朝に起きたら消します
「ーっんぅ、あっ、ト、レー、ナぁ、あ…っー」
月明かりだけがその姿を照らす某地方トレセン、本当は誰もいないはずのトレーナー室から微かに漏れる喘ぎ声が一つ。
ソファの上、ウマ乗りになっているターボの顔が離れると共に絡めあっていた舌がだらんと垂れ、彼女と俺の間にてらてらとひかる唾液の橋をかけて重力に逆らうことなく勝負服に垂れる。上がった息を整える暇もなくまたゆっくりと彼女が動き始める。
「ーねぇトレーナー、ターボちゃんと気持ちよくできてるかな?」
昔の彼女からは考えられないような嫌に自分に自信のない口調。媚びるような、いや何かやってしまった子供が許しを乞うようなそんな声色。中央にいた頃は考えられないようなそれが胸を鋭く突き立てる。
「……うん、大丈夫」
からからになった口から絞り出した出涸らし。だがそれを聞いたターボは無意識に背中に入れていた力が抜けて口角もどこか緩む。それと連動して深くなった腰の浮き沈みと「ぐちゅ…ぐちゅ…」と粘度を増した液体が擦れる音に本能が反応する。
『トレーナー!二人でどんなG1勝つ!?ダービー?有馬記念?それともが、が…がい…凱、旋門、賞?か!』
『もちろん決まってる!全部取りに行くぞ!!』
いやでも勝負服から匂う混ざり合った汗の匂いがいつの日か二人でG1を勝とうと約束したあの日の思い出を下卑た快感で塗りつぶす。
『よく言った!それでこそターボのトレーナー!!よーしみんなにも、トレーナーにも勝ちを上げるからな!』
いつかこの服を着たターボと笑顔で優勝カップを掲げようと決めた覚悟が体を重ねるたび薄れていく。
「とれー、なー、まだ、き、もちよ、んぅ!、きも、ちよ、くなっ、てなあっー」
ターボの頬が少しずつ上気し、キュンキュンとした締め付けがさらに強くなってくる。今日はいつになく強い絶頂を迎えようとしているのだとなんとなく感じ取る。だがそれを拒否するかのように体を強張らせ歯を万力で食いしばる。
健気にも俺も絶頂を迎えるまで堪えようとしているらしい。
「大丈夫、そろそろイきそう。だからちょっと動くけどごめんな」
何が大丈夫だ、教え子がこんなことになって、挙げ句の果てには体を重ねることまで許して。安心させるためと言いながらこんなアプローチだなんて反吐が出る。
無意識に握りしめていた拳をほどき上体を起こす。腕周りの一つも二つも小さい女の体をこちらの体が苦しくなるほど抱きしめて腰を突き上げる。
パンパンと肉がぶつかり合う音が響き始め強い快感が本能に火をつけ、はっきりとした理性の裏で快楽を満たそうと痛いほどに膨らむ。
目を白黒させながら
「ターボッ!出すよ!」
「うん!来てっ!来てっ!んぅぅっー」
我慢できなくなったそれを奥に押し付け、万力で抱きしめる。
真っ白な奔流が快楽と共に一切の思考を押し流す。気をやったのか堰を切った絶頂に耐えられなかった彼女からはわずかに掠れた声しか聞こえない。
2、3分もしただろうか、罪悪感と快楽でぐったりとした体を起こし未だ忌々しくも硬さを失わないそれをずるりと引き抜いてソファに沈んだターボの顔を覗き込む。
目を閉じてすぅすぅと寝息を立てるその顔はこちらに移籍してから、事後のこの時間しか見ることのできないリラックスしたものだった。
少しでも彼女の心の支えになったのなら良かったと思う反面教え子にこんな手段を取らないとリラックスさせることも満足にできないのかと拳に爪を食い込ませる。
…ターボの顔を見るたびに芽生えるずっと自分の元にいるのならずっと幸せにできるなんて傲慢と独占欲がない混ぜになった感情、絶対に否定しないといけないのに
「絶対に幸せにする方法を見つけてやるから…だから失望しないでくれ…ターボ…」
そう、口に出た。