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バスタード・ソード考

作者:片手半剣人

 本文は刀剣解説ではありません。バスタードソード=この世界とは異なる『中途半端な剣』という設定が説明を簡略化するために現実世界のものを導入するのとは少々異なるのではないか。同じ名前で意味が違う、なら最初から違う名前か『中途半端な剣』『剣』でよいのではということです。


 バスタードソード自体、少なからぬ作品に登場していますから、同名で異なるオリジナル性はどうなのという問題提起です。

バスタード・ソードはそうじゃないだろ~腰ハルを忘れないでください


 ご無沙汰しております皆さん、片手半(かたてなか)剣人(けんと)と申します。昨年末「ハルムベルテ小篠」と名乗っていた者です。


 さて、今回はとある作品に登場した「バスタード・ソード」なる武器に対して少々思うことが有ったので投稿いたします。でも、作品自体は大変面白いと思います。


 既に数十話投稿されている作品ですし、「この世界ではそういう設定なんだよ」と居直られると面倒なので、感想欄などで問題提起しブロックされると言った愚行は最初から避けておこうかと思う次第です。(当該作品は感想の返信をしていないこともあります)





 さて、このお話の冒頭、『バスタード・ソード』が以下のような趣旨で説明された上で「中途半端な長さの剣」と揶揄されます。


 曰く


 ショートソードと比べると幾分長く、細かい取り回しに苦労する剣

 ロングソードと比べればリーチが物足りず、打ち合いで不利な剣


因みに、その当該作品の感想には


「『魔力で身体強化できるのでこの世界ではロングソードがクッソ長い』という設定が前提にあるので地球と異なる文化がちゃんと設定してあるというハイファンタジー的には褒めるところゾ。何なら文章では短い短いと言われ続ける主人公のバスタードソードも実測何cmなのかは実は分からん」


とあったりします。なので、この世界のロングソードがどのような武具なのかはよく分かりません。クレイモアくらいなのでしょうか。


 




 さて、賢明な読者の皆様、問題がお分かりになりましたでしょうか。もし、分からなかったとしても何も問題ありません。剣の名称なんてのは雰囲気づくりのための小道具なんですから。『剣』で十分なんですよ。では、ちょっと考えてみてください。



















 はい、では私見を述べさせていただきます。


 バスタード・ソードは何をもってバスタードなのかということですね。当該著作の設定ではなく、一般的歴史的認識として書いています。なので、「作品の内容と違う」ということではありません。当該作品のロングソードが長いってどのくらいなんでしょうね。


 さて、Wikiから引用させていただくとするならば、以下の二通りの分析があります。


A 「片手剣」と「両手剣」の間の剣


B 斬撃に適した「ゲルマン系」と刺突に適した「ラテン系」の間の剣


 AもBも剣技・その戦術に影響を与えられた結果であり、長さの問題ではないということです。


 そして、中途半端な長さでもありません。


 因みに、手元にある『武器事典』市川定春著 新紀元社刊 においてはAを『ハンド&ハーフソード』=片手半剣と表現し、Bをバスタードソードと説明しています。


 これは、『バスタード』が「庶子」「非嫡出子」「私生児」という意味だけでなく「雑種」というニュアンスがあるからです。つまり、刺突剣と斬撃用の剣で異なるものを兼ねて使えるようにしたという意味です。


 作品的にはスラングの「ロクデナシ」「糞野郎」といったニュアンスを掛けているのかとは思います。映画のセリフなどで『You Bastard!!』などと叫んでいるあれです。主人公が混血児(敵対する二国の)という意味もあるかもしれません。


『武器事典』に登場するバスタードソードは『小烏丸』のように、切っ先が両刃になっている剣として描かれています。



ちなみに、ここに登場した剣について『武器事典』に記載される簡単なスペックを乗せておきます。


【ロングソード】1050-1550年・長さ80-100cm・重量1.5-2.5kg


【ショートソード】1300-1500年・長さ70-80cm・重量0.8-1.8kg


【ハンド&ハーフソード】1200-1700年・長さ110-150cm・重量2.2-3.5kg


【バスタード・ソード】1400-1500年・長さ115-140cm・重量2.5-3.0㎏


*【ツーハンデッド・ソード】1200-1600年・長さ180-250・重量2.9-7.5kg


 ツーハンデッド・ソードあるいはツヴァイハンダーは両手で持ち斧のように旋回させて叩きつける独特の操法を持つ剣の形をした長柄武器です。槍のように剣の中ほどと柄を握り刺突したり、切っ先側を握り護拳の部分でウォーピックのように叩きつける攻撃も行う白兵用の装備になります。


 サイズ的に言えば、ロングソードとツーハンデッドソードの中間がバスタードソードとなるでしょうか。


 ロングソードは片手剣ですから基本。だって騎士の剣でしょ? 両手で持つことを前提に作るわけないじゃないですか。手綱どうすんの?






