治に取り戻したい、そう考えました」とメールを送った山岸氏。朝日といえば、モリカケ問題で安倍晋三首相への説明責任を強く迫ってきた。一連の疑惑に、“記者のまなざし”を掲げる山岸氏はどう答えるのか? 取材を申し込んだところ、「弁護士に対応を一任していますので」と答えるのみ。その後、代理人弁護士の名前で「山岸一生氏やご家族に関する事実無根のデマが流されていることを確認しております」とした上で、捜査当局と刑事告訴を協議中であるとの回答があった。勿論、東京選挙区でも国民民主とは議席を争う形だ。連合の神津里季生会長は取材にこう答える。「野党共闘が進まないことが、結果的に安倍政権を利している。そういう姿は世の中にも見透かされていて、安倍政権は堅調で、野党の支持率はジリ貧になっています。枝野さんがその点をどう捉えていくのか…」。実際、立憲の支持率は、ピーク時の14%から3%にまで落ち込んでいる。
「衆議院小選挙区の候補者調整も大幅に遅れています。立憲会派の岡田克也前副総理は会見で、『決まり方を含めて見ると、相当厳しい』等と述ベ、枝野氏を牽制しました」(前出の政治部デスク)。ところが、枝野氏は「岡田さんは間違っている」と自信満々だという。「枝野氏が口にするのは、2017年10月、前回の総選挙での成功体験です。希望の党を立ち上げた小池百合子都知事の“排除発言”に反発し、僅か2日間で結党しましたが、大旋風を巻き起こした。5月17日、菅義偉官房長官が『(野党の不信任案提出は)解散の大義名分になる』とダブル選を匂わせた際も、枝野氏は『20日に不信任案を出す準備をしろ』と指示を出しています。いざ解散すれば、自分に風が吹く、そこから動いても間に合うと信じているのです。しかし、289の小選挙区の内、立民は目標160の半分程しか擁立できていない。枝野氏の指示に、流石の福山氏も『全然準備が整っていません』と困惑していました」(枝野氏周辺)。抑々、2017年秋の総選挙で躍進できたのは、大口スポンサーの存在があったからだ。約100億円と見られる旧民主党の資金を引き継いだ国民民主と異なり、立民は枝野氏が一から立ち上げた政党。立憲の政治資金収支報告書(※2017年分)によれば、事実上の結党資金とも言える4.1億円の借入金の内、2017年11月8日付で1.8億円を貸し付けている人物がいる。『カタログハウス』創業者の斎藤駿氏。更に、貸付とは別に、10月18日付で上限額の2000万円を寄付している。当時、本誌の取材に斎藤氏は、「2000万円は寄付。その後、貸付の要求がありました。枝野さんとは政治信条が近いし、発言が信用できる人だと思った」と回答。斎藤氏に改めて今の枝野氏について尋ねたところ、沈んだ表情でこう答えた。「複雑だなぁ…。中々期待通りにいっていないなぁと。立民ができてから枝野氏に会っていません。距離を置いています」。5月26日、山梨県甲府市でタウンミーティングを終えた枝野氏を直撃した。「単独主義的な行動が野党共闘を阻み、安倍政権を利しているのでは?」。枝野氏は本誌記者を振り返るも、無言で車に乗り込んだのだった。事務所にも発言の事実関係等を確認したが、回答はなかった。その枝野氏が今、一番楽しみにしているのは、55歳の誕生日、5月31日に六本木で開かれる番記者とのパーティーだという。政権奪取より国民民主潰し、そしてカラオケに夢中な野党第一党党首。こうした枝野氏の姿勢に、旧民主党のブレーンである法政大学の山口二郎教授はこう嘆息する。「大きな敵を見据えてやってもらわないと。今の安倍政治を見ても、本当に悔しいと思っていないところが一番情けないと思う。石に齧りついてでも、今の政権を倒す為に死に物狂いで闘うっていうのが政治家の筈なんです」。安倍一強政権に代わって国を引っ張っていくことを期待された枝野氏。今や“君の名は失望”――。