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『NintendoDREAM』ディレクター サオヘン氏インタビュー 第一回

8月23日、24日の二日間にわたって行われたNintendoDREAM10周年記念イベント『ニンドリ博』にて、ニンドリの看板とも言える”サオヘン”こと左尾元編集長にインタビューさせていただく機会を得ました。1時間半にもおよぶ会話の中でサオヘン氏が語った10年の軌跡と様々な想いを、この場で紹介させていただこうと思います。

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8月23日、24日の二日間にわたって行われたNintendoDREAM10周年記念イベント『ニンドリ博』にて、ニンドリの看板とも言える”サオヘン”こと左尾元編集長にインタビューさせていただく機会を得ました。1時間半にもおよぶ会話の中でサオヘン氏が語った10年の軌跡と様々な想いを、この場で紹介させていただこうと思います。
これまで、最も多くの任天堂系クリエイターにインタビューを行ったであろうサオヘン氏に、逆にインタビューするという前代未聞のこの企画、ご堪能下さい。


雑誌とWeb


― 早速ですけどINSIDEはいつからご存じだったのですか?

左尾ディレクター
(以下サオヘン)
GameCubeINSIDEの頃から知ってました。凄くデザインセンスが良いなぁというのが第一印象ですね。コレやってる人は凄く任天堂が好きみたいだし、ウエブマスターさんに一度お会いしてみたいなぁと思っていて。最初はこんなに若い人がやってるとは思わなかったんですけどね(笑)。INSIDEって、僕が64ドリームをはじめた頃の感覚にとても近いなあと感じることもあるんですよ。怖い者知らずっぽいところとか、本当におもしろがってやっている感じもして。だから、いつか一緒に何か出来ないかな、と思ったりもしますね。僕がもうちょっと若かったら、仲間に入れて欲しいくらい(笑)。

― 是非。うちで記事書いて下さいよ(笑)。

サオヘン(笑)。ただ、僕らは直接取材をしているわけだから、一般の人が知らないような事も知ってたりするわけです。でもたまにINSIDEを見ると「ええーっ? そんなの聞いてないよ!」ってビックリすることもあるんですよ。そこで、任天堂の萩島さん(*1)に聞いてみると「全然誤報です」って(笑)。

― うちは海外ゴシップも多いですからね。雑誌と比較してネットの強みって言うのはあると思いますか?

サオヘン当然あると思います。うちは月刊誌だからどうしても一ヶ月のタイムラグが発生するので、速報性ではネットには敵いません。ただ雑誌ならではの良さというのももちろんあって、たとえば9月号、10月号と連続でやった宮本さんのロングインタビューも、ネットだと斜め読みしてしまうと思うんですよね。誌面だとネットに比べて長文は読みやすいと思います。あと紙に残りますし、いつでもどこでも読める良さもありますよね。

― ニンドリ博ではバックナンバーも全て展示されていますね。創刊号を読ませていただきました。

サオヘン ひどいですよね、あれ(笑)。当時ゲーム雑誌を作るのは初めてだったし、スタッフには全く編集など経験のない元経理課長もいて、何から何まで手探りだったんです。だから、今見ても恥ずかしいし、できれば展示をしたくなかったくらいです(笑)。ただ、今回のニンドリ博で凄く嬉しかったのが、たくさんの人がバックナンバーを見てくれたことですね。中には会場に来てすぐバックナンバーのところに向かった人もいましたし。雑誌には流れがあって、時代のにおいがすると思うんですよ。表紙を見るだけでも当時どういうゲームがあって、何が流行っていたのかすぐわかるでしょう。それにあそこに並んでいるものは全部アナログな情報なんですよ。もちろん雑誌そのものはDTP(*2)で作ってるんですけど、創刊してから数年間は、イラストはすべて手描きで、写真もポジや紙焼きだったわけです。メーカーから提供される新作ソフトの画面も、紙焼きが多かったですしね。今回のニンドリ博のために、昔の資料が詰め込んである段ボール箱なんかを発掘したんですけど、懐かしいイラストやメモなんかが出てきて、当時のことを思い出してつい泣きそうになりました。それはやっぱり、アナログならではの手触り感があるからで、デジタルだとこんな気持ちにはなれないと思うんですよね。

