「営業秘密」の侵害類型まとめ
2016/10/04   コンプライアンス, 不正競争防止法, その他

1.「営業秘密」(2条6項)

 「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。顧客名簿や新規事業計画、価格情報、対応マニュアル等といった「営業情報」、製造方法・ノウハウ、新規物質情報、設計図面等といった「技術情報」が類型として挙げられる。「営業秘密」として保護を受けるためには、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)の3要件を満たす必要がある。
 (1)秘密管理性
  この要件は、ある情報に合法的かつ現実に接触することができる従業員等からみて、その情報が会社にとって秘密にしたい情報であることが分かる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置がなされていることを意味する。もっとも、何をどこまでやれば秘密管理性が満たされるのかが不明確との声があり、「営業秘密管理指針」(pdf)が改訂された。
   【参照:経済産業省 営業秘密管理指針を発表
 (2)有用性
  この要件は、脱税情報や有害物質の垂れ流し情報などの公序良俗に反する内容の情報を、法律上の保護の範囲から除外することを主目的としたものであり、それ以外の情報であればこの要件を満たしていると認められることが多い。現実に利用されていなくても良く、失敗した実験データというようなネガティブ・インフォメーションもこの要件を満たしうる。
 (3)非公知性
  この要件は、合理的な範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般に入手できないことを意味する。公知情報の組合せであっても、その組合せの容易性やコストに鑑みて、この要件を満たしうる場合もある。

2.「営業秘密」が問題となった事案

 (1)投資用マンションの販売業を営む会社の従業員が、退職し独立起業する際に、営業秘密である顧客情報を持ち出し、その情報に記載された顧客に対して、転職元企業の信用を毀損する虚偽の情報を連絡した事案である。顧客情報が「営業秘密」として認められ、原告のよる損害賠償請求が認められた。
 【知的財産高等裁判所平成24年7月4日判決(pdf)
 (2)石油精製業等を営む会社の営業秘密であるポリカーボネート樹脂プラントの設計図面等を、その従業員を通じて競合企業が不正に取得し、さらに中国企業に不正開示した事案である。設計図面等が「営業秘密」として認められ、原告によるその図面の廃棄請求、損害賠償請求等が認められた。
 【知的財産高等裁判所平成23年9月27日判決(pdf)
 (3)1980年代後半から長期にわたり、韓国企業が、日本企業OBに多額の報酬を支払うこと等により、製鉄に関する製造技術についての営業秘密を不正に取得し使用した事案である。日本企業が韓国企業から約300億円の支払いを受けることで和解となった。
 【株式會社ポスコ等との訴訟における和解について(pdf)
 (4)日本企業のNAND型フラッシュメモリの技術に関する機密情報を韓国企業が不正に取得・使用した事案である。日本企業が韓国企業から約332億円の支払いを受けることで和解となった。
 【韓国SKハイニックス社との訴訟における和解について(pdf)
 (5)通信教育の最大手企業の保有する顧客情報約3000万件が約50社に漏えいした事案である。責任部署にいた取締役2名が引責辞任するとともに、この影響で大規模な顧客離れが起き、赤字に転落するなど、経営に対する重大な打撃となった。
 【事故の概要

3.「営業秘密」の侵害類型

 (1)民事面
  ①不正取得類型
   1⃣2条1項4号


    ❶窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段を用いて営業秘密を取得する行為(以下、「不正取得行為」という)
    ❷不正取得行為で取得した営業秘密を使用する行為
    ❸不正取得行為で取得した営業秘密を開示する行為(以下、開示する行為には、秘密を保持しながら特定の者に示すことも含む)
   2⃣2条1項5号


    ❶営業秘密について不正取得行為が介在していることを知って(以下、「悪意」という)、その営業秘密を取得する行為
    ❷営業秘密について不正取得行為が介在していることをわずかな注意さえ払えば簡単に気づくことができるのに、不注意でこれを見逃した上で(以下、「重過失」という)、その営業秘密を取得する行為
    ❸❶又は❷で取得した営業秘密を使用する行為
    ❹❶又は❷で取得した営業秘密を開示する行為
   3⃣2条1項6号


