《キングヘイローゴール!! 1着を取ったのはやはりこのウマ娘キングヘイロー! 最後は見事な末脚を見せてエルコンドルパサーを躱して行きました! いや〜会長、とても凄い物が見れましたね!》
《あぁ、確かにキングヘイローの末脚はとても素晴らしい物だった。だが、それ以上に今回のレースは彼女の作戦通りに動かせていたのが私的にはとても素晴らしかったと思う》
《おぉ、作戦通りとはいったいどういうことでしょうか!?》
《恐らくにはなるが、私が思うにキングヘイローが今回のレースで用意した策は2つ。400mを切った時点での仕掛けと、終盤の減速だな》
《ほうほう、何故その2つがキングヘイローの策だと思いになられたのですか?》
《まず、400m地点を切ったところでハナを奪いに行こうとしたシーンだが、これは明らかにタイミングがおかしい。スタートを切った直後ならまだしも、隊列もほぼ決まったレースの半ばでエルコンドルパサーから先頭を奪った所で既にもうレースのペースは作られてしまっている。自分のペースでレースを作りたいにしても、もう手遅れなこの段階で前に出ようとする理由なんてまず無いだろう?》
《なるほど、しかし実際としてはキングヘイローは仕掛けたようですがこれはどういうことでしょう?》
《いや、キングヘイローは最初から先頭を奪う気なんて毛頭無かったのだろう。その証拠に、彼女はエルコンドルパサーがペースを上げた時に対抗しようとせずすぐに諦めたのだから恐らく違いない》
《ふむふむ、しかしキングヘイローは何故そのような行動を取ったのでしょうか?》
《そうすることでエルコンドルパサーのペースを乱すと共に、後ろで集団になっていたウマ娘達を先頭の方へ移動させる。2つ目の策を使うためにはどうしてもそれが必要だったのだろう》
《2つ目の策というと、先程仰っていた減速のシーンですか?》
《あぁ、後ろに居たウマ娘が先頭まで上がってきたのを減速して風避けとして利用し、一呼吸入れてスパートをかける。しかも上手いことに体格を使って重なればエルコンドルパサーからの視界も外れて油断も誘える。エルコンドルパサーからしてみれば、最後の直線でいきなり何処からともなくキングヘイローが現れたかのように見えたことだろう》
《そして炸裂した見事な末脚! 一瞬の内に伸びてエルコンドルパサーを差し切ったのはとても素晴らしかったですね!》
《うむ、まさに困知勉行。エルコンドルパサーのように光る才は無くとも、練習を積み、作戦を練り上げ、冷静沈着にそれを実行してレースの展開を支配したキングヘイローはとてもデビュー前の新人とは思えないほどに素晴らしい。流石はGⅠウマ娘の実子であり、セクレタリアトの弟子と言えるだろう。今後とも目の離せない注目ウマ娘だな》
ゴールを駆け抜けた後、軽く息を整えつつ会場のスピーカー越しに流れてくるシンボリルドルフの解説を耳にしてキングヘイローは少しだけ頬を引き攣らせた。
「ほ、ほとんどバレてるわね……」
今回のレースで用いた作戦はシンボリルドルフが語った内容の正にその通り。これから先エルコンドルパサーのような才能のあるウマ娘に勝つためにセクレタリアトやトレーナー達と考えた策の一部ではあるが、ここまで筒抜けにされているとなると、やはり三冠ウマ娘の観察眼というのは伊達では無いことをキングヘイローは実感した。
「キングー!! よく勝ったなー!!」
「キングちゃんとっても速かったよ〜!!」
「強かったぞキングー!!」
「キング最後の差しきりとっても凄かったよー!!」
「やったねキングー!!」
シンボリルドルフの凄さを人知れず感じていると、不意に人々の声でざわめく会場を割ってあちこちからキングを賞賛する声が響き渡る。
突然の声援に驚いて周りを見渡せば、そこには嬉しそうに手を振るセクレタリアト達や、また違う場所にはキングヘイローのクラスメイト達や取り巻き達が立っていて、皆誰もが嬉しそうな笑顔を浮かべてキングヘイローのことを見ていた。
「キングヘイローさん! 私、最後のゴール前の所でキングヘイローさんが後ろからいきなり飛び出てきてとってもビックリしちゃいました! 負けちゃったのは悔しいですけど、キングヘイローさんと走れて私とっても楽しかったです!」
「ヘイ、キング! 今回はエルが負けましたが、次にレースする時は必ず勝利するから覚悟しておくデース!!」
「ぷっ、ふふ!」
「ちょ、何を笑ってるんデース!?」
「私達何か変なことでも言っちゃいましたか!?」
