作家さんが描いた漫画の
一番目の読者になれる。
誰にでもすぐに理解できる漫画をつくる
志望していたのは少女誌でしたが、入社後に配属されたのは週刊少年チャンピオン編集部でした。ただ、ここで編集者としての基礎を積むことができたのは貴重な経験です。当時、編集長や先輩からよく言われていたのは、「誰にでも分かる漫画をつくりなさい」ということ。週刊少年チャンピオンは幅広い年齢層の方に読んでいただいております。どの年齢層にもきちんと伝わるように難しすぎる言葉は使わず、コマ割りもかっこ良さよりも、読みやすさや分かりやすさが求められます。また、ドラマづくりは妥協せず、作家さんとの打ち合わせでは遠慮せずに思ったことはちゃんと意見すること。もちろん、指摘するばかりではなく、作品の良いところを見つけて褒める大切さも学びました。漫画は次号に期待を持たせるための「引き」が大事なのですが、当時担当させていただいた小沢としお先生は引きをつくるのがとても上手な作家さんでしたので、魅力的な引きづくりについて直接作家さんに教われたのもありがたかったです。
「漫画をつくる視点」から「漫画を売る視点」へ
入社8年目に販売部に異動し、秋田書店のコミックスを置いてもらえるスペースを書店員さんに交渉する書店営業担当になりました。昨今、書店の経営は厳しいこともあって書店員さんの見る目は厳しく、特に注目される平積みスペースには「売れる漫画がほしい」と要求されます。ただ、秋田書店としては売り出し中の漫画を置かせてもらいたい。このような交渉を重ねる中で気付いたのが、「絶対に売れる漫画」の存在は、会社だけではなく書店にとっても貴重な存在だということ。絶対に売れる漫画があると、新人作家さんのコミックスもセットで平積みスペースに置いてもらいやすくなるのです。また、書店員さんはSNSに書き込まれる読者の声をかなり参考にされていることも分かりました。編集部にいるだけでは知ることのなかった社会の実情や厳しさを実感し、「漫画を売る視点」をゼロから学んだ1年間でした。
面白いネームは、編集者の元気の源
現在は、ヤングチャンピオンとWebサイト「マンガクロス」の編集を担当しています。編集の仕事は地道な作業がとても多いのですが、作家さんから面白いネームをいただいた日はテンションが爆上がりして疲れも吹っ飛びます。憧れていた作家さんと打ち合わせして一緒に漫画をつくり、その漫画の一番の読者になれるのは、この仕事の魅力です。中でも印象に残っている作品は、異動したばかりの頃に週刊少年チャンピオンで担当していた桜井のりお先生から見せていただいた「僕の心のヤバイやつ」。先生から企画を聞いた瞬間、「すごく面白い!」と直感しました。これまでの先生の作品とはテイストの異なる、恋愛の情緒的な部分はしっかりと描写しながらもコメディを交えた作品で、先生の「絶対に読者を楽しませる」という気持ちがとても強く出ていて構成も秀逸です。連載が始まってからというもの読者の反響はとても大きく、さまざまな賞もいただくことができて先生と一緒に喜び合いました。
スマホ世代を意識したタテ読み漫画への挑戦
Webサイトの「マンガクロス」も基本的な漫画の作り方は紙媒体と同じです。ただ、その作品が好きな人以外は読んでくれませんし、連載が始まっていることすら知られてないこともあるので、編集部の公式アカウントを使ったSNSでのPRに力を入れています。特に注意しているのは、予告を打つタイミングと気持ちが先走り過ぎて過剰なネタバレにならないようにすること。誤って炎上してしまうと、意図せず作家さんに迷惑がかかってしまいます。編集者として読者を「楽しませたい気持ち」と「行き過ぎない気持ち」のバランスを取りつつPRすることを心がけています。今、10〜20代の若い世代にはWebtoonなどのタテ読み漫画がとても読まれていて、もしかしたら10年後にはタテ読み漫画が業界の主流になるかもしれません。これまでの経験を活かしながら、今後は新たなジャンルにも挑戦していきたいです。
私の仕事道具
級数表
作家さんからアップされた原稿を入稿する際に使用するのが級数表です。ペン入れされた入稿前の原稿に、フキダシの文字や、アオリ文章などの文字の大きさを級数表で指定します。この指示をもとに印刷所で写植を打ってもらい入稿します。