    ❶営業秘密を不正に取得した者から、その旨を知らずにその営業秘密を取得した者が、取得後にその営業秘密が不正に取得されたものであることにつき悪意又は重過失の上で、その営業秘密を使用する行為
    ❷営業秘密を不正に取得した者から、その旨を知らずにその営業秘密を取得した者が、取得後にその営業秘密が不正に取得されたものであることにつき悪意又は重過失の上で、その営業秘密を開示する行為
  ②正当取得類型
   1⃣2条1項7号


    ❶営業秘密を保有する事業者(以下、「保有者」という)から正当にその営業秘密を取得した者が、不正な利益を得る目的又はその保有者に損害を加える目的(以下、「図利加害目的」という)で、その営業秘密を不正に使用する行為
    ❷保有者から正当にその営業秘密を取得した者が、図利加害目的で、その営業秘密を不正に開示する行為
   2⃣2条1項8号


    ❶保有者から正当にその営業秘密を取得した者が、その営業秘密を図利加害目的で開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為(以下、両行為を「不正開示行為」という)を行い、その者から不正開示行為であること又は不正開示行為が介在したことにつき悪意又は重過失の者が、その営業秘密を取得する行為
    ❷❶で取得した営業秘密を使用する行為
    ❸❶で取得した営業秘密を開示する行為
   3⃣2条1項9号


    ❶保有者から正当にその営業秘密を取得した者が不正開示行為を行い、その者から、不正開示行為であること又は不正開示行為が介在したことについて知らず(以下、「善意」という)又はわずかな注意を払っても簡単に気づくことができない(以下、「無重過失」という)者がその営業秘密を取得し、取得後にその営業秘密に関して不正開示行為があったこと又は不正開示行為が介在したことについて悪意又は重過失の上で、その営業秘密を使用する行為
    ❷保有者から正当にその営業秘密を取得した者が不正開示行為を行い、その者から、不正開示行為であること又は不正開示行為が介在したことについて善意又は無重過失である者がその営業秘密を取得し、取得後にその営業秘密に関して不正開示行為があったこと又は不正開示行為が介在したことについて悪意又は重過失の上で、その営業秘密を開示する行為
  ③平成27年に新設された類型(2条1項10号)
   1⃣2条1項10号


    ❶これまで(1)で取り上げた行為の内、営業秘密を不正に使用する行為(以下、「不正使用行為」という)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡・引渡しのための展示・輸出・輸入する行為
     ※不正使用行為は、営業秘密のうち技術上の秘密を使用する行為に限定される。
     ※不正使用行為に具体的に該当する行為は、(1)で取り上げた行為の内、下線を引いた6つの行為である。
    ❷不正使用行為により生じた物を電気通信回線を通じて提供する行為
     ※電気通信回線を通じて物の提供を受けた者が、譲受時、当該物が不正使用行為により生じたものであることにつき善意・無重過失で、当該物を第三者に譲渡し、引渡し、譲渡・引渡しのための展示・輸出・輸入し、又は、電気通信回線を通じて提供する行為は除かれる。
  ④適用除外
   「不正競争」(2条1項柱書)に形式上該当するものであっても、差止請求、損害賠償請求、罰則等の規定(3条から15条まで、21条(2項第7号に係る部分を除く。)及び22条の規定)が適用されない場合がある。
   1⃣19条1項6号


    不正取得類型(①)及び正当取得類型(②)に示した行為に関して、その営業秘密が不正取得されたり、不正開示されたりしたものであることについて、善意・無重過失の上で、その営業秘密をライセンス契約等の取引で取得した者が、その契約の範囲内でその営業秘密を使用・開示する行為は、適用除外となる。取得後に悪意となった場合も同様である。
   2⃣19条1項7号


    ③に示した行為に関して、時効の成立や除斥期間の経過等により、差止請求ができなくなった営業秘密を使用することで生じた物を譲渡し、引渡し、譲渡・引渡しのための展示・輸出・輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為は、適用除外となる。

 (2)刑事面
  ①不正な手段(詐欺、恐喝、不正アクセス等)により取得される類型
   1⃣21条1項1号


    図利加害目的で、詐欺等行為(詐欺、暴行、脅迫等をいう)又は管理侵害行為(財物窃取、施設侵入、不正アクセス行為、その他の保有者の管理を害する行為等をいう)によって、営業秘密を不正に取得する行為
   2⃣21条1項2号