そして、息を整え終えたスペシャルウィークとエルコンドルパサーもキングヘイローの下へ近付いてくるや否や自分の感情をさらけ出し、2人の言葉を聞いたキングヘイローは思わず笑みが溢れた。
とても楽しそうな笑顔を浮かべるスペシャルウィークと、逆にとても悔しげな表情を浮かべるエルコンドルパサーの対比が見てて面白くて思わず吹き出してしまったというのもあるが……それ以上に嬉しかったのだ。
このトレセン学園に入る前から実の母親から『無理だ』『貴女には出来っこない』『レースで勝つなんてさっさと諦めた方が身のため』と散々に言われていた自分が、今こうして勝者の立場として立っていること……こんな才能のない自分でも、才能あるウマ娘に勝つことが出来ることに、キングヘイローは嬉しさが止まらなかった。
「ふふっ、ごめんなさい2人とも。何でもないわ」
内心に溢れ出る嬉しさを噛み締めつつキングヘイローは観客席側へと身体を向ける。
そして、息を深く吸い込み───
「さぁ、全員注目なさい!! 私こそがキング!! 一流のウマ娘として私がこれからもレースで勝つ姿を目に焼き付ける権利をあげるわ!! おーっほっほっほ!!」
マイクが無くとも会場中に響き渡る程の声量で、キングヘイローは高らかにそう宣言したのだった。
◆◆◆
「つ、疲れたわ……」
「お疲れさんキング、今日は突然悪かったな」
「キングちゃん大丈夫? 疲れてるならウララがマッサージしてあげるね!」
レースが終わった後、制服に着替えたキングヘイローはセクレタリアトとハルウララと一緒に自室へと帰って来たが、ベッドの上で力尽きていた。
「ありがとうウララさん、けど大丈夫。一流のウマ娘はちゃんとレース後の身体のフォローもバッチリだから平気よ。この学園に来てからあんな大衆の前で走ったことが無いから今は緊張した気疲れが来てるだけ。すぐに元に戻るわ」
「それなら良かった〜! ウララもね、子供の頃の運動会で沢山の人の前で初めて走った時はとっても緊張しちゃったけど、走ってたら皆から応援されたりしてすっごく嬉しかったなぁ〜!」
「そう……ウララさんは強い子ね」
褒められてえへへと嬉しそうに笑うハルウララに、優しげな笑みを浮かべるキングヘイロー。
見てるだけで自然とほっこりとする光景をしばらく眺めつつ、セクレタリアトは少ししてからコホンと喉を鳴らした。
「そういやキング、一応今回のレースなんだがチームリギルに入る選抜レースってこともあって勝ったお前はリギルに入ることも出来るがどうする? お前はまだどこのチームにも入っていないし、もし入るってんなら事前に東条トレーナーやお前のトレーナーには話してあるから、俺から2人に伝えとくが……」
「あぁ、そういえばそういうレースだったわね……」
トレセン学園において最強のチームリギル。数々のGⅠウマ娘を輩出した東条トレーナーの腕前は確かであり、入れば栄光は約束されたようなものだが───
「その話をした時、トレーナーはなんて言ってたの?」
「んーと……『キングの意見は尊重する。だが、もし彼女がリギルに入るつもりなら俺も東条さんのサブトレーナーだろうが雑用係だろうが何をしてでもリギルに関わって彼女の一流ウマ娘としての行く末を見届けるつもりだ。一流のトレーナーなら、1度でも担当を持ったウマ娘を放ったらかしにはしない』だってよ」
「そう……ふふっ、トレーナーもおばかね。リギルに入るつもりなんて最初から無いのに。私には既に一流のトレーナーが居るもの。今更他のトレーナーに任せるつもりは無いわ」
「……本当にいいんだな?」
「えぇ、一流に二言は無いわ」
キングヘイローは迷いなくリギルに入る選択を捨てた。普通なら1度も実績を積んだことのない新人トレーナーよりも、既に輝かしい実績を幾つも手にしているトレーナーを選んだ方が良いに決まっているが、それでもキングヘイローは自分の意思を曲げるつもりはなかった。
「お前もトレーナーも似た者同士だなぁ」
「一流のウマ娘と一流のトレーナーだもの。お互いに一流なのだからどこかしら似もするでしょう?」
「そういうもんかねぇ……」
柔らかく微笑むキングヘイローの表情を見て、セクレタリアトは苦笑しながら呟いた。
「そういうものよ。セクさん達だってそうでしょう? お互い変なところで頑固になってどっちかが折れるまで意地を張ったりしてるじゃない。私、セクさんとクリスさんでトレーニング方法やら作戦を練るので何回も口論してたの見てたわよ」
「あっ! ウララもそれ見たことあるよ!」