【日本人に分かりやすい? ロングソードとショートソードの違い】


 最初に結論。


 ロングソード=太刀


 ショートソードあるいはバスタードソード=打刀


 ツーハンデッド・ソード=長巻あるいは斬馬刀


 です。


 日本の歴史で言えば、平安・鎌倉の騎乗戦士である『武士』が装備した刀が『太刀』です。片手で操ることを前提とした反りが大きく軽めの刀です。重心が手元にあるので取り回しが良いのが特徴だとか。


 これが十字軍時代から百年戦争初頭まで主に使われる『ロングソード』とよく似た用法の剣です。


 ただし相違はあります。


 日本の場合、『弓馬の術』が主とされるため、鎧は矢を防ぐことに重点をおいた「大鎧」となります。これに対し、ロングソードの時代の鎧は『メイル』と呼ばれる鎖帷子になります。


 この鎖は鉄輪を組み合わせたもので、強く叩くことで『割る』ことができる代物です。あるいは、強く矢や槍が突き刺さると、輪が歪んで突き通ることがあります。


 なので、斬撃というより斬撃の軌道を持つ打撃技としてロングソードは用いられたわけです。勿論、下馬戦闘時両手で握り込めるように柄頭に工夫が施され、握り込めるように加工されています。ですがこの時代、片手剣に盾が騎士の装備ですので、ロングソードは基本片手剣なのです。





 その兵器の運用形態が変わるのは百年戦争の前期です。


 英国の長弓兵がフランスの重装騎兵を打ち負かしたとされる二つの戦い。クレシーの戦い・ポワティエの戦いですが、この戦いは野戦築城した英国の防御陣地に騎兵を突撃させた結果、天候・地形の影響もあり設楽原の合戦よろしく大いにフランス軍が打ち負かされた戦いとなります。


 この時代になると、『コートオブプレート』と呼ばれるメイルの上に羽織る板金を鋲止めした革のコートを着用するようになり、やがて、胸や肩、肘や籠手や脛を部分的な板金鎧で防御するようになりました。


 すると、斬りつけても鎧は割れ無くなります。また、馬上ではさして気にならない長さの剣も、徒歩立ちになり吊るすとなれば、ある程度短くなければ帯剣し戦場を往来できなくなります。


 また、戦列を組んで重装歩兵のように騎士が戦うようになると、振り回す剣より、鎧の隙間を狙う刺突用の剣が主流となっていきます。


 これは、日本のにおいては『足軽』が戦の主力となる南北朝以降の『打刀』と『長槍』あるいは『火縄銃』の組合せに替わっていく様相と似ているかもしれません。





 バスタード・ソードは馬上での戦いと下馬しての歩兵戦闘の両方で扱える装備として考えられたものです。え、長くないかって? 騎士には槍持ちや従卒が付いて回っています。つまり、本人が腰に帯剣するのではなく、長いものならば従卒が必要な時に手渡すものなのです。そもそも、鞘は二人掛でないと抜けませんしね。主が柄を持ち、引き抜く際に鞘を従者が持っているという感じです。馬上なら長くてもさほど気になりません。


 その際、従者の腰にはショートソードが帯剣されている事でしょう。





 作者が言葉の意味をどう定義するかは自由だと思いますが、『ライトセイバー』のような完全創作ならともかく、『ロングソード』も『バスタードソード』も既存の名称として認知されているわけですから、もう少ししっかりとした設定を物語の中で描いてほしかったと思います。


 ショートソードと比べるとリーチが長く、打ち合いで有利な剣

 ロングソードと比べれば幾分短く、細かい取り回しに有効な剣


 という考え方もあるじゃないですか。


 身体強化すると武器の重さは無視できるかもしれませんが、手元に重心がある分、同じ重さなら先端に重さのある長柄武器の方が有利なのは自明です。現実の世界において剣は拳銃と同じ扱いで護身用です。

 剣の系譜及び、腰にハルバードは無理な話をリンクしておきます。興味がある方はご一読ください。今回も作者様に声は届かないでしょうが、まあ、なろうならありなんでしょうね。


 一部当該作品には「ロングソード」の定義がなされており、遠間から攻撃するための剣なるお話がありますが、一般的に考えて全金属製の剣で遠間から攻撃するってどういうこと? それならグレイブとかハルバードとか長柄武器あるじゃん? 剣には剣固有の能力(重心が手元にある為コントロールしやすい)という利点が存在します。馬鹿長い剣というのは、そのメリットを消してしまうことになるため、洋の東西を問わず、片手剣は80-100cm程度におさめていると思われます。


 まあ、そういう設定・世界観だからいいのですが、なら実際に存在する「ロングソード」や「バスタードソード」など使わず、インペリアルソードやコンバインドソードとか適当に設定すればよいと思います。ロングってなんぼ?ってわかりませんよね。


(追記) 感想欄でいただいた「ぽる様」のご指摘いただいた「オークショットの刀剣類型」のWikiページ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AE%E5%88%80%E5%89%A3%E9%A1%9E%E5%9E%8B


 10-15世紀(中世)の刀剣分類です。この中にバスタード・ソード確かにあると思います。中途半端じゃないけどね。

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