― 展示のイラストコーナーも全て紙なんですよね。

サオヘン そう、あれもすごいですよね。あのコーナーで展示されている手描きの色や紙の質感は、印刷やネットでは再現できないんです。そもそもニンドリ博の企画があがったのも、投稿イラストを生で見て欲しいという思いがあったからなんですね。ただ、来場者の人たちが手で触っちゃうといけないので、上から透明シートをかぶせようかという案もあったんですけど、紙のざらざら感とか材質とか、生原稿の良さを感じ取って欲しいなぁと思ってやめました。


ニンテンドウ64の思い出


― ところで雑誌をはじめた当時は色々大変ではありませんでしたか? N64の発売延期があったりとか。

サオヘン同時発売ソフトも3本しかありませんでしたしね(笑)。でも、ゲーム雑誌をやるのが初めてだったので大変だとは思わなかったです。それ以上にゲームの仕事って面白いなぁと思いました。あらゆることが新鮮でしたし、会社でゲームをやっても怒られないし(笑)。みんなが趣味でやることを仕事でやれたわけだし、とてつもなく楽しかったですね。N64って、セールス的には失敗ハードみたいなところがあったわけですけど、僕にとっては64DDも含めて、とても革新的なすばらしいハードだと思っているんです。だから、ニンドリ博の隠しテーマって、実はN64だったりするんです。普通、任天堂の過去の展示会をやろうとすると、ファミコンが主役になることが多いでしょ。

― だから会場に『スーパーマリオ64』が置いてあるんですね。先ほど少しやらせてもらったんですけど懐かしかったです。

サオヘンスーパーマリオ64』は、僕にとっては原点のソフトなんです。ちょうど10年前の春に、任天堂の大会議室でマリオを見せてもらったんですが、マリオがアニメのように動いてるのを見て「これはすげぇ」って感動して涙が出てきたくらい。今見るとちょっと見劣りしますけどね (笑)。マリオのモーションが本当に柔らかくて、当時は「触れるアニメーション」という言い方をしていたと思いますが、まさにそんな感じでしたね。それで、今回のニンパクでもみんなに遊んでほしいと思って、アメリカ版なんですけど、自宅から持ってきたわけなんです。

― N64当時の思い出はマリオ以外にありますか?

サオヘン『ドラクエ』の発表が最大の危機でしたね。僕は1月14日にCESA(*3)のパーティに行って、そこで福島さん(*4)に会って色々話したんです。それで、翌日にふと新聞を見たら「『ドラクエ』の次回作はPSで」って載ってたんです。僕自身、『ドラクエ』はN64で出るものだとずーっと思ってて。というのも、その数ヶ月前に、福島さんのインタビューをやったんです。『ドラクエ』をN64で出す気がなければ、インタビューを受けることはないでしょ。それで、読者からも「えーっ」ていう声があがったんですけど、自分も一緒になって落ち込んでちゃだめだなと思って、励ます方向で雑誌を作っていこうと思いました。そしたら、読者さんから「それでもN64に期待する」といったような手紙がたくさん届いて、それを電車の中で読んでいたら、泣けちゃったこともあって・・・。逆に読者さんに励まされた感じですよね(笑)。そこで、N64にとって明るい話はないかなあって探していったらマリーガル(*5) に出会うことができた。あとキャメロット(*6) もね。マリーガルの人に会えたのはとても幸せでしたし、イギリスのレア社(*7)の存在もとても大きかったと思います。そういった会社がなかったら、いったいN64はどうなっていたんでしょうね。

次回に続きます。

【注釈】
*1 萩島さん:萩島光明さん。任天堂企画部GM。ニンドリでは『任天堂の質問箱』のコーナーでお馴染み。
*2 DTP:デスクトップパブリッシングの略。雑誌などの編集割り付け作業をPC上で行うこと。
*3 CESA:社団法人コンピュータエンターテインメント協会
*4 福島さん:福島康博さん。元エニックス会長で現スクウェア・エニックス名誉会長。
*5 マリーガル:マリーガルマネジメント。任天堂とリクルートが共同で出資した会社で、投資家から資金を集めてクリエイターが作りたいゲームに投資していた。マリーガル自体は経理や広報といった裏方業務を主に担当し、クリエイターにはゲーム開発に専念してもらうというクリエイター優先主義をとっていた。
*6 キャメロット:1994年に設立したゲーム会社。代表作は『マリオゴルフ』シリーズ、『マリオテニス64』シリーズ、『黄金の太陽』など。
*7 レア社イギリスのゲーム会社。『スーパードンキーコング』や『ゴールデンアイ007』といった名作を多く輩出した。
《ヤマタケ》
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