「いやそれはトレーナーが俺の話に全然納得しねーから仕方なく……あぁもう、この話はやめやめ! これ以上話してたらこっちまで恥ずかしくなってくるわ!」
「あ〜! 師匠照れてる〜! かわいい〜!」
「ふふっ、セクさんも可愛らしいところがあるのね」
「うっせ!」
頬を少しばかり赤く染めながらセクレタリアトが顔を明後日の方向に向けて話をぶった切ると、その姿を見たキングヘイローとハルウララは優しく笑った。
「あぁ〜というかそんなことよりも、実際問題としてキングはチームとかどうするんだ? トゥインクル・シリーズのレースに出るためにはチームに加入する必要があるが、キングのトレーナーはチームを作ってないんだろ?」
「そうね……チームを作るためには最低でも3人以上必要だけれど、トレーナーは私以外のウマ娘を同時に担当するような器用な真似は出来ないでしょうから、自分達で作るにしても難しいわね……最悪、名前だけを借りて私1人だけのチームを作ることも出来るけど、そんなことしたらバレた時がタダでは済まないし何より一流のウマ娘としてそんな行為は受け入れられないわ」
あくまでも一流のウマ娘として正々堂々とした行いを好むキングヘイローはそう語ったが、その顔には悩ましげな表情が浮かんでいた。
ウマ娘である以上レースには出たい。しかし、レースに出るためには前提条件としてチームに加入する必要がある。
1番手っ取り早い解決策としてはどこかのチームに加入することだが、それをすると今契約しているトレーナーとは契約を破棄し、そのチームの担当トレーナーと契約を新しく結ぶ必要があった。
キングヘイローとしては今のトレーナーから他のトレーナーに鞍替えするつもりは毛頭ない。ならば逆に自分でチームを作ればいいという話になるが、キングヘイローのトレーナーはまだ誰も担当のしたことの無い新人トレーナーである為、そんなトレーナーのお世話になりたいというウマ娘はまず居ない。
クリストファーから教わっているものの、キングヘイローのトレーナーに複数のウマ娘の面倒を見る技量まだ無い。その点を踏まえてどうするべきかキングヘイローが悩んでいると、セクレタリアトはニヤリとした笑みを浮かべた。
「なぁ、キング。それとウララ。俺達でチームを作らねぇか?」
「えっ……?」
「ほぇっ?」
突然の誘いにどういうことかとキングヘイローとハルウララはセクレタリアトへ顔を向けた。
「前から思ってたんだ。キングがどこのチームにも入ったりしないなら、俺とウララとキングの3人でチームを作りたいって。チームトレーナーをクリスおじさんにして、サブトレーナーをお前のトレーナーにすればチームとしては登録できる。練習も今まで通りにすれば特には何も問題無いしな」
「それはそうだけど……そもそもセクさんは既に引退しているのでしょう? なのにチームを作ることが出来るの?」
「あぁ、それについて前に確認してみたら色々とめんどい条件はあるが登録自体は出来るそうだ……それで、2人ともどうする?」
いつにもなく真剣な表情でそう語るセクレタリアトにキングヘイローとハルウララは───
「師匠とキングちゃんと一緒にチーム作れるなんてとっても嬉しいよ〜! うっらら〜♪」
「そういうことなら是非ともよろしくお願いするわ」
「はやっ」
即答でそう返し、あまりの早さにセクレタリアトは一瞬だけポカンと口を開けて呆けたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべた。
「よし、そうとなれば今からチーム名決めっぞー!」
「おー!!」
「えぇ、キングに相応しい名前を付けてあげるわ!」
そうして、3人は夜遅くまでチーム名を考え続けたのだった。
ちなみに作者は今回のキングの取った作戦を学生の頃のマラソン大会で友達と勝負した時にゴール前でやられ、悔しかった思い出が10年近く経った今でも覚えてます……いや、後ろに居たやつの影に隠れてたらパッと後ろ振り向いたぐらいじゃ分からんから油断するて……。
あと最近ウマ娘のゲーム配信からVTuberを知って沼りました。ストーリーとか既に知ってるのに人が泣いてる所見ると釣られて泣けるの何なんでしょうね……某魔女さんほんとすこ
追記
今作のチームを作るための最低人数ですが、原作の5人以上必要から変更してあります。
カノープスも4人なのにチーム作れてるので正確な設定はよく分からないですけど……とりあえず今作では3人以上が必要ということにしてありますのでよろしくお願いします。