    1⃣の行為で不正に取得した営業秘密を図利加害目的で、使用又は開示する行為
  ②正当に営業秘密が開示された者が背信的行為を行う類型
   1⃣21条1項3号イ~ハ


    保有者から営業秘密を開示された者が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に関する任務に背き、以下の方法により営業秘密を領得する行為
    ・営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう)又は営業秘密の化体した物件の横領(イ)
    ・営業秘密記録媒体等の記載・記録や営業秘密の化体した物件の複製の作成(ロ)
    ・営業秘密記録媒体等の記載・記録の消去義務違反+消去義務を果たしたことの仮装(ハ)
   2⃣21条1項4号


    保有者から営業秘密を開示された者が、1⃣で示した方法によって領得した営業秘密を、図利加害目的で、その営業秘密の管理に関する任務に背いて使用又は開示する行為
   3⃣21条1項5号


    保有者から営業秘密を開示された現職の役員又は従業員が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に関する任務に背いて、その営業秘密を使用又は開示する行為
    ※役員とは、「理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者」をいう。
   4⃣21条1項6号


    保有者から営業秘密を開示された退職者が、図利加害目的で、在職中に、その営業秘密の管理に関する任務に背いて、その営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用又は開示について請託を受け、退職後に使用又は開示する行為
  ③転得者が使用又は開示を行う類型(平成27年新設)
   1⃣21条1項7号(二次的な転得者が対象)


    転得者が、図利加害目的で、開示に当たる行為により取得した営業秘密を、使用又は開示する行為
    ※ここで「開示に当たる行為」に具体的に該当する行為とは、(2)で取り上げた行為の内、下線を引いた行為の中の4つの「開示」行為をいう。
   2⃣21条1項8号(三次以降の全転得者が対象)


    転得者が、図利加害目的で、開示に当たる行為が介在したことを知って取得した営業秘密を、使用又は開示する行為
    ※ここで「開示に当たる行為」に具体的に該当する行為とは、前述の下線を引いた行為の中の4つの「開示」行為に、1⃣の行為の中の開示に当たる行為を加えたものをいう。
       ④営業秘密侵害品の譲渡等を行う類型(平成27年新設)

   1⃣21条1項9号


    図利加害目的で、開示に当たる行為及び違法使用行為(③)によって生産された物を、譲渡し、引き渡し、譲渡・引渡しのための展示・輸出・輸入し、又は、電気通信回線を通じて提供する行為
    ※ここで「開示に当たる行為」に具体的に該当する行為とは、、前述の下線を引いた4つの「開示」行為をいう。
    ※違法使用行為は、技術上の秘密を使用する行為に限られる。
    ※電気通信回線を通じて物の提供を受けた者が、譲受時、当該物が違法使用行為により生じたものであることにつき善意であり、当該物を第三者に譲渡し、引渡し、譲渡・引渡しのための展示・輸出・輸入し、又は、電気通信回線を通じて提供する行為は除かれる。
  ⑤海外重罰の類型(平成27年新設)
   1⃣21条3項1号


    日本国外で使用する目的で、不正な手段又は背信的行為で営業秘密を取得する行為
    ※この行為に該当する行為とは、(2)で取り上げた行為の内、点線を引いた2つの行為をいう。
   2⃣21条3項2号


    日本国外で使用する目的の相手方に、それを知って、開示に当たる行為をすること
    ※ここで「開示に当たる行為」とは、前述の下線を引いた4つの「開示」行為に、③の行為の中の「開示に当たる行為」を加えたものをいう。
   3⃣21条3項3号


    日本国外で使用する目的の相手方に、それを知って、使用に当たる行為をすること
    ※ここで「開示に当たる行為」とは、前述の下線を引いた4つの「使用」行為に、③の行為の中の「使用に当たる行為」を加えたものをいう。
  ⑥罰則規定(平成27年に罰金額引上げ)
   1⃣国内使用等(21条1項柱書)


    10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金(又はこれの併科)
    ※法人に対する両罰は、5億円以下の罰金(22条1項2号)
   2⃣海外使用等(21条3項柱書)


    10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金(又はこれの併科)
     ※法人に対する両罰は、10億円以下の罰金(22条1項1